ネット証券が富裕層ビジネスで成功するために必要なもの

日本経済新聞電子版の報道によれば、ネット証券が富裕層ビジネスを強化する戦略に乗り出しているそうです(図表も同紙から)。

SBI証券はグループの銀行等と協業して顧客を開拓。マネックスは一昨年から富裕層向けの事業を始め、マネックスPBという会社を昨年分社化し、リアル拠点を開設し今後も各地で営業を強化していくそうです。

しかし、富裕層のリアルを理解しない人が、勝手な想像で富裕層ビジネスに取り組んでもうまくいかないと思います。

以前にも書きましたが、そもそも富裕層といっても、そのレベルは様々です。

一般には、投資可能な金融資産を100万ドル(1億3000万円)以上持つ人を富裕層と定義しているようです。日本には365万人いると推定されています。

しかし、資産1億円と資産10億円では、同じ富裕層でも求めるものは異なります。先祖代々資産を守ってきた「七光り富裕層」と、一代で財産を築いた「成り上がり富裕層」では、趣味嗜好が異なります。そもそも、東京のような大都市になると、金融資産1億円あったとしても、富裕層とはいえない生活水準です。

そんな中、富裕層ビジネスと一括りにサービスを展開しても、ターゲットがボケてしまい、顧客獲得はできません。

また、富裕層が求める資産運用サービスは、金融資産から実物資産まで幅広い資産を対象とします。

ところが証券や銀行では、不動産、アート、ワイン、ウイスキーといった実物資産を取り扱うことができません。

これらをワンストップで提供し、比較検討できるような専門家集団が必要です。

大手証券やメガバンクでは、グループの不動産会社などを使って不動産サービスを拡充しているようです。ネット証券も有力な不動産会社との協業を進め、他の実物資産や相続などに関しても情報提供できる体制を築くべきです。

さらに、富裕層が特に価値を認めるのは、非日常体験や人脈など、お金を出しても手に入らないような「非金銭的サービス」です。

例えば、通常手に入らない宝飾品やワイン・ウイスキーが手に入る。一般予約できないような特別な場所に入ることができる。普段会えないような人に会える・・・。

特別な待遇を受けることに、お金に換算できない高い価値を感じるのです。

Romanno/iStock

このような富裕層の特性を理解した上で、アプローチ戦略を立てていかなければ、囲い込みをすることはできません。

豪華な応接室を作って、高い金融知識を持った担当者が丁寧に対応する。そんな、大手金融機関がやっているような、ありきたりのサービスではなく、ネット証券ならではのエッジの効いたサービスを期待します。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2023年1月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

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資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。