「気候変動の真実」から何を学ぶか③

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気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか」については分厚い本を通読する人は少ないと思うので、多少ネタバラシの感は拭えないが、敢えて内容紹介と論評を試みたい。1回では紹介しきれないので、複数回にわたることをお許しいただきたい。

(前回:「気候変動の真実」から何を学ぶか②

第7章「異常降水 ー洪水から山火事まで」

記録的な大雪、大寒波や異常高温など思わぬ天候に見舞われたときの最近の決まり文句「気候変動」は、本書でもしばしば皮肉を込めて使われている。なぜなら、気候は何十年単位で語られる統計的概念であるから、個々の気象現象を人間のせいだと決めつけることはできないからだ。そう言い切るためには科学的に信頼できるデータが必要だ。その種のデータ例は、本書では豊富に挙げられている。

例えば1889〜2018年におけるワシントンDCの年間降雪量。毎年の降雪量は大きく変動しており、グラフは大きなジグザグ形だが、15年移動平均で見ると降雪量は減少傾向にありこの130年間で約40%減少している。この傾向は、毎年の変動を見るだけでは分かりにくく、15年移動平均と言うデータ操作を経て初めて見えてくる。

個別に見れば、例えばワシントンでの史上最高降雪量は2009〜2010年の「スノーマゲドン」だったが、近年その種の異常降雪が増えているかと言えば左にあらず、その2番目は1898〜1899年に起こっており、近年の温暖化の進行と共に有意に増えているとは言えない。

全世界の陸上降水量の偏差(1901〜2015年)のグラフもあるが、これも毎年変動がかなり大きく、10年移動平均で見ても上下に大きく揺れながら周期的な振動をしているように見える。大気中CO2濃度のように一定割合で増えているとは、とても言えない。

米本土48州の降水量の偏差(1901〜2015年)でも、毎年の変動が非常に大きく、10年移動平均では大きな変動は見られない。しかし、同じ米本土48州の「極端な降水量」のデータだけを集めると、1970年頃から増加傾向を示す。だから、このデータだけを見ると、近年は極端な降水現象が増えつつあると主張できそうだ。しかし一方、その増加幅は北東部と北中西部で大きく、西部では小さいと言う具合で、地域的な偏差が大きい(ムラが激しい)。

陸地のアルベド(太陽光の反射率)に大きく影響する降雪について見ると、1967年から人工衛星で観測されたデータでは、北半球の平均積雪範囲は、1967〜2020年の間、ほとんど変化していない。春夏秋冬の季節間には多少の変動はあるが、年間平均で見るとほぼ一定である。積雪の年ごとの変動をさらに詳しく見ても、12ヶ月移動平均は激しく上下する一方、10年移動平均で見ると変動は少なく、2005年以降はほぼ一定となっている。

干ばつについても、興味深いデータが示されている。いくつかあるが、中で「主に年輪分析に基づくコロラド川流量の1200年間の推移」と言うのが特に目につく。この図で見ると、流量変化は周期的に起こっており、過去の干ばつの中には、この100年間に起きた干ばつよりも大規模で長く続いたものがある。つまり、近年に干ばつが増加傾向にあるとは言えない。カリフォルニア州の渇水指数(1901〜2020年)でも同様である。洪水も干ばつも、昔からある頻度で起こり続けてきたのだ。なにしろ、大洪水の記録は、あの聖書にさえ描かれているのだから(ノアの箱舟)。

豪州などでは大規模な山火事が頻発し、気候変動との関係が声高に言われることもあるが、山火事による世界の消失面積(2003〜2015年)を見ると、毎年の変動はやはり大きいが、トレンドとしてはむしろ減少傾向が見られることに注目したい。山火事には、発火原因から延焼防止措置の具合まで、人為的要因が数多く関与するので、一概に「気候変動のせい」とは言い切れないのだ。

第8章「海面上昇の不安」

これも地球温暖化とともに現れる「脅威」としてしばしば語られるのだが、実際の測定値で見ると、海面上昇速度は100年間で30cm程度、つまり年間3mm程度に過ぎない。ゴアの「不都合な真実」で語られたように、自由の女神像が半分水に浸かるには、2万年以上かかる。

海面水位は、主に氷期か間氷期かで決まり、過去50万年でも何度か大きく上下したことが地質学的に知られている。最低では今より120m低下し、今から12万5千年前には今より6mも高かった。つまり、人間活動とは何の関係もなく、海面水位は途方もなく大きな変動を示す。

最近7000年ほどは海面水位の上昇速度には急速なブレーキがかかっていることが分かっているが、それが人間活動の影響で再びスピードアップするかどうか? には、今の所確証はない。現状の世界平均海面水位は、年間3.0±0.4mmのトレンドに、約7mmの季節サイクルが重なって観測されていると言う客観的な事実だけである(1993〜2020年の衛星高度観測結果)。

なお、世界の海面上昇速度への寄与要因(1929〜2018年)の研究成果も紹介されている。山岳氷河、陸上貯水量、グリーンランドと南極の氷床が、それぞれ世界海面水位の変化にどう寄与したかが示されている。それによると、氷河の融解は1920年以降わずかに減少し、今は50年と同じである。グリーンランドの影響は1995年前後に最小化し、今は1935年と同水準である。いずれも、近年、地球が温暖化しているはずなのに、それから予想されるものとは異なる、意外な結果である。

以上、どのデータを見ても、人間活動の結果として海面水位の上昇速度が上がっているとの科学的な証拠は、どこにも見つからない。

第9章「来ない終末」

この章は、第5章〜第8章における各種科学的データの吟味結果の総括である。これまでのデータ分析からも明らかなことは、科学的に信頼できるデータに基づく限り、世に言われるような急速な「気候変動」などは起きていないし、ましてやそれが人間活動の結果であるなどとは証明されてはいない。しかしマスコミ等には「気候変動が死者数を大きく増やし、感染症による死者数さえ上回る可能性がある」等々の言説がしばしば流される。これにどう対処すべきか?

平凡な結論だが、頭を冷やして事態を静かに眺めることから始めるしかなさそうだ。まずは、そもそも「気候関連の死亡」とは何なのか? 干ばつや洪水、暴風雨、異常気温、山火事など、気候関連の気象事象(気候と気象の区別に注意!)で人が命を落とすことはある。過去100年間の気象関連の死亡の記録をたどってみれば、実態が分かる。そんなデータって、あるのか・・?

実はそのデータベースは存在し、1920〜2020年の過去100年間の気象関連災害による年間死亡率の10年平均、と言うグラフが載っている。それによると、死亡者数が多いのは1930〜1950年頃であり、1960年以降は死亡者数は減少傾向にある。

実はこのグラフの縦軸は対数目盛になっているので、その違いは見かけ以上に大きい。例えば1930年代の干ばつ+洪水による年間死亡率は、人口10万人当り10人を越えているが、2010年以降はこれが0.1人程度まで下がっている。つまり1/100以下になったのだ。異常気温による年間死亡率も同0.16人とあり、干ばつ+洪水と同程度である。

ちなみに、とある「将来予測」では「気候変動による死亡リスクは2100年に10万人当り85人増加する」となっており、過去10年間の値の500倍以上も大きい。「脅かし」?

また、作物(小麦・米・トウモロコシ)の収穫高は1960年代から一貫して増え続けており、総量的には人類は飢餓を心配する状態ではない。アフリカなどで起きている飢餓は主に分配上の不具合が原因であり、最近の「ウクライナ・ショック」も、単なる流通上の目詰まり問題に過ぎない。例えば、ウクライナでは今春、作付け予定地の82.2%において種まきが行われた。中でも春小麦に関しては、予定地の98%で種まきが行われた。どうやら、ロシア軍はウクライナ農業を破壊せずに進軍したようだ。

このように、気象データに限らず、ネットその他から洪水のように押し寄せる各種情報については慎重に見定める必要があり、マスコミが得意とする印象操作に引っかかってはならないと本書は教えている。

(次回に続く)

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