時事通信は18日、「クリントン候補、再び?=24年大統領選で米紙観測」との見出しで、ヒラリー・クリントン元国務長官の次期大統領選出馬が実現すれば、これも出馬が取り沙汰されるトランプとの「16年大統領選の“トランプ・クリントン対決”の再来となる」などと報じた。
が、自称米国ウォッチャーとしては、この記事にいくつか注文を付けたい。その一つは、ネタ元にしている『ザ・ヒル』(Hill)や『ウォールストリートジャーナル』(WSJ)の記事にリンクを貼っていないことだ。WSJは有料だが、Hill(Politicoなども)は誰でも無料で読めるのに。
「元記事など読むまい」と高を括る姿勢が、共同や時事のニュース配信社の記事に往々にしてみられるが、そう馬鹿にしたものでもない。昨今の検索エンジンの守備範囲と翻訳アプリの精度の進化は、筆者の様な高齢者でも容易く外国メディアの記事を読める時代にしてくれた。
二つ目はHillの記事の中からこの記事を選んだこと。Hillのヒラリー関連記事は12月から1月半ばまでに6~7本あり、24年への彼女の意欲なら、この12月15日のJoe Concha氏の邦訳2千字の記事よりも、例えば1月16日のHanna Trudo氏の3千字の記事の方がずっと中身が濃い。
三つ目は「ただ、クリントン氏は『アンチ票がトランプ氏を勝たせた』と言われるほど敵も多い。再び脚光を浴びるのは、民主党の人材難の裏返しとも言えそうだ」と記事の最後に触れてはいるものの、この辺りへの突っ込みが、故意か能力不足か或いは配信記事の宿命か知らぬが、まるで足らないこと。
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ということで、Concha記事(以下、C記事)とTrudo記事(以下、T記事)の中身を、別のいくつかの記事も参考にしなが見ていきたい。
C記事の表題は「ヒラリー2024?競争相手を考えれば彼女は民主党のベストホープかも知れない」というもので、先ずは、有権者の22%、民主党支持者の36%から再選を望まれている(I&I-TIPPの世論調査)バイデンが2期目を目指さない場合、ヒラリーは有力候補を探す上で興味深い存在だとする。
バイデン以外の民主党有力者では、「USA Todayによると支持率28パーセント」の副大統領ハリス、「徹底的に失脚させられた」クオモ前ニューヨーク州知事と続き、カリフォルニア州知事ニューサムは「リコール選挙で、青い州から追放されるのを避けるためだけに、大きな時間と資源を費やさなければならなかった」と書かれている。
ブテェジェグ運輸長官は「まだ40歳にもなっていないのに、履歴書にはサプライチェーンの危機が書かれている」と書かれ、そして左派の上院議員サンダースとウォーレンの高齢男女には「?」だけがつけられていると言った具合。つまり民主党にはヒラリー以外にロクな候補がいないという訳だ。
「ではなぜヒラリーではないのか?」とC記事は疑問を呈し、彼女は5年経った今でも「選挙はトランプとロシアに盗まれたと絶えず文句を言っている点でトランプと変わらない」、「この様なレトリックはトランプにはNGだが、ヒラリー(やステイシー・エイブラムス*)ならOKなのだ」と書く(*ジョージア州黒人女性前知事)。
C記事で唯一興味を惹くのは、最近ヒラリーが「我々はこれら全ての嘘と偽情報と、法の支配と制度を弱体化させるこの組織的な取り組みに屈するつもりなのか、それとも立ち向かうつもりなのか?」と警告を発し、そしてあるオンライン学習の中で、「16年の選挙後に彼女が予定していた勝利演説を読み上げて話題を呼んだ」との記述だ。
Hillの別記事に依れば、ヒラリーが「私はこれ(勝利演説)を誰とも共有したことがないし、読んだこともない。でも私が誰で、何を信じていて、孫のためそして世界が望むような国のためにどんな希望を持っていたかを包み込むのに役立つ」と述べたらしいが、C記事は「今までに見たこともないような、最もゾッとするものだ」と評している。きっと多くの者はC記事に賛同するだろう。
世論調査の話が出たので、ギャラップ社が18日に公表した、21年の第1四半期(1Q)から第4四半期(4Q)までに4回実施した全電話調査(無作為抽出の成人12,000人以上へのインタビュー)の結果のさわりを紹介すると・・
民主・共和両党の支持率は、1Q:民49%vs共40%➡2Q:民49%vs共43%➡3Q:民45%vs共44%➡4Q:民42%vs共47%となり、4Qの民主党は遂に共和党を下回った。時期から推して8月末にバイデンが強行したアフガン撤退で、テロによる死者を多数出したことに起因するのではなかろうか。
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一方のT記事は、党内進歩派はバイデン政権があらゆる問題で失敗していることに公然と不満を抱いているとし、ニューヨークタイムズ(NYT)、ウォールストリートジャーナル(WSJ)、ザ・ウィークが最近、次の民主党大統領候補としてヒラリーなどの大物の可能性を大きく取り上げている、と書き出す。
そしてNYTの人気コラムニスト、トーマス・フリードマンが、反トランプを掲げる共和党のリズ・チェイニー下院議員*を、バイデンがハリスを押し退けてランニングメイトに推すことの可能性に言及して驚かせた、と書く(*ブッシュJr.政権の副大統領の娘で、トランプ弾劾に賛成票を投じ、「1.6調査パネル」にも名を連ねる)。
続いてビル・クリントン陣営の元世論調査担当らが、「バイデンの低支持率」、「24年に82歳になる能力への疑問」、「ハリスの不人気」、「他の強力な民主党員の不在」などが、党内にリーダーシップの空白を生じさせていて、より若く経験豊富なヒラリーはそれを埋められると述べているとする。
またデイモン・リンカーがザ・ウィークに、ハリスを外すための選択肢として「トランプに確実に反対する別の共和党役職者のメリーランド州知事ラリー・ホーガンが、もしかすると党を変えてバイデンのNo.2に選ばれる可能性がある」と書いていることもT記事は報じている。
リンカーは「ホーガンが民主党に寝返ったとしよう」、「そして低迷を続けるバイデンがより広い人気を得るための最も確実な道が、進歩的な左派から離れて中道のイデオロギーを大胆に受け入れることだと世論調査で明らかになるといった条件がもし整えば、バイデンはハリスの代わりにホーガンを起用するのではないだろうか?」と述べたそうだ。が、筆者はあり得ないと思う。なぜなら反トランプ=親リベラルではないから。
サンダース上院議員の全国キャンペーンを経験した進歩的なコンサルタント、マイケル・セラソは、リンカー発言やヒラリーの再登場について、「これらの提言は引退したマイケル・ジョーダンがワシントン・ウィザーズでプレーするために戻ってきたようなもの」と述べたとT記事は書いている。
つまりT記事は、民主党に近い者すら、党の人材が払底し、ヒラリーが昔の名前で出るどころか、チェイニー上院議員やホーガン知事といった共和党の人物さえ持ち出す有様を報じている訳だ。このバイデンの不人気ぶりに、中間選挙を控えて民主党全国委員会内部も対立しているようだ。
紙幅が尽きたので、民主・共和両党の次期大統領選の有力候補については後編で。