グローバル経済の主役交代 - 池田信夫

池田 信夫

きのう私のブログで紹介したエラリアンの本は、アマゾンでベストセラーの第7位まで行きました。予約でベスト10に入るのは、ハリーポッター並みです。あらためて訳本を読んでみましたが、類書と違うのは、新興国の急成長によって世界経済のバランスが大きく変わったという点を中心にすえていることです。


かつて「貧困の罠」といわれたように、途上国の成長を制約している最大の原因は、市場のインフラとなる法制度が整備されておらず、財産権の保護が弱いことでした。しかし欧米の多国籍企業が中国やインドを生産拠点にしたことで、信頼できる取引先が海外にでき、国内のインフラが貧弱でも、グローバル下請け産業として先進国の市場インフラを借りて成長できるようになったのです。

しかし、それによって生まれた利潤を再投資する市場が新興国にないため、彼らは投資先もアメリカの投資銀行を利用しました。つまりアメリカに商品を納入する業者が資金も提供する、ベンダー・ファイナンスの構造ができたわけです。これはITバブルのときも見られた構造ですが、危険です。アメリカの住宅バブルが崩壊して新興国への需要が減ると、新興国の余剰資金が減少し、彼らの海外投資が減ってアメリカ経済が縮小する・・・という逆回転が始まりました。

世界経済を不安定にしている、この1兆ドル(世界のGDPの2%)の過剰貯蓄をどうするかが最大の課題です。欧米の課題は、破壊された金融システムをどう回復させるかという問題ですが、新興国はほとんど存在しない市場インフラをゼロからつくらなければなりません。Economist誌は金融システムの整備や社会福祉の充実によって「内需拡大」することを新興国に求めています。国有企業の保護や過剰な規制が国内市場を窒息させ、成長を阻害している――という点は日本も同じです。

要するに、いま世界の置かれている巨大な不均衡の原因は、世界経済のエンジンがアメリカから新興国に交代する過程の「変相」によるひずみであり、バラマキ公共事業や金融政策などの「一国ケインズ政策」ではどうにもならないのです。問題は、世界経済の主役になった新興国が外需に依存しないで成長できる安定したシステムをつくることでしょう。その意味で、アジアの一員としての日本の指導力が問われています。