会長・政治評論家 屋山 太郎
ロシアのウクライナ進攻に続き、パレスチナとイスラエルの衝突が起きたことで世界は2つの戦争を抱えることになった。この戦争がこれ以上激しくなれば世界の平和は危うくなる。まず言論の自由も危うくなると覚悟しなくてはならない。
イスラエルのハマス攻撃が激化した時、フランスはパレスチナ情勢の飛び火を危惧して、10月12日にパレスチナを支持するデモを禁止すると発表した。ダルマナン内相はこれを破った外国人を国外追放処分にするとまで述べた。フランスのユダヤ教徒コミュニティは約50万人、イスラム教徒のそれは約500万人規模とされる。
この紛争が国内に分断をもたらさないようマクロン大統領はビデオ演説で国民に団結を呼びかけ、デモ禁止令まで出した。その後、裁判所が「デモの自由に対する明白な侵害」としたため、撤回した。
フランスのようにデモ好きな国で、これを止めようとする動き自体が、状況の深刻さを示している。
ちょうど50年前、第一次中東戦争の取材に駆けつけた時の第一印象は、「この連中は武士道を全く心得ていない」というものだった。私は父親が鹿児島出身だったせいか、「女性と子供には手を出してはいけない」と何度も説教されたものだ。この精神は身に染みついていて、他の少年が女の子をいじめている様を見ると、猛然と飛び掛かって行って、のし上げた。
日本人が全て武士道を心得ているわけではないが、民心の中心には武士道がある。そのお陰で、市井ではとてつもない残虐行為が起こらないのだと思う。
中東には欧州系が入って体制を作ったが、やり方が良かったか悪かったかは別にして、成功したためしがない。イランに王様を配したが途中で倒され、最後は米国がアフガンから撤退し、中東は自由となった。
中東の紛争を何度も取材に行ったが、「何で争っているのか」と両方に聞いても、はっきりと理解できなかった。宗教に端を発する民族間の問題や、それによって起こる文化摩擦の歴史は理解できる。が、その先には常に「暴力」と「破壊」によってしか解決策を見出そうとしない。そのことが理解できない。
ヨーロッパにおける壮大な移民事業が失敗したのは、イスラム圏の人々を無差別に入れ過ぎたからだと断じていい。EUは一旦入国すれば、EU加盟国のどこに行ってもいいというシェンゲン協定がある。この協定が出来た時にはEUの人たちの温かさ、寛大さに感嘆したが、英国は結局、我慢しきれなくなって、元のイギリスに戻ったのである。
今の世界情勢で最悪なのは、イスラム世界が1つの力になり、ロシアと結びつくことである。一方のEUは個性を求める分散化の方向にある。この動きにあるとすれば、2つの動きを食い止めなければならない。少なくともイスラム世界がプーチンの下について、下僕のようになるのが最悪だ。プーチンの弱みは経済である。EU側の経済圧力を強めて、ロシア経済を崩すのが一番だろう。
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屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2023年10月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。