オーストリアの新型コロナウイルス対策は8日からいよいよ正念場を迎える。コロナ対策の2Gがスタートするのだ。レストラン、ホテル、喫茶店、美容院、病院、フィットネスセンターの利用から、コンサートなど文化行事（25人以上集まるイベント）に参加できる人はワクチン接種者か、コロナ感染回復者に限定され、非ワクチン接種者は門前払いとなる。
（「3G」とは、ワクチン接種証明書（Impfzertifikat）、過去6カ月以内にコロナウイルスに感染し回復したことを証明する医者からの診断書（Genesenenzertifikat）、そしてコロナ検査での陰性証明書（Testzertifikat）だ。ドイツ語で「Geimpft」「Genessen」そして「Getestet」と呼ぶことから、その頭文字の「G」を取って「3G」と呼ばれている。2Gとは、ワクチン接種証明書か回復証明書を有する場合を意味し、陰性証明書ではレストラン等へ入れなくなる）
連邦政府関係者と州代表が集まってコロナ対策で緊急会議が開かれた（2021年11月5日、連邦首相府で、オーストリア連邦首相府公式サイトから）
オーストリア政府は5日夜、シャレンベルク首相、コグラー副首相、ミュックシタイン保健相、それに9州の州知事らを結集し、緊急会合を開催、8日から2Gを連邦全土で施行することを決定した。新規感染者数が急増するとともに、病院入院患者数、集中治療室（ICU）患者数が急増してきたことを受けた対応だ。同国では先月22日夜、感染対策として5レベルから成る段階的プランを決定したが、今回の決定はレベル2、3、4を同時に施行する内容となる（「ワクチン非接種者は外出制限措置に」2021年10月25日参考）。
オーストリアでは過去3日間、新規感染者数が4日8593人、5日9388人、そして6日には9943人となり、新型コロナ感染が始まって以来、最高となった。入院患者数は1865人、集中治療室患者は359人に膨れ上がった。死者は31人。医療崩壊からはまだ遠いが、新規感染者数が1万人の大台に突入するのは時間の問題であり、特に、集中治療室患者が300人を超えたことで病院側の主要能力にも赤ランプが灯されてきた。同国ではパンデミックが始まって、新規感染者数は2020年11月13日の9586人が最高だった。その後、第2ロックダウン（都市封鎖）がスタートしたことで、オーストリアでも第4ロックダウンが実施されるのではないかという声が聞かれ出した。
シャレンベルク首相は5日夜の記者会見で、「政府としてはロックダウンを回避したいのだ。そのためにはコロナ規制を再強化し、3Gから2Gに規制を強化せざるを得なくなった」と説明し、ワクチン接種をしていない国民に対し、接種するように呼びかけた。
ミュックシュタイン保健相によると、これまでワクチンを接種しなかった国民が接種すれば、今回は例外として、1回目の接種を受けた国民は4週間後に第2回目のワクチン接種を受け、ワクチンの効果が発揮されるまでＰＣＲ検査を受けるならば、ワクチ接種者と同等とみなされ、レストランや理髪店などに入ることができるという。
政府の2G開始が発表されると、6日、ウィーン市やザルツブルク市などでワクチン接種者が急増し、保健関係者も対応に苦慮しながらも嬉しい悲鳴をあげていた。今回初めてワクチンを接種した若い市民は「ワクチンを接種しないと、レストランも入れなくなリ、友人と会ってコーヒーも飲めなくなるから大変だ」と述べていた。なお、職場や仕事場はこれまでの通り、3Gで可能という。そのほか、ショッピングセンターや小売店ではこれまで通り、ＦＦＰ2マスクの着用が義務づけられる。
政府はワクチンの接種を拒否してきた国民が今回の決定を受け、接種に積極的になるのではないか、と秘かに期待している。ちなみに、ワクチンパスの有効期間は1年間から9カ月に短縮され、2回目接種者は6カ月が経過すれば、3回目の接種を受けるように求められている。
オーストリアは観光業が重要だ。ウィンター・シーズンに入り、チロル州やザルツブルク州では国内外からのスキー客が殺到する。2Gが開始されれば、スキー客が少なくなるのではないか、という懸念の声が聞かれる。コスティンガー観光相は、「コロナ感染でわが国の観光業界は大きなダメージを受けてきた。ワクチン接種が始まり、観光業界も希望をもってきた。今回の感染急増で観光業界が更に規制されるようなことがあれば、わが国の観光業界はもはや回復できなくなるだろう」と悲壮な思い込めて語っていた。
野党「社会民主党」のパメラ・レンディ＝ワーグナー党首は、「政府は夏の時季に、予想されていた秋以後の感染者急増への対応を怠ってきた。コロナ感染は今後も続くことが明らかだから、ワクチン接種率を高めるために努力する一方、連邦全土でICUベット数とその主要能力の拡大が急務だ」と指摘、極右「自由党」は「2G規制はワクチンを接種者をレストランやコンサートから追放する政策だ」と激しく批判している。
欧州のキリスト教社会では最大の祝日クリスマスが近づいてきた。それだけにクリスマスが到来する前にコロナ感染の急増にストップをかけないと大変なことになるという思いが政治家にも国民にもある。今回の2G導入はコロナ規制始まって以来の最強の対応だ。過激化してきたコロナ規制反対者の動向が気になるところだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年11月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
