ニューヨークの国連総会で27日、イスラエルとイスラム過激テロ組織「ハマス」の戦闘が続くパレスチナ自治区ガザを巡る緊急特別会合が開かれ、ヨルダンが提出した「敵対的な行為の停止につながる人道的休戦」を求める決議案が賛成多数で採決された。
同決議案は国連加盟国(193カ国、投票国179カ国)のうち、賛成120票、棄権45票、反対14票で必要な3分の3の多数票を獲得した。国連総会決議は国連安保理決議のような国際法上の法的な拘束力はないが、国連加盟国の意思表示として政治的シグナルはある。
アラブ諸国がまとめた今回の決議案では、イスラエルとパレスチナの民間人に対するあらゆる暴力を非難し、「不法拘束」されているすべての民間人の即時無条件解放を求め、ガザ地区への人道支援への無制限のアクセスを要求している。また、「敵対行為の停止」につながる「即時恒久的かつ持続可能な人道的停戦」を求めている。
同決議が採択されると、イスラエルのギラッド・エルダン国連大使は、「採択された文書ではイスラエルをテロ襲撃したハマスの名前は言及されず、ただ、10月7日以後のイスラエル軍の報復攻撃の激化に対する懸念だけが表明されている」として、「国連にとって今日は暗い日だ。不名誉な日として歴史に記録されるだろう」と述べ、国連の正当性を糾弾した。
決議案では加盟国の意見は分かれていた。例えば、エジプトとカタールは決議の採択を主張し、米国は明確に反対していた。同時に、ガザ地区でのイスラエル軍の行動に対する西側諸国の態度にも違いが表面化した。フランス、ベルギーなどは決議案に賛成票を投じたが、ドイツ、イタリア、英国、そして日本は棄権した。
ちなみに、同決議案に反対票を投じた国は、イスラエル、米国、グアテマラ、ハンガリー、フィジー、ナウル、マーシャル諸島、ミクロネシア、パプアニューギニア、パラグアイ、トンガ、オーストリア、クロアチア、チェコの計14カ国に過ぎない。
オーストリアのネハンマー首相は28日、同決議案に反対した理由として、「ハマスのテロ攻撃を名指しで非難していないこと、イスラエルの自衛権を認知していない。そのような決議案を賛成できない」というコメントを公表している。
問題は欧州連合(EU)27カ国の決議案への投票状況だ。共通の外交を標榜してきたEUは国連総会決議ではバラバラだった。フランス、ポルトガル、スパイン、スロバニア、マルタ、アイルランドなどは賛成票を投じ、ドイツやイタリアは棄権に回り、オーストリア、ハンガリー、クロアチア、チェコは賛成票を投じたのだ。
国連総会開催数時間前、EU首脳会談は26日、ブリュッセルでパレスチナ自治区のガザ情勢を協議し、人道状況が悪化している同地区への安全な援助物資輸送のための停戦と保護された回廊を求め、紛争双方に一時停戦を要求する「首脳宣言」をコンセンサスで採択したばかりだ。
同宣言では、「ハマスとイスラエルの間の紛争において、われわれは援助物資を届けるために継続的、迅速、安全かつ妨げられないアクセスを求める」とし、必要な措置として「人道目的の回廊」と「休戦」を要求している。そのうえで「EUは地域のパートナーと緊密に連携して民間人を保護し、支援を提供し、食料、水、医療、燃料、避難所へのアクセスを促進する。この援助がテロ組織によって悪用されないようにしなければならない」と明記している。
そして首脳宣言では、「停戦」ではなく、「休憩」(Breaks)という言葉が使われている。そして「休戦」は複数で表されている。すなわち、通常の「停戦」ではなく、必要に応じて休戦するという意味合いが含まれる。EUがイスラエルに対しハマスとの戦闘を即時停止するように求めていないことを明確にする狙いがあるといわれた。
そのEU27カ国の加盟国が舞台を国連総会に移した瞬間、例えば、フランスはハマスを名指しに批判しない決議案を賛成する一方、イスラエルを無条件に支持すると表明してきたドイツは棄権に回ったのだ。
ドイツのベアボック外相は、「なぜ反対せずに棄権したのか」という質問に対し、「決議案はハマスのテロを明確に名指ししておらず、人質全員の解放を十分に明確に要求していない。そのうえ、イスラエルの自衛権を再確認していないため、棄権に回った。欧州のパートナーの多くは決議案に同意しないことを決めていた」と述べたが、「反対せずに棄権に回った理由」については説明を避けている。
ウクライナ戦争では、EUを含む欧米諸国は驚くべき団結を示した。そしてガザ問題でもEU首脳会議は「首脳宣言」を妥協の末に採択したばかりだ。その数時間後、EUの団結は崩れ去ったわけだ。その結果、EUの共通外交はさらに非現実的となり、対外的にはEUの信頼的パートナーとしての立場を失うことになったわけだ。
参考までに、EUの対ウクライナ支援問題でもここにきて加盟国間で違いが出てきている。ハンガリーは対ロシア制裁に反対し、スロバキアの新政権はウクライナへの武器供与をストップする意向といわれるなど、EU加盟国内のウクライナ政策にも亀裂が見え出している。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年10月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。