会長・政治評論家 屋山 太郎
炭酸ガス(CO2)を根絶させるため、各国は化石燃料からの撤退に懸命になっている。大国の中では中国が最も横着で動きが遅い。だがその中国でさえ「2030年までにCO2排出量をピークアウトさせ、2060年までにカーボンニュートラルの実現を目指す」と習近平主席が20年に国連で演説した。
口約束はあまり信用できないが、いずれ二酸化炭素を出す燃料で生産した製品に不買運動が起こるのは必死だ。またその事業にカネを貸す金融機関はいなくなるだろう。すでに化石燃料を手掛ける企業から投資資金を引き揚げるダイベストメント(投資撤退)を表明した年金基金や大学、自治体等がここ5年で2倍に増え、世界で1500を超えたという。その運用資産の総額も約40兆ドル(約4600兆円)に上る。化石燃料からの撤退のスピードが早すぎると電力不足を生じさせる。撤退と開発を両立させるバランスが求められるだろう。
またガソリン自動車にとって代わるのはEV(電気自動車)だ。各国ともいずれEVが席巻するはずだが、そうなればガソリンスタンドは不要になる。電源を家庭用電気から取るようになるからだ。ガソリン車はエンジン部分にノウハウが集約されていたが、電気モーターとなれば職人も不要となる。こうして産業構造も大きく変わってゆく。
日本政府が示した2019年度の電源構成は液化天然ガス(LNG)37%、石炭32%で、これを2030年度にはそれぞれ20%、19%にする計画だ。ヨーロッパは、将来は太陽光と風力中心に持って行くつもりのようだが、フランスは電源構成で現在75%の原子力を減らさないようだ。日本の原発は19年で6%だが、30年には20~23%に高めるという。日本は欧米ほど太陽光や風力を好まないから、再生エネルギーを36~38%まで持って行く計画は無理ではないか。私の“実感”では日本の気候と欧州とは全く違う。雨は降らず、大西洋からの偏西風が常に心地良い地域と、常時台風が襲来する日本とは全く条件が異なる。
萩生田経産相は、二酸化炭素を回収して地中に埋める事業を推進しているが、地震で岩盤に穴が開けば一発で終わりではないのか。それより米国と共に始めるという「高速炉開発計画」を推したい。米原子力新興企業テラパワー社と日本原子力研究開発機構、三菱重工業の三社の共同事業になる。
福島原発事故で、原子力の開発が危険だという世論が盛り上がったが、福島原発は補助電源設備を地下に置いたのが致命傷で事故につながった。設計は米国企業であり、地震の知識が無かったが故の事故だと専門家は言う。東北電力が女川半島に作った原発は津波を想定して作っており、住民の避難場所ともなった。日本の原子力反対派の中には外国の思惑により政治目的で動く分子もいる。日本に長年に亘って原発を作らせない思惑で恐怖心を煽るのである。エネルギーの構造改革で失敗すれば、二流国への転落は必至だ。
(令和4年1月12日付静岡新聞『論壇』より転載)
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屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2022年1月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。