生活やビジネスで活用できる知識を、大人の教養として蓄えていきたいと考えている人は多いはず。そんなとき、情報が体系立ててまとめられている“本”は、インプットにとてもおすすめです。
ビル・ゲイツ氏やユニクロの柳井正氏など、世界に名だたる経営者は、例外なく膨大な量の本を読んでいる読書家です。読書によってスキルと知見を高めているからこそ、強力にビジネスを推し進めることができるのです。
とはいえ、読書が苦手、読書に集中できない、読んでも身にならない、内容が記憶に残らない……など、読書の悩みを持つ人もいるでしょう。それはただ単に、正しい読み方を知らないだけ。
そこで今回は、会計士であり、大手コンサルティングファーム出身の経営者であり、youtubeの書籍紹介チャンネルは登録者が13万人超、自著の累計販売部数は55万部と、多彩な分野で活躍をする金川顕教氏の著書「世界の研究事例×100冊のベストセラー 科学的に正しい読書術」から一部を抜粋・再構成して読書の技法を紹介します。
4ステップ読書法
あなたは普段、実用書やビジネス書、人文書など、小説以外の本をどのように読んでいますか? 少し振り返ってみてください。
「読書家」といわれる人の多くは、4ステップの読書法を使っています。1冊の本を4回異なる読み方で読んで、内容の理解度を上げていく読書法です。4回と言っても、本を最初から最後まで熟読するわけではないので、ご安心ください。
一般的な読書法と異なる点もあるので多少の慣れは必要ですが、誰でも簡単にできて、しかも記憶に残り、身につく方法です。ぜひ試してみてください。
【ステップ1】「予測読み」:タイトル、帯から内容を推察する
まずはステップ1「予測読み」です。
これは、本のタイトルや、帯に書かれているキャッチコピー、著者の略歴などから、まず「何について書かれた本なのか」を予測しながら読む方法です。
まず、タイトルを見て、どんな人のための、どういった内容の本なのかということを把握します。
次に、タイトルだけでは把握しきれなかった情報を、帯を見て得て推測します。帯裏にも書籍の情報が載っているので、確認してみるといいでしょう。
このように、本のカバーや帯には、本の内容についてのさまざまな情報が書かれています。それらの情報から、ゲーム感覚で「この本はこんなことが書かれているのだろう」ということを予測します。ただ、この段階であまり時間をかけたり、深刻になったりする必要はありません。予測したことが合っていたか外れていたかは、あまり問題ではないからです。
それよりも、自分がこの本を読む理由や、そして読んで何を得たいのかを意識することの方が重要です。
【ステップ2】「断捨離読み」:今の自分にとって読むべき部分を選び出して読む
断捨離読みとは、本の中から、今の自分にとって読むべき部分を選び出して読む読書法です。
「パレートの法則」のように、本全体の2割を読めば、自分にとって必要な残りの8割は理解できます。つまり、本1冊をすべて読む必要はないのです。200ページの本であれば、40ページ程度、多くてもせいぜい60ページ程度に絞り込み、そこだけを読めば十分です。
そのためにも、「本は最初から最後までちゃんと読んでこそ理解できる」「本は頭から順番に読んでいくもの」という、読書に関する固定観念は捨ててください。
断捨離読みの具体的な方法を紹介します。
(1)まず「はじめに」と「おわりに」を読む
「はじめに」には、著者の問題意識、さらに本の構成も紹介されていることが多いです。ここでまず、この本で著者は何をどこで書こうとしているのかを把握しましょう。
次に「おわりに」を読みます。ここでは本の結論や、さらに学びを深めるための著者からのメッセージなどが書かれていることが多いです。
(2)目次を見て、気になるところの目星を”章単位”でつける
例えば、投資の本の場合、初心者が読むのであれば、そもそも投資とは何かという説明から、証券会社や投資商品の選び方といった部分が読むべきところでしょう。細かなテクニックなどは今の段階で読んでも意味がわからないので、バッサリと切ってしまいます。
一方、ある程度の投資経験がある人であれば、投資とは何かなどの説明は不要なので、資産を増やすための細かな商品知識について書かれた部分だけ読めば十分でしょう。
このように、「現在の自分にとっていらない部分は読まない」ことが、読書の質を高めるためには重要なのです。
そして、読んでみたい、あるいは読んでおいた方がよさそうな章や項目を選び出したら、いよいよ本を開いて、該当部分を”見て”いきます。
ここで、”見て”と言うのには、理由があります。丁寧に読むのは次のステップ3なので、その準備として、本当に読むべき内容があるのか、そして読むべきと思うなら、どのような観点で読めばいいのかなどをチェックしていくのが、ステップ2の目的だからです。
【ステップ3】「記者読み」:著者に質問するように読む
ここでは、ステップ2で選んだ箇所を読んでいくのですが、ポイントになるのは、「ふんふん、そうなのか」と素直に読むだけではなく、「本当にそうなのか?」「なぜそうだと言えるのか?」など、本を通して著者に質問をしているようなイメージで読んでいくということです。芸能人や政治家の会見では、記者がさまざまな質問をぶつけていますが、「記者読み」とは、あの場にいる記者の気分になって本を読むということです。
「なぜ?」と考えることによって、著者の意図を推測したり自分の考えを深めたりすることができます。また、より鮮明に記憶に残るというメリットもあります。
<本の理解を促進する3つの質問パターン>
(1)「前提は正しいのか?」
「投資がおすすめなのはなぜですか?」と著者に取材しているイメージです。そもそもなぜ、危険のない貯金ではなく、リスクのある投資をする必要があるのか。その背景にある著者の問題意識を、本を読みながら探っていきます。
(2)「その主張は正しいのか?」
著者の説に対して、「本当なのか?」と、一歩立ち止まって考えてみます。
「低金利であり、高齢社会が進む中、資産を増やすには投資が最適」という話ならば、確かにもっともでしょう。ただしここでは、投資が本当に自分にとってベストな方法なのか、あるいはもっと別の解決方法はないのかなど、著者と対話をしているイメージで本を読んでいきます。
(3)「著者の主張に根拠はあるか?」
一見もっともらしい話であっても、その主張が一定の事実に基づいていなければ、言い方は悪いですが、虚偽の情報ということもあり得ます。虚偽とまではいかなくても、著者の主張に何らかのバイアスがかかっている可能性もあるでしょう。本の中に、主張を裏づける事実はあるのか、よく読み解いてください。
【ステップ4】「要約読み」:3~5つに要約する
4ステップ読書法は、最後のステップ「要約読み」で総仕上げとなります。
要約読みとは、著者の主張や、自分の学びとなった部分を「要約」して、3つないし5つに集約することです。
この要約読みは、インプットの次の段階であるアウトプットを意識したものでもあります。ここでまとめる要約に、正解はありません。読む人それぞれに異なった要約でいいのです。本を読んで、自分が最も重要だと感じたところをまとめたものを、ここでは「要約」と呼んでいます。そして、この「要約読み」プロセスを通じて、学んだことを自分の中に定着させ、具体的なアウトプットにつなげていくのです。
具体的な方法としては、ステップ3の「記者読み」でしっかりと考えながら読み込んだ部分を、3〜5つに集約していくというやり方です。ただ、「どの項目も捨てがたいものが多くて、どのような方針で選んだらいいのかよくわからない」という場合もあるでしょう。
そのようなときには、次のことを意識してみてください。
(1)選び出した項目をチャンク化する
「チャンク化」とは、情報を、ひとかたまりとして捉えるということです。こうすることで、本の内容を覚えやすく、また人に伝えやすくもなります。
例えば、読んでいる投資の本に「株価に連動して価格が変動するインデックスファンドは、ハイリターンはのぞめないがリスクも低い」「世界の株式価格は、短期的な視点では上下の値動きが激しいが、数十年単位の長期で見ると、着実に上昇している」というふたつの項目があったとします。これをチャンク化すると、「世界の株式価格は長期的には上昇しており、これに連動するインデックスファンドも、長期で見れば、ローリスクでリターンを増やせる」ということになります。
このように複数の要素をまとめることで、内容はより簡潔に、理解しやすくなります。
(2)本を知人に紹介するときに、どのように説明するか考える
読書で大切なのは、インプットだけでなく、その本で学んだことをアウトプットすることです。そしてアウトプットにはいろいろな方法がありますが、本の内容を人に説明するというのも、ひとつの方法です。
そこで、その本の中から印象に残っている部分を3つ人に説明するとしたら、何を選ぶかという視点で考えてみてください。著者の主張と自分の考えが食い違うような場合でも、「著者の主張はこっちだと思うけど、自分にはこれの方が大切に思えた」という話ができれば十分です。そう考えれば、要約読みのハードルはだいぶ下がるのではないでしょうか。
ぜひ自分に合った方法で、この「4ステップ読書法」を取り入れてみてください。きっと「読んだ本が自分の血肉になっている」ということを体感できるはずです。
■
金川 顕教(かながわ・あきのり) 公認会計士・税理士
公認会計士、税理士、『YouTube図書館』運営、作家。
三重県生まれ、立命館大学卒業。大学在学中に公認会計士試験に合格し、世界一の規模を誇る会計事務所デロイト・トウシュ・トーマツグループでの勤務を経て独立。現在、会社7社のオーナー業の傍ら、起業家育成プロデュース、出版プロデュースを行い、1人でも多くの人に読書の大切さを伝えるため、『YouTube図書館』の運営及び執筆活動を開始。『YouTube図書館』では、毎日更新、年間365本の書籍解説動画をアップし、これまでに解説した書籍は1,640冊以上、チャンネル登録者は132,329人、動画再生数は2,656万回を突破(2023年1月現在)。執筆活動では、ビジネス書、自己啓発書、小説など多岐にわたるジャンルでベストセラーを連発し、累計部数は55万部以上。
【関連記事】
■会計士が教える、科学的に正しい本の選び方。 (金川顕教 公認会計士)
■会計士が教える、科学的に正しい読書術。(金川顕教 公認会計士)
■「ナイチンゲールは優秀な統計学者だった」という事実から考える、医療と統計の関係。 (サトウマイ データ分析・活用コンサルタント)
■統計学でジャンケンに勝つ確率を少し上げる方法 (サトウマイ データ分析・活用コンサルタント)
■過去最高の税収68兆円より社会保険料が多い理由。(中嶋よしふみ FP)
編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2023年5月10日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。