ロシアのドミトリー・メドベージェフ元大統領の言動がここにきて活発となっている。メドベージェフ氏はロシアの官報「ロシースカヤ」に寄稿し、「ロシアの核戦力だけが西側がロシアに宣戦布告するのを防いでいる。実際の脅威が発生した場合、それに応じて行動する」と述べ、「西側諸国は、可能な限りロシアを辱め、侮辱し、解体し、全滅させたいという燃えるような願望と、核戦争という黙示録を避けたいという願望の間で揺れ動いている」と強調し、新しい軍縮協定は現在、非現実的で不必要だと書いている。
今月中旬には、メドベージェフ氏は自身のテレグラムチャンネルで、ウクライナに大量の武器を供与する北大西洋条約機構(NATO)の加盟国を「ロシアへの攻撃を意味する。敵はキエフ県だけでなく、ロシア帝国に属していた今日のウクライナ全土に手を伸ばしてきた」としてNATO加盟国への攻撃を脅している。それだけではない。ロシア軍のウクライナの軍事および民間インフラ攻撃について、「ロシアと公式に戦争状態にある国、または敵の同盟国にある軍隊や民間のインフラを攻撃することは正当だ」と主張している。
そのメドベージェフ元大統領は21日、突然訪中し、中国の習近平国家主席と北京の釣魚台迎賓館で会見した。中国側の発表によると、習近平主席はロシア前大統領で与党「統一ロシア」のトップで、安全保障会議の副議長であるメドベージェフ氏とウクライナ情勢について意見を交換し、「ウクライナ危機に関係するすべての人が自制を行使することを希望する」と表明している。一方、メドベージェフ氏はテレグラムのチャンネルで、「習近平氏との会談は非常に有益だった」と語り、プーチン大統領の親書を渡したことを明らかにしたが、会談内容は語っていない。
57歳のメドベージェフ氏は大統領在任期間(2008年~12年)、比較的リベラルで親欧米的な代表者と見なされてきたが、ここにきて自分自身を強硬派に見せようと腐心している。オブザーバーは、メドベージェフ氏の狙いは自身のイメージをチェンジすることで政治的影響力を増し、プーチン氏の後継者候補に再浮上することではないか、と分析する。その意味で、習近平主席との会見は彼にとって重要なアップグレードを意味したはずだ。明確な点は、ロシアのウクライナ侵攻が始まって以来、メドベージェフ氏の発言は過激化していることだ。
プーチン大統領はほぼ23年間、ロシアで最も権力のある人物に君臨している。プーチン氏は現在70歳であり、2036年までロシアの大統領に留まることができる。そのプーチン氏が何らかの理由で職務履行不能となった場合、後継者問題が出てくる。
ロシアの憲法によると、最高指導者は大統領、第2位はミハイル・ミシュスチン首相(56)、第3位は連邦議会のワレンチナ・マトヴィエンコ議長(73)、第4位は下院のヴャチェスラフ・ヴォロージン議長(58)だ。もちろん、プーチン氏のウクライナ戦争に不満をもつ一部の軍指導部のクーデターも完全には排除できない。同時に、メドベージェフ氏が軍指導部に担ぎ出され、カムバックするチャンスも十分に考えられる、同氏の最近の言動はその可能性を匂わせている。
現憲法に従うならば、ミシュスチン首相が暫定大統領になり、その3カ月以内に選挙が行われ、そこで新大統領が選ばれる。誰が最終的にプーチン氏の後継者になるかは不明だ。プーチン氏自身、自身の後継者を決めていない。プーチン氏は自身の権力を継承する“皇太子”を不在にすることで、自身のトップの座を堅持してきたからだ。
ロシア軍がウクライナに侵攻して今月24日で10カ月が過ぎた。プーチン大統領はここにきて停戦についてその可能性を示唆しているが、ロシア側からもウクライナ側からも実効性のある停戦案は聞かれない。ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア軍が占領した全領土からの撤退を停戦の条件に挙げ、譲歩していない。ロシア軍の弱体化は歓迎すべきだが、ロシアとの全面的戦闘は回避したい米国側の狙いとはその意味で完全には一致していない。
いずれにしても、戦争は始めるより、停戦するほうが難しいといわれている。ウクライナ戦争も同様だろう。ウクライナ戦争の動向次第では長期政権を誇ってきたプーチン大統領の地位も万全とはいえない。それだけに、2023年はゼレンスキー大統領が予想したように「大きな転機を迎える」ことはほぼ間違いないだろう。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年12月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。