毎年1月に召集される通常国会は、総理による施政方針演説とそれに対する代表質問で幕を開けます。(臨時国会や特別国会では所信表明演説と呼ばれ、区別されます)
岸田総理にとって初となる施政方針演説に対して、国民民主党を代表して質問しました。昨年の臨時国会に引き続き、総選挙で掲げた公約を一つでも多く実現するため、政策提案型の改革中道政党として具体的な政策を提案し続けます。
第208回国会における岸田内閣総理大臣施政方針演説に対する代表質問
令和4年1月20日
玉木雄一郎(国民民主党・無所属クラブ)
国民民主党代表の玉木雄一郎です。総選挙で約束した公約を一つでも多く実現するため、この国会でも「改革中道政党」として「対決より解決」を実践します。特に、公約の柱である「給料が上がる経済」を実現するため、全力を傾けてまいります。
聞く力
さて、岸田総理は「聞く力」を売りにしておられますが、私もツイッターとYouTubeで総理にぶつける質問を募ったところ、3日で1万人弱の方からコメントをいただきました。聞く力では総理に負けていない自負があります。声を寄せていただいた皆様にこの場を借りて御礼を申し上げます。岸田総理におかれては、私の質問も国民の声として聞いてください。
10万円給付は所得制限なしで
ツイッターでは、特に10万円給付の所得制限をやめてほしいという意見が多く寄せられました。児童手当の所得制限もやめてほしいという声もありました。「#所得制限は出産制限」とのハッシュタグもできたほどです。子育て世帯はみんながんばっています。
地方創生臨時交付金を活用し、独自に所得制限なく給付する地方自治体もありますが、例えば東京都23区の中には半数以上の世帯が給付対象外で、所得制限をなくそうにも臨時交付金が足りず、できないところもあります。住む地域によってもらえる子どもともらえない子どもが分かれるのはおかしい。総理、所得制限があることで、出産や子育てにマイナスになっているなら、所得制限を撤廃すべきです。
「子育て・若者世代の所得を引き上げる」「中間層を維持」というなら、国として所得制限なく全ての子どもに給付すべきではないですか。
クーポン5万円ですが、実際にクーポンを配ったのは約1,700自治体のうちたった7つです。クーポン給付にかかる事務費用967億円は、どれだけ使われ、どれだけ余っているのでしょうか。余っているなら所得制限撤廃のための財源に回してください。
そもそも、子育て支援であれば、今回のような1回だけの給付ではなく、中学卒業までとなっている児童手当を、高校卒業まで拡充すべきです。
国民民主党は選挙公約の5本柱の一つ「人づくりは国づくり」の具体策として提案しています。総理、「子育て・若者世代の所得を引き上げる」「中間層を維持」というなら、児童手当を高校卒業まで延長しませんか。さらに、今回の10万円給付だけでなく、児童手当、幼児教育無償化、私立高校無償化などの所得制限も撤廃しませんか。できないなら、せめて年少扶養控除を復活させてください。
トリガー条項の凍結解除によるガソリン値下げ
総理、再びガソリン価格が上昇しています。移動を車に依存せざるを得ない地方からも、なんとかしてほしいとの声がたくさん届いています。ガソリン価格に上乗せされているリッター25.1円の税金を減税する「トリガー条項」の凍結解除を、今こそやるべきです。
国民民主党が日本維新の会と共同提出した法案に賛成していただければ、来月2月1日からガソリン価格をリッター25.1円、下げることができます。給料が上がらない中、生活必需品の価格が続々と上がっているからこそ、ガソリン価格を引き下げるべきです。総理の決断を求めます。
病床確保のための感染症法改正
コロナ対策について伺います。岸田政権のコロナ対策のゴールは何ですか。病床のひっ迫を回避し、死亡者や重症者を減らすことを最優先にするなら、病床確保に関する国や知事の権限を強化する感染症法の改正こそ、この国会でやるべきです。なぜ最も大切な法改正を先送りするのですか。
必要な立法措置も講じず、効果があるかどうかよく分からない飲食店の時短要請や人流抑制をお願いするだけでは、国民の理解は到底得らません。そもそも、まん延防止等重点措置の飲食店への時短要請は、オミクロン株対策として効果があるのですか。
感染は止める、社会は止めない
国民民主党は年明け早々の1月7日に緊急提言をとりまとめ、先週、厚生労働大臣とワクチン担当大臣に対し、「感染は止めるが、社会は止めない」ための対策を強く要請しました。ワクチン3回目接種、飲み薬、毎日検査の3つが鍵です。この3つがあれば、まん延防止等重点措置は避けられたはずですが、間に合わず残念です。しかし、今からでも3つの対策を急ぐべきです。
第一に、発症予防効果、重症化予防効果のある3回目のワクチン接種です。英国保険当局の報告などによれば、2回目接種から5か月ほどで発症予防効果が10%未満に低下します。2回目接種からの間隔を「原則5ヶ月」に短縮し、そのために必要なワクチンの確保に全力を傾けるべきですが、できていないのではないですか。
第二に、死亡・入院リスクを下げる飲み薬も重要です。経口治療薬を医療現場に3万人分を届けたとのことですが、160万人分の1.88%に過ぎません。「経口薬へのアクセスの確保を徹底します」というものの、遅すぎます。160万人分の残りと、月内に合意するとされる200万人分が全て現場に届くのはいつになりますか。スケジュールを明示してください。
第三に、自分がコロナ陰性であることを日々確認できる毎日検査です。英国では、PCR検査や抗原検査による毎日検査で陰性であれば、濃厚接触者でも自宅待機しなくていいルールになっています。我が国でも医療従事者については、毎日検査を条件に濃厚接触者であっても勤務できるようになりました。総理、今のままのルールだと、感染者が増えるたびに経済・社会活動が止まってしまいます。英国と同様に、我が国でも毎日検査を条件に、濃厚接触者であっても仕事や活動ができるようにしませんか。
不十分で遅すぎる補償や支援策
まん延防止等重点措置が出るのに、事業者や個人に対する支援策があまりにも不十分です。月次支援金は昨年10月分で打ち切りになっていて、岸田政権の看板政策「事業復活支援金」は、いまだに申請すらできません。
住民税非課税世帯への10万円給付も来月あるいは再来月から申請開始の自治体が多いと聞きます。これも遅すぎます。必要な人に必要な支援はいつ届くのでしょうか。
また、生活再建までの生活費を月20万円まで貸し付ける総合支援資金についても、岸田総理は総裁選中に3ヶ月分延長して12ヶ月分に拡充するとおっしゃっていましたが、今こそ実行すべきではないですか。貸付枠を3ヶ月分拡充できなくても、せめて昨年末で締め切られた再貸付の申請期限を今年3月末まで延長してもらえませんか。
演劇や音楽コンサートなど日本のエンターテイメント産業は、コロナで瀕死の状態に陥っています。収入の9割減が2年も続いているところもあります。一方、韓国のエンターテイメント産業は海外進出により大きく成長しています。今のままでは日本のエンターテイメント産業が消滅してしまいます。この危機を乗り越えるため、官民挙げてエンターテイメント産業に対する支援をさらに強化すべきではありませんか。
地方のバス、鉄道事業なども瀕死の状態です。こうした公共交通機関の利用そのものが感染拡大につながったという科学的な証拠はあるのでしょうか。今のままでは地域のバス路線などは持ちません。政府としてどのような対応を考えているのか、総理の見解を伺います。
オンライン国会を実現
民間にリモートワークを促しているのに、この国会の本会議場はご覧の通り、相変わらずの「密」です。
国民民主党は、オンライン国会を可能とするため、議院運営委員会にて「議場にいない議員は表決に加わることができない」としている衆議院規則の改正を提案しました。オミクロン株が拡大する中、自民党にも規則改正に協力していただけませんか。
また、憲法56条の「総議員の3分の1以上の出席」がオンライン国会の制約となるのかの憲法解釈についても、憲法審査会で議論し、明らかにしていくつもりです。
「賃金デフレからの脱却」に全力
米国でも欧州でも韓国でも給料が上がる中、日本だけが4半世紀にわたって給料が上がっていません。私たち国民民主党はこの「賃金デフレ」こそが日本経済最大の課題と考えます。
そこで、私たが選挙公約として掲げたのが「給料が上がる経済の実現」です。岸田総理とこの議場にいらっしゃる与野党の議員の皆さんに私から提案があります。この国会を、賃金、給料を上げることに与野党を超えて知恵をしぼる「賃上げ国会」、「給料を上げる国会」にしていこうではありませんか。
私たち国民民主党は、4%の名目賃金上昇率、4%の経済成長率、4万円台の日経平均株価の「3つの4」を政策目標に掲げ、給料が上がる政策を提案していきます。4%成長が18年続けば、給料は倍になります。所得倍増は夢物語ではありません。自民党総裁選で掲げた「令和版所得倍増」を諦めることなく、岸田内閣として、例えば、20年間で日本の賃金水準を倍にするという中長期のビジョンを示してはいかがですか。
昨年の企業物価指数は4.8%で過去最大の伸びでした。米国がインフレ抑制のために金利を上げれば、さらに日本の物価が上がります。総理には物価が上がるのに給料が上がらないという国民の悲鳴は聞こえていますか。物価は上がるのに経済は低迷する「スタグフレーション」の懸念が高まっているのではありませんか。
物価目標2%は、安倍政権発足後間もない2013年1月に発表された政府と日銀による共同声明に盛り込まれています。岸田内閣は、この共同声明を引き継いでいますか。そして2%を達成したら、金融緩和を縮小するつもりなのか、あわせてお答えください。
円安による原材料価格の上昇に起因する物価上昇は、必ずしも経済回復を反映した物価上昇ではありません。国民民主党は、「給料が上がる経済」の金融政策として、名目賃金上昇率が一定水準に達するまで金融緩和を継続すると選挙公約で提案しました。つまり「賃金デフレ脱却」を金融政策の目標にすべきと考えますが、総理の見解を伺います。
コロナ禍からの回復局面で財政健全化、プライマリーバランスの黒字化にこだわり過ぎて、景気回復の腰を折るようなことはあってはなりません。国民民主党は、「給料が上がる経済」の財政政策として、政策目標をプライマリーバランスの黒字化ではなく、名目賃金上昇率にすることを選挙公約で提案しました。つまり、「賃金デフレ脱却」を財政政策の目標にもすべきと考えますが、総理の見解を伺います。
賃上げの大前提は、積極財政による脱デフレだと考えます。国民民主党は、名目賃金上昇率が一定水準を上回るまで消費税を5%に減税する法案を国会に提出しています。家計負担の上昇を防ぎ、消費減退を防ぐためにも、「賃金デフレ脱却」が確実になるまで消費税を減税すべきではありませんか。
介護従事者の待遇改善が急がれます。しかし、今回の賃上げは「介護職」に限定されており、機能訓練指導員、生活相談員、管理者など「介護職」以外の介護従事者は対象になっていません。これら介護従事者全体を賃上げの対象とすべきと考えますが、総理の見解を伺います。
また、今後、都市部での介護従事者の確保が極めて困難になると予想されています。そこで、東京都は「介護職への家賃補助」制度を導入予定ですが、これを全国レベルで導入してはいかがでしょうか。総理の見解を伺います。
「新しい資本主義」の鍵は「人への投資」
岸田総理の掲げる「新しい資本主義」成功の鍵は「人への投資」だと考えます。岸田総理は、国民民主党が従来から提案しているように、「人への投資」を倍増すると施政方針演説で述べました。それ自体は評価しますが、令和4年度当初予算案で文教科学技術振興費は微減となっており、言っていることとやっていることが矛盾しています。倍増と言いながら、なぜ文教予算を減らしたのか、いつまでに何をどう倍増させるのか、明確にお答えください。
国民民主党は、選挙公約の柱として「積極財政への転換」「人づくりは国づくり」を掲げ、教育国債の発行などを財源に、児童手当の高校卒業までの延長、給食費、教材費を含めた完全無償化を所得制限なく実現することを提案しています。
過去2回の代表質問でも、財政法改正による「教育国債」の創設を総理に提案しました。総理は「安定財源の確保あるいは財政の信認確保の観点から、慎重に検討する必要がある」と木で鼻をくくったような答弁しかしていただけませんが、高齢化に伴う年金や医療などの自然増が増える中で、教育国債の発行もせず、どのように「倍増」の財源を確保するのか、具体的に示してください。
デジタル田園都市国家構想が描く国家像とは
デジタル田園都市国家構想について伺います。「田園の安らぎと都市の快適さを融合する」という、大平正芳元総理が1980年に打ち出したコンセプトには大賛成です。しかし、施政方針演説を聞いても、個別政策が列記されているだけで、この構想でめざすべき国家像が見えません。
岸田総理がデジタル田園都市国家構想で目指す国家像はどのようなものか、答弁を求めます。
必要なのは「総合安全保障」
岸田内閣が進める経済安全保障の重要性を否定するものではありませんが、エネルギー安全保障や食料安全保障の観点が相対的に弱いと言わざるを得ません。今、必要なのは、大平正芳元総理も提唱した「総合安全保障」ではありませんか。
国民民主党は、政府案に足りない「エネルギー安全保障」「食料安全保障」そして「人材の安全保障」も含めた総合安全保障確立法案を提出する予定です。ぜひ、参考にしてもらいたいし、成立に協力していただきたい。
特に、給料が上がる経済の実現のためには、エネルギーの安定供給は不可欠な要素です。折りしも、EUの欧州委員会は、原発をグリーンな投資先として認める方針を打ち出しました。2050年カーボンニュートラルを達成するための現実的な対応だと考えます。日本としても、特に、小型モジュール炉(SMR)や高速炉の実証研究には積極的に取り組むべきだと考えますが、岸田総理の方針を伺います。
戦略的な人権外交
人権侵害非難決議について伺います。与党の慎重な姿勢で昨年の通常国会、臨時国会で見送りとなりました。国民民主党はいつでも対応できますが、今国会で人権侵害非難決議を行うつもりはあるのか、自民党総裁としての見解を伺います。
政府・与党は、今国会でも、人権侵害制裁法や、人権デューディリジェンス法案を出さないのですか。また、中国がTPPへの加盟申請をしましたが、TPPには強制労働を排除する規定があります。日本は、TPP交渉を通じて、中国の人権状況の改善を求める戦略的なアプローチをとってはどうかと考えますが総理の見解を伺います。
敵基地攻撃能力
北朝鮮などは迎撃が困難な極超音速ミサイルなどの開発を進めている中、政府の検討する「敵基地攻撃能力」保有の検討は必要だと考えます。あくまで自衛のための反撃能力を高める趣旨だと理解していますが、そもそも総理の考える「敵基地攻撃能力」保有の意義、具体的な装備体系、そして実現可能性について伺います。
緊急時における国会機能の維持
憲法改正について伺います。私は前回の憲法審査会で、コロナ禍で顕在化した憲法上の課題として、衆議院議員、参議院議員の任期満了時に、大規模感染症や、大規模災害等が発生した場合、特例で議員の任期を延長できる規定が憲法上必要だと提案しましたが、総理の見解を伺います。
なお、自民党の緊急事態条項の条文イメージ案では、非常事態として「感染症」が想定されていません。自民党の4項目の原案にこだわらずに柔軟に議論すべきだと考えますが、総理の見解を伺います。
内密出産の法整備が必要
熊本市の「慈恵病院」は、10代の女性が身元を明かさず出産する「内密出産」を行なったと発表しました。国内で初の事例です。午前中、蓮田院長に直接お会いして話を伺いました。慈恵病院は、2019年から、赤ちゃんの遺棄を防ぎ、母子の命を守る方策として独自に導入したのですが病院が母親の名前を記載せずに熊本市に出生届を出した場合には、刑法の公正証書原本不実記載罪に問われる可能性があります。ドイツでは子どもの知る権利にも配慮した法制化が2014年に行われました。
総理、母子の命と体を守る取り組みである「内密出産」は「違法」なのでしょうか。仮に違法性の疑義があるなら、違法とならない条件を通達するか、法改正すべきではないでしょうか。蓮田院長は物事を前に進めるためには「自分が捕まった方が早いのかな」とさえおっしゃっていました。総理の見解を伺います。
「政策先導」「対決より解決」
日本の最大の課題は、四半世紀にわたって賃金が上がらないことです。がんばって就職して一所懸命働けば給料が上がる、そんな希望さえあれば、学生は奨学金を借りることも不安ではないし、若い人も結婚できるし望めば子どもも持てます。年金の不安だって薄らぐでしょう。
つまり、日本の問題の多くは、給料、賃金が上がらなくなったことが原因です。しかし、この間、日本人が怠けたから賃金が上がらなかったわけではありません。みんな自分や家族、子どものために懸命に働いてきたはずです。間違っていたのは、経済政策です。だからこそ今、経済政策の転換が必要なのです。
国民民主党は、経済政策を規律ある積極財政に転換し、人への投資を倍増させることで「給料が上がる経済の実現」に全力で取り組む方針です。
岸田総理、総理が施政方針演説で述べた「賃上げ」や「人への投資」に国民民主党は賛成です。だからこそ、この通常国会を、どうすれば賃金、給料が上がるのか、与野党を超えて知恵を出し合う「賃上げ国会」「給料が上がる国会」にしようではありませんか。
私たち国民民主党は、20年間で国民所得を倍増するための、税制を含む総合的な経済政策を示していきます。国民の皆様に、特に若い人に希望を与える論戦を展開しようではありませんか。このことを呼びかけ質問を終わります。