顏認証システムっていつの間に社会に認められたの? 大阪駅で始まる顏認証改札

metamorworks/iStock

顏認証改札が大阪駅にできるらしい。以前から大阪メトロではニュースがあったが、今回はうめきたエリアに実証実験用の顔認証改札機が設置されるとのニュースが明らかになった。

JR西日本では顏認証、「チケットレス認証手法」の実証実験を行うそうである。顔情報とICOCA定期券のIDが紐づきいて認証されるそうである。

大阪駅
筆者撮影

このニュースに関してはこれまでの顏認証についての普及拡大について思うところがあって問題提起したいと思う。いろいろな実証実験はいいが、我々日本社会は顏認証をOKとしたのだろうか?どこまで認められるのだろうか?確かに、日本企業がサッカーワールドカップで技術公開したりと、世界の先端をいっていたし、そこはすごいと思う。しかし、ルールも何もないまま、いろいろなところに広がってきそうな気配がする。

顏認証、人権侵害の恐れ?

実際、2021年に日弁連が声明を出している。

国に対して、

  1. 明示の同意のない顔認証データベース等の作成及び顔認証システムの利用の原則禁止
  2. 例外的に行政機関や民間事業者等が顔認証データベース等を作成し顔認証システムを利用することができる場合の厳格な条件
  3. 個人情報保護委員会による実効的な監督
  4. 顔認証システムに関する基本情報の公表
  5. 誤登録されている可能性のある対象者の権利保護などを盛り込んだ法律を制定するなど厳格な規制を行うべきである

という提言をしているのだ(日弁連の意見書)。

法的整備の必要性が専門家から提起されている。高度なセンシティブ情報であることが理由で、収集・利用及び保存に際しては厳格な要件が求められるとの見解が示されている。

欧州では「GDPR」(欧州一般データ保護規則)によって顔認証データを典型とする生体情報の原則収集が禁止されていることも指摘されている。

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こうしたデジタル技術は、我々の生活を豊かにしてくれるものと言う面もある。使用になれれば、プライバシーのことを考えなければ、とても快適であり、メリットも多い。スムーズになるからいいだろうというのはわかるし、先端技術を導入してみたいというJR西日本など担当者の気持ちはわかる。大手企業のNECでも人権に配慮した方針を示しており、注意して活動している。その努力には頭が下がる。担当者としての苦労は相当だろうと思うからだ。

もちろん中国では地下鉄で顏認証が実践されている。

CES上海
筆者撮影

しかし、やはり市民のプライバシー権侵害ともいえる面もある。論理や合理性というより、私の違和感も完全に心理的なもの、感情的なものなのだ。そう、なんとなく嫌なだけなのだ(申し訳ないが)。

そして最大の懸念は、法整備も社会での議論や対話もなく、どんどんいろいろなところに広まっていって、定着してしまうことである。そこでは違和感を持ったとしても、技術の発展にその意見は抑制されてしまう。というか、快適性に追いつけない。不審者・不審物の検知や万引きの防止、生体認証(入退室管理など)は公共空間以外の色々なところですでに導入されてしまっている。

冷静にメリットデメリットを整理

メリットとデメリットをまとめると、メリットとしては、

  • 利用者が手ぶらでいい、利用がスムーズになる(スマホをいじる面倒がなくなる、時間短縮)
  • 利用者はカードやスマホなどの手段を紛失する・忘れるリスクがない
  • 業者は作業が楽になる、業務負担が軽減される
  • 不正使用が難しいため、お金のとりっぱぐれがない

といったところ。

デメリットとしては、

  • 利用者は個人情報漏洩のリスク
  • 業者は費用がかかるくらい。

といったところ。

筆者作成

筆者はデジタル化に懸念を示すイノベーションに保守的な人間ではないが、やはり懸念は残る。なぜかというとメリットが圧倒的に強いからだ。

民主主義の本当のテーマ

これまでも「不審者」とみなされた人はお店などで突然警備員が近づいてきたことが報告されてきた。もしかしたら居場所情報がどこかの組織に通告され、その組織が経営する施設にいくと、何らかの警告のようなものを受けるかもしれない。顏というデータを保有され、しかもどこにいて何をしているのかを他人に知られてしまうということだ。

中国政府にように、人は行動を監視されると、民主主義の根幹にある表現の自由には萎縮効果をもたらすだろう。もしかしたら、顏や履歴のデータが漏れるかもしれない、その情報を悪用した未来の「ルフィ」のような窃盗団に自宅が襲われる可能性だってあるかもしれない。

  • 保護される権利:肖像権、プライバシー権
  • 議論すべき法律:個人情報保護法、経済産業省「カメラ画像利活用ガイドブックver3.0」

にとっても大事なことであろう。どう考えても流出するリスクはある(厳罰化したとしても)。問われるべき懸念点や論点は議会で議論してもらいたいと希望する。

経済産業省「カメラ画像利活用ガイドブックver3.0」は非常によくできている資料であるが、根本の法律論を検討してもらいたい(質問してもらいたい)。

デジタルと人権の矛盾や相克が明らかになるという意味で、デジタル田園都市国家構想の主要テーマだと思う。