CO2濃度が過去最高の420ppmに達し産業革命前(1850年ごろ)の280ppmの1.5倍に達した、というニュースが流れた:
世界のCO2濃度、産業革命前の1.5倍で過去最高に…世界気象機関「我々はいまだに間違った方向へ」(読売新聞)
それにしてもこういった報道のトーンは、いつものことながら、いただけない。まず、CO2濃度は毎年コンスタントに上昇してきたから、こうなることは分かりきっていたことで、たいして新鮮味はない(図)。
そして、この「1.5倍になった」ことが、とても悪いことのような報道ぶりだ。
だがそれでは、元の280ppmに戻すべきなのだろうか?
もちろん現実には戻せないが、思考実験として考えてみよう。
いまと1850年を比べてみると、地球の平均気温は約1℃上昇したと言われる。しかし、この連載で縷々述べてきたように、悪いことなど一切起きておらず、良いことばかりだった。
自然災害の激甚化など一切起きていないことは統計を見れば分かる。むしろ、化石燃料が原動力となった技術進歩と経済成長のおかげで、防災能力は向上して自然災害による死者は激減した。肥料や農薬などの農業技術のお陰で食料生産は増え、人々は健康で長生きするようになった。
この程度の緩やかな地球温暖化であれば、良い事の方が圧倒的に多かったのだ。ちなみに、食料増産にはCO2濃度上昇による好影響じつは結構あった。CO2は植物の光合成に必須の栄養素だからだ。
仮に1850年の280ppmを維持するために、化石燃料の使用を禁止したらどうだったか。今日のような繁栄はなく、人々は、相変わらず貧しく、飢え、短命に終わったことだろう。
今後についても、緩やかなCO2濃度上昇と温暖化であれば、良い事の方が悪い事を圧倒的に上回るだろう。
よく用いられるRCP8.5シナリオはCO2排出量が多すぎて現実には有り得ないと言われるようになった。
それではありそうな範囲の上限と見られるRCP6.0シナリオではどうかというと、あと1.5倍の630ppmになるのは2090年ごろだ。
CO2による地球温暖化への影響は飽和するので対数関数になる。だから今からあともう1度気温が上がるのは、420ppmの1.5倍の630ppmの時であり、420ppmに280ppmを足した560ppmの時ではない。この点よく誤解されているが、CO2濃度による気温への影響は指数関数的に増すどころか、線形関数ですらなく、対数関数的に飽和するのである。
すると、仮に過去150年の1℃の地球温暖化が全てCO2に起因するものだったとしても、2090年までの気温上昇はあと1℃となる。今から70年以上かけて1℃程度のゆっくりした地球温暖化であれば、これまで同様、良い事の方が多いと見通す方が理に適っているのではないか?
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