安倍元首相の銃撃事件で、逮捕された山上徹也容疑者の母親が「統一教会に申し訳ない」と話していることが明らかになりました。また、教団と政治家の関わりが次々と明らかになっています。
本稿では、政治と宗教の関係について掘り下げてみます。
政治と宗教の問題とは
統一教会はすでに多くの政治家を巻き込んでいます。自民党以外にも、大阪維新の会、国民民主党、立憲民主党まで浸透しています。政教分離の原則とは何でしょうか。これは、政治と宗教は分離されるべきであるという考え方です。
諸外国に目を向ければ、アメリカでは憲法上の原則とされています。信教の自由、宗教の自由を保障することを目的とするためです。独立前のアメリカには、欧州から逃れて来た人が多かったために、宗教の自由と保障が必要とされていたのです。
日本では、憲法第20条1項に記載されています。具体的には、国が特定の宗教団体に政治的または経済的特恵を与えないこと、および国や国の機関が宗教教育その他の宗教活動をしないことなどがあげられています。
しかし、公明党は創価学会を母体にしています。1969年から1970年にかけて言論出版妨害問題が起こり、学会と党の癒着が批判を浴びました。この批判にこたえて公明党は政教分離の方針を打出し、所属議員の学会役職兼任を解き、学会は党の支持団体にとどめるなどを明らかにしています。 1970年5月の本部総会で、学会と党を制度上、機能上完全に分離することを宣言しています。
国会でも議論された政教分離
1999年(平成11年)10月5日、小渕第2次改造内閣(小渕恵三首相)のもと、自由民主党と公明党が連立し、衆参で過半数の議席を獲得しました。連立前は、政教分離の議論がかなり頻繁にされていました。連立以降はトーンが明らかに変化していきます。
※漢数字は算用数字に置き換えました。議事録は長文であることから意味が変わらないように特徴的な箇所を引用しています。
<自公連立前のやり取りについて>
第128回国会 衆議院 予算委員会 第2号 平成5年10月4日
越智通雄(自民党)
公明党は、1970年代と申しますか、大分前ですが、20年ぐらい前は盛んに創価学会からの独立と申しますか、自分たちは別だということを、当時の公明新聞などを読むと書いてございました。今心配なのは、創価学会と公明党、どこまで分かれているのか、くっついているのか。 ~中略~ 何か公明党の選挙運動というか政治活動というか、そういうものと宗教の活動とが混然一体になっているように見えるのですけれども、あなた方のところで政教分離というか、その点についてのけじめはどういうふうにおつけになっていらっしゃるんでしょうか、伺いたいと思います。
石田幸四郎(公明党、総務庁長官)
創価学会と公明党との関係は、これは政党と支持団体の関係であるというふうに私どもは明確に位置づけているわけでございます。~中略~ これはいわゆる創価学会を含むあらゆる宗教を信ずる人々に対しても、同様に憲法の規定によりまして、精神によりまして、この信仰の自由を守る、このことを党の内外に宣言をいたしておるわけでございます。
越智議員(自民党)の政教分離の質問に対して、石田大臣(公明党)は否定しています。しかし、同国会では自民党から政教分離に関連する追及が強まります。
第128回国会 衆議院 予算委員会 第4号 平成5年10月6日
野中広務(自民党)
先般越智委員からもありましたように、全面的にフル動員して活用しておるという趣旨を述べております。例えば、創価学会の全国の会館施設が選挙の出陣式や決起集会に使われているということであり、おとといの越智委員の質問にあなたは答えられまして、他の政党の方々が集会所や公民館を使ってやられるように幕間の利用だと、こう言われました。確かに、私たちも神社、寺、公民館等で選挙の会合を持ちます。しかし、それぞれ応分の会場使用料を払っておるのであります。公明党は創価学会に会場使用料を払っておられますか。
石田幸四郎(公明党、総務庁長官)
いわゆる公明党と創価学会の関係は、前回も申し上げましたように、政党と支持団体の関係にございます。その支持団体、どういう支持団体であっても、それは結社の自由の立場からいきまして、選挙運動をするということについては、これは認められていることでございます。
2021年、那覇市が公園の土地を無償提供したことが、憲法の「政教分離の原則」に違反するか否かが問われた上告審がありました。最高裁は、那覇市が土地使用料を免除したことは憲法が禁じた宗教的活動に該当するとして違憲と判断しています。
この判例に則れば、公明党が創価学会の会場使用料を無償で借りていた場合、違憲になる可能性があるともいえます。
第128回国会 衆議院 予算委員会 第4号 平成5年10月6日
野中広務(自民党)
やはり宗教法人のあり方について、税のあり方について大胆に見直しを言われるならば政教分離はもっと世間に明らかになると思うのでございますけれども、口で政教分離を言いながら、本日の答弁を通じては全く政教一体であることを物語ったと思うわけでございます。後日の議論に譲りたいと存じます。
第128回国会 衆議院 政治改革に関する調査特別委員会 第3号 平成5年10月18日
船田元(自民党)
公明党と創価学会は、政党とその支持団体という関係にございますが、創価学会は言うまでもなく宗教法人であります。一部のマスコミからは、政教分離が徹底していないとか創価学会の影響力についていろいろな指摘がなされております。総務庁長官に、公明党の代表ということでお尋ねをいたしますけれども、宗教法人の課税のあり方を含め、税制の抜本改革をどのように進めていかれるのか、これが第一。第二は、そういうことも含めた行財政の抜本的な改革についていかなる御決意で臨まれるのか。この二点についてお聞かせをいただきたいと思います。
第128回国会 衆議院 政治改革に関する調査特別委員会 第15号 平成5年11月5日
水野清(自民党)
私は、どうも状況調査で、創価学会イコール公明党じゃないか、むしろ公明党という政党は創価学会の隠れみのじゃないかと国民は何となく思っていらっしゃると思うんですね。私はこの問題というのは実は重大だと思うんです。~中略~ はっきり申し上げると、政教が私は分離してないなという感じがするんです。政教一致だと思います。そうすると、創価学会の方に何か一つの意思があれば、政局の中心にある方々がある特定のところの意思で動かされる可能性がある。
<自公連立後における姿勢の変化>
第146回国会 衆議院 大蔵委員会 第6号 平成11年12月3日
末松義規(民主党)
政教分離問題で、越智大臣が石田総務庁長官に公明党と創価学会の問題、これは政教分離で懸念があるのじゃないかということを質問されました。これで、この前の岡田委員の質問のやりとりとの関係で考えてみますと、ちょっと私、越智大臣がどういうふうな認識を持たれているか、必ずしもわからなかったのですが、その辺について再度御説明をいただきたいと思います。
越智通雄(金融再生担当大臣)
当時平成五年の予算委員会で私が野党としての筆頭理事でございまして、そのときに、石田総務長官に聞いたのは、政教分離の定義を聞いたのじゃございませんで、政教分離という問題もあるけれども、ともかく宗教団体の建物を選挙のときにお使いになっていると、宗教団体は、例えばある種の非課税とかその他の特典もあるのだけれども、我々の選挙活動がいろいろな意味で厳しく、何カ所とか幾らとか決まっている中で、これは問題じゃないのでしょうかということを石田さんにお伺いしました。
越智議員は、決算委員会(平成5年10月4日)のなかで、政教分離について次のように追及しています。
何か公明党の選挙運動というか政治活動というか、そういうものと宗教の活動とが混然一体になっているように見えるのですけれども、あなた方のところで政教分離というか、その点についてのけじめはどういうふうにおつけになっていらっしゃるんでしょうか、伺いたいと思います。
政教分離は曖昧な解釈のまま現在に至っています。政治家と宗教団体が結びつきやすい理由は何でしょうか。確実に票が見込めるからです。
選挙前には何が行われているのか
選挙前になると、宗派に関わらず選挙区の宗教団体が誰を推薦するか、各陣営は神経をとがらせます。選挙前に、団体の教会長から、「〇〇さんを推薦します」という言質が取れれば、その団体の信者の票はほぼ獲得できることを意味します。信者数は明らかであることから確度の高い票読みができます。
選挙区に、同じ政党の公認候補が複数いる場合、両名に推薦を出すのが通例です。私が選挙応援にはいったとき、何回か宗教団体をまわる機会がありました。ある選挙区の候補者を応援していた時、新興宗教団体を回ったことがあります。
教会長は誰にでも門戸を開いていましたが支援の話になるとなかなか首を縦に振りません。ある日、支援をお願いしていた団体に呼ばれました。 ホールに入ると、候補者の秘書、信者の姿が見られました。教会長は次のように言います。「秘書さんは選挙の時しか顔を出さない。我々の教義について理解していますか」と。その場でお題が出されました。
出席している誰も答えられません。私は問題なく回答できました。選挙対策用に各宗派の書物を読んでいたので、代表的な教義を理解していました。 数日後、私は団体に呼ばれます。信者数十人ほどの前で選挙での推薦の報告がされました。事務所に報告したところ「そんなのは作り話だ」と一蹴されたので、対外的に話すのは本稿がはじめてです。
そんな環境にいましたから、政教分離の原則は理解しつつも、宗教団体のような票に直結する組織を味方にすることは当然だと考えていました。落選すれば、会社でいう倒産と同じです。数年に一度必ずある倒産の危機(選挙)を乗り越えることは至上命題でした。
いま、政治と宗教の問題がクローズアップされていますが、それを問題視するなら、各種団体からの推薦も無くさなければいけなくなるでしょう。政党は与野党を問わず支持団体によって成立しているからです。政教分離も大切な議論ですが、残念ながら国民生活には直結しません。
8月3日に臨時国会は召集されます。しかし内外の問題は山積しています。