60代で仕事を引退してはいけない

黒坂岳央です。

マクドナルドで90歳で週5勤務する人が話題を呼んでいる。67歳からすでに23年勤務しており、朝7時半~10時半勤務で週5日、元気に働いているという。

SNSでは反応が賛否両論で「生涯現役で素敵」「仕事が生活にハリを与えている」という肯定的な声がある一方、「年金生活が苦しいからだ。運動なら本来、ジム通いできた方がいいに決まってる」というネガティブな声も見られた。

以前から何度か過去記事で主張しているが、個人的には仕事はできるだけ続けた方がいいと思っている。経済力を維持するためというより、健康と脳の老化防止になるためだ。

monzenmachi/iStock

セミリタイアで劣化する人たち

以前よりFIREという生き方が物議を醸していた。資産運用からの収益だけで生活できるように設計し、積極的に仕事はしないというものである。一部の人の中では「仕事は悪」という考えが根底にあり、人生から仕事を完全に排除することで幸せをつかもうというものである。

しかし、人間の価値観はそう単純な生き物ではない。セミリタイアが地獄の入り口である事例は過去にいくつも取り上げられている。

たとえば筆者が知っている事例ではFIREで暇を持て余した結果、やることがない虚しさと社会から切り離されている感覚に苦しんでいる人物がいる。彼は朝からずっとアルコール漬けでなければ正気を保てず、夜になるとベッドの上でひたすら泣き続けるといった不安定な精神状態である。

その他にもFIRE後にやたらと世の中に否定的になり、政治や社会に対して不満を垂れ流し、外食では店員さんに「早くもってこい」「底辺の仕事だな」と怒ったり蔑んだりと、人格の劣化が著しい事例もある。

仕事は金銭を得るだけの行為に留まらない。顧客を満足させることで相手から頼りにされたり、感謝されたりするというメリットは計り知れないし、これらはお金で買うことはできない。件のマクドナルド店員に「運動ならジムへいけばいい」という反応も「仕事の強制力を活用して、運動ルーチンを構築している」という人間心理を見落としていると感じる。

筆者は日々、必死に勉強したり仕事をしているのは「自分が知識とスキルを仕入れて提供し、お客さんに喜んでもらいたい」という純粋な気持ちからである。必死に努力することは大変である反面、規則正しい生活を維持でき、頭も快調によく動く。朝から夜までテレビの番人の生活は、ボケ老人の入り口なのだ。

セミリタイアで人間性が劣化する人は少なくない。仕事には人間が文化的に人生を楽しく生きるのに必須な要素が詰まっている。これを切り離してしまうリスクは計り知れないだろう。

仕事の引退は片道切符

仕事を引退することの怖さは、片道切符である点だ。「とにかく仕事がストレスなのでやめたい。もう働くのに疲れて引退したい」という人は「いざとなればまた仕事に復帰すればいい」と考えているかもしれない。しかし、ことはそう簡単ではない。

まず本人が仕事への復帰を希望しても、社会がそれを受容するとは限らないのだ。特に数年、10数年のブランクを作ってしまうと、採用する側は警戒するのが普通である。

これに対して「日本の社会は雇用に閉鎖的だ」と批判する声もあるが、それはおかしな意見だ。なぜなら他の先進国の一部では前職のリファレンスチェックとか、MBAといった市場価値を示すシグナリングを求めるなど、日本以上に慎重さを感じる国家もある。また、他国では日本以上に解雇規制が強力であるため、いざ採用されても即戦力でなければあっさり解雇されてしまうためだ。日本企業にダメダメ言う人は、一度海外や外資系で働いてみれば硬直的な感覚に変化が起きる可能性はある。

話を戻すが、仕事をやめたら復帰は容易ではない。少なくとも以前の仕事の水準と比べて、より単純かつより人手不足で労働集約的な産業を選ばざるを得ない可能性は否定できない。いや、最大の問題は「働こう」という意欲の復活の難しさの方かもしれない。

50代、60代で引退してしまい、生活を切り詰めればなんとかなる状態で仕事をやめ、仕事に復帰するという行動に移すのは大変難しいことは容易に想像がつく。また新しい職場で新しいことを覚え、人間関係に苦慮することを想像すれば「働くよりのんびり過ごしたい」と考えるのが自然である。つまり、社会的理由と本人の勤労意欲減退を合わせて、「仕事をやめたらもう戻れない片道切符」になり得るということだ。

仕事はやめずに変える方がいい

上述した通り、仕事をやめてしまうことはとてもリスキーである。若ければなんとでもなるが、中高年以降はブランクを作ると復帰は難しい。ならどうすればいいか?結論、働きやすい仕事へスイッチするのである。

自分は30半ばまで色んな仕事を会社員で経験した。一通り経験して会社員という働き方が自分は向いていないことを悟り、起業して今がある。会社員時代は会社や周囲の人間関係には恵まれたが、能力を上手に発揮できていないという感覚があったが、「仕事は辛いのでもうやめてしまいたい」とは考えたことはなく、「自分の能力を活用できる仕事にシフトしたい」と感じて起業した。

苦心惨憺したものの、今では仕事を楽しいと感じる状態に到達できた。独立して仕事を完全にやめたいと思ったことはない(試しに数ヶ月まったく働かない生活を送ってみたことはあるが)。何歳まで需要があるかは分からないが、できるだけビジネスの延命を努力したいし、仮に今やっている仕事にニーズがなくなっても、すぐさま自分を必要としてくれる仕事を見つけてマーケットに戻りたいと思っている。特にこれから50代、60代と歳を重ねて、変化の早いマーケットから離れてしまうのは、取り残されてしまいそうで恐ろしいという感覚がある。

ビジネス力のアンチエイジングの意味合いでも、仕事をやめるつもりはないし、他の人にも生涯現役を提案したい。

 

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