早期リタイアは早期老化する

黒坂岳央です。

「一日も早く仕事をやめて一生遊んで暮らしたい」、2020年以降FIREという言葉が流行り関連の記事、動画、SNS発信をよく見るようになった。FIREと一言でいっても「会社勤めをやめて軽いバイトだけで収入を賄う」とか「好きな仕事だけで軽く稼ぐ」とか「100%資産運用だけで稼ぐ」みたいなスタイルにわかれる。

自分自身、この定義でいえばFIREをしていることになるわけだが、毎日仕事をしている。そして過去記事60代で仕事を引退してはいけないでも触れたが、仕事をやめるべきではないと思っている。その理由を一言でいうと、早期リタイアは早期老化につながるからだ。FIRE全体を否定しているわけではなく、完全に仕事をやめて資産運用からの安定収入だけで生きていくスタイルを問題提起したい。

masamasa3/iStock

早期リタイアの肉体リスク

仕事をすると付随して意外にも運動をしているものである。会社への出退勤やオフィスでの歩行、休憩時間の外食や出張などだ。

しかし、仕事をやめるとそれまで運動習慣がなかった人は通勤も飲みの付き合いもなくなり、多くの時間を家の中で過ごすので運動不足になる。いや、運動不足で済むならまだいい。加齢により心身が衰え、健康と要介護の間の虚弱な状態であるフレイルに陥るリスクがある。

2020年のパンデミックの感染やステイホームで一気に寝たきり老人になったという報道が続いた。また、寝たきり老人とまではいかなくても、健康状態を一気に悪化させた若年層も増加したことが記憶に新しい。ステイホームとは、半強制的に早期リタイヤ生活をしているようなものなので、これがどれだけ肉体的に悪影響だったかを、我々はまざまざと見せつけられる事になったのだ。

精神的老化も深刻

また、肉体的な問題だけでなく、精神面で仕事を辞めて社会からのつながりを失うダメージは更に深刻だ。仕事を通じて得られる自己愛や、社会とのつながりがなくなると、孤独感や無力感が増して精神的な老化を早める原因になる。そしてこれは仕事以外では代替手段が存在しない。

引退後にアイデンティティを失い、鬱症状が現れるリスクが高まることを指摘する心理学者や医師もいる。長年のキャリアで培ったスキルや知識を使わなくなると、認知機能が低下し、結果として早期の認知症発症リスクが上昇することが研究で示されているのだ。

定年退職後、何もせず1日中テレビの番人をしたり、資産運用で成功した一気に巨万の富を得てリタイヤした人がいる。彼らは外出先で店員さんに怒鳴るなど感情のコントロールができなくなったり、アイデンティティの喪失感を埋めるための飲酒習慣が加速するという事例もある。社会とのつながりを失うと一気に老化するのだ。また、これも過去記事で書いたことがあるが、仕事をやめた人が僅かな期間で一気に痴呆症状が噴出してしまった事例を自分は目撃したこともある。

仕事は最強のアンチエイジング

昨今、人生100年時代と言われアンチエイジングが人気だ。脳トレグッズもよく売れている。しかし、計算ドリルや脳トレゲームを頑張るより、仕事を頑張る方が遥かにアンチエイジングに効く。

その状況証拠として、年齢を重ねても若々しさを保ち続ける人々は第一線でビジネスで活躍しているという共通点を持つ。特に男性においては、経営者など裁量を持ってバリバリ仕事をする人は、実年齢以上にとにかく若いという印象がある。

彼らは70代、80代になっても気力に満ち溢れ、健康な体を維持していることが多い。彼らの多くは、自ら仕事を創り出し、挑戦し続けることで、適度なプレッシャーと充実感を感じている。このような環境は、脳を活性化させ、精神的な若さを保つ助けとなる。また、社会とのつながりを維持することが、孤独感を軽減し、長寿の秘訣となっているのだろう。

早期リタイアは一見魅力的に映るかもしれない。しかし、肉体的・精神的なリスクを考慮すると、仕事はできるだけ長く続けた方がいい。また、仕事は一度引退をしてしまうと、キャリアの中断が尾を引くだけでなく心身ともに一気に老けて能力が低下する。そのため、戻りたくてももう二度と仕事に復帰できなくなることも少なくない。安易にリタイヤへの片道切符を買ってはいけないのだ。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。