山田議員は3月29日、毎週配信している「山田太郎のさんちゃんねる」の「【第530回】AI 画像生成とその課題。権利保護?技術革新?日本の文化を守るには?」(以下、「さんちゃんねる」)で、より詳しく解説しているので、以下にポイントを箇条書き形式で紹介する。
(前回:AIの著作権問題:山田太郎議員が岸田総理らに質問(上))
AIについて山田事務所に寄せられた声
AI生成著作物の著作権問題について、事務所にいろいろな意見が寄せられた。それらを総括して山田議員は冒頭、「このまま放置しておいてはまずいのではないか」という意見に対し、「いやいや、ウィニーみたいにするなよ」という意見もあり、賛否が分かれていると紹介。
小山政策秘書・弁護士も番組の最後で、著作権法的には第1条に定める法の目的である、文化の発展にどう寄与するかがポイントになると指摘。その上で、自分の作品を勝手に使われては創作意欲がなくなり文化の発展にとってマイナスだとする意見もあれば、自分は絵心がないが、プロンプトのようなものでやれるのであれば、創作意欲も沸き文化の発展に寄与するという意見もあると紹介。
著作権法とAI
著作権法のおさらいをした後、AI時代に対応するため、2018年の改正で追加された30条の4を紹介する。条文は長いので、前編同様、文化庁の改正の概要から条文の骨子を紹介する。
著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用(新30条の4)
著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、著作権者の利益を不当に害する場合はこの限りでない。
① 著作物利用に係る技術開発・実用化の試験
② 情報解析
③ ①②のほか、人の知覚による認識を伴わない利用
改正前は著作物性のある情報をAIにインプットすると著作権侵害になるかどうかわからなかったが、それではAI技術が発展しないので、思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、インプットできるようにした。
これはAIで作られたデータセットを勝手にコピーされないようにした条文で、データを集めて有償で提供しているものを勝手に使ってはダメだと、そこまでしか言ってない。あとは司法判断に任せているが、AI開発が重要局面を迎える中、懸念されるのは裁判所が想定外の判断を下す司法リスク。
裁判所が想定外の判決を下す司法リスクを「すずらん事件」の例を挙げながら指摘する。この事件は「国破れて著作権法あり~誰がWinnyと日本の未来を葬ったのか」でも「リツイート事件最高裁判決」として詳しく紹介したが以下に要約する。
写真家が自分の写真をリツイートされた際、Twitterのシステム上生じるトリミングによって写真の下にある©の氏名表示がカットされたことから、氏名表示権を侵害されたとしてTwitter社を訴えた。Twitter社はリツイート記事中の表示画像をクリックすれば、氏名表示部分がある元画像を見ることができることから、氏名を表示していると反論したが、最高裁は写真家の主張を認めた。
このように立法府の意図しないような想定外の判決が出ては困るので、立法府がちゃんと対応しなければならない。
その際、今の権利制限型の著作権では合わないから、フェアユースのようなものを組み合わせたようなデジタル時代型の著作権を作ろうということを 2016年ぐらいから提唱してきている。いよいよこれについても党内の知財調査会の中で議論を始めるが、それは今回の人工知能のケースにおいても非常に重要な問題である。
これからどうするか
AIと著作権法の問題についての現在までの検討状況を整理すると次のようになる。
- AIの開発と著作権法 ⇒ 2018年改正
- AIの開発と著作権法 ⇒ 未対応
- AI生成物と著作権法 ⇒ 未対応
ウィニーのように使った人だけでなく開発者まで罰してはならない。例えば刃物を使って人を殺すのは問題だが、刃物には責任はないからである。生成系AIでは刃物が勝手に自動運転し始める危険性がある。
上記2. については、AIを利用したら著作権侵害が成立するのかが課題で、複製と翻案が問題になるが、類似性がなければ著作権侵害にはならないため、類似性がないことを前提にすると、依拠性(他人の著作物の創作的表現を自己の作品の中に用いること)が最大のポイントになる。
AIの場合、1分以内に同じ質問をしても異なる答えが返ってくるので、AIが何かに依拠しているとは言いにくい。AIに含まれるのはパラメーターなので、パラメーターの組み合わせで出てきたものに依拠性はないと考えられる。
ただ、画像を入力して画像を生成するi2i(image to image)では、他人の画像を入力して、元画像と類似した生成物が出てきた場合は著作権侵害が成立する可能性は高い。
テキストを入力して画像を生成するt2i(text to image)では、依拠性があるかどうかの判断は理論的には難しいので、場合によっては政策判断が必要かもしれない。すべて司法判断にお任せというのはAI戦略としては問題があるので、どこかで結論を出す必要がある。
上記3. のAI生成物については、30条の4を追加した2018年改正前の2016年時点でも議論はされていた。
AIは創作本能を持たないと現在のところ、言われており、人間からの「○○を作って」という働きかけは必要と考えられることから、「AIによる創作」には権利は発生しない。
人に①創作意図及び②創作的寄与があり、「AIを道具として利用した創作」については、権利が発生するという考え方もあるが、まだ確定したわけではない。
人間よりはるかに高い生産性で創作物を生成することが可能なことから、人工知能を利用できる者(開発者、所有者等)による情報独占、その結果、個人であるクリエーターの萎縮/締め出しが懸念されるため、AI創作物の知財制度上の取り扱いについて、改めて検討してはどうか」としているがその後、検討はされていない。
検討事項としては下図のような項目があげられる。
政府の見解
山田議員は「さんちゃんねる」を配信した3月29日の昼間開催された「地方創生及びデジタル社会の形成等に関する特別委員会」での質疑を最新の政府の見解であるとして、以下のように紹介した。
1. の「AI政策について」では、(上)では割愛した岸田総理以外の政府委員に対する質問もしているので、以下に紹介する。
上記、質問に対して詳しく回答しているが、以下、結論だけ紹介する。
① 課題は把握している。
② AIを発展させるという点については議論してきたが、著作権法上の課題については議論してこなかった。
③ 上記のとおり思想または感情を享受しないことを条件として、インプットについては認めたが、アウトプットについても検討したものではない。
④ 一つ一つのアウトプットに対してではなく、有料で提供されているデータセットを勝手に無料で使ってはダメよと言ったにすぎない。
⑤ 登録については著作物性を検討しながら、登録するかどうかはそれぞれのものについて判断させてもらう。国会図書館は出版物であればAIで作っているかどうかに関係なく納本の対象となる。
⑥ その必要性は認める。
山田議員が(上)の最後で岸田総理にもお願いした⑥については、総理は5月9日、政府の司令塔 AI戦略会議設置を表明した。
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