京都大学建築散歩。

西の最高学府、京都大学。

わたしの第一志望でしたが、残念ながら受験することもかなわずここで学ぶことはありませんでした。他の大学を卒業して30有余年が経ちましたが、思い入れは強く、この近くを通るたびふらっと立ち寄ることが多いです。

百周年時計台記念館

そんな京都大学。実は古い建築物が今も多く残っており学内を散歩するのも楽しい場所です。正門を潜ると真正面に見えるのが百周年時計台記念館。ここから散歩は始まります。

時計台は京大のシンボル的存在ですが今は時計は時を刻んではいません。1925年に建てられた建物は法経学部の教室や食堂、大ホールなどで活用されてきました。創立百周年を迎えた2003年に免震工事が施され、ホールやサロン、京大の百年の歴史を伝える資料館へと生まれ変わっています。

帝国大学時代から国立大学法人となるまで激動の百年の歴史を伝えています。

資料館の中央部には吉田キャンパスの全体像を模したジオラマが展示されています。
この広い構内に古い建築物がいくつも点在しています。

紹介が遅れましたが、百周年時計台記念館を覆い隠すように正門前にどっしりと構える存在感溢れるクスノキは大学のエンブレムにもなっている京都大学の象徴的存在です。多くの優秀な卒業生をここから送り出し、見守ってきました。

京都大学のエンブレム。
中央に描かれるのがクスノキです。

名建築の並ぶ吉田キャンパスを歩く

それでは吉田キャンパス内をぶらぶら歩いて見ましょう。正門西側に佇むレンガの赤が鮮やかな建物は旧石油化学教室本館。1889年に竣工した建物で内側の建物の一部は今でも教室として使われている、京大最古の建物です。

教育学部の前に立つ小さな建物は尊攘堂と呼ばれる建物。明治の政治家、品川弥二郎氏が所有した吉田松陰をはじめとする幕末志士の遺品を収めるために1903年に建てられたもので、小屋根や切妻のポーチなど洋風要素を配した建築になっています。

続いて現れた緑の敗色が鮮やかな建物は登録有形文化財の文学部陳列館。1914年の建てられたもので歴史学、考古学など文学部所有の貴重な資料が収蔵されていました。老朽化が激しく今、その機能は隣接した京大総合博物館に移っています。

資料館としての名残は建物の周りに今でも残ります。建物の周辺には京都で出土された石棺などが展示されていますがこれらは新たな博物館に移すことができずそのままこの場所に残されたままになったものです。

キャンパスの北の方に歩を進めると鮮やかな赤煉瓦に白の御影石のアクセントが美しい建物が現れます。こちらは旧土木工学教室本館。1917年に建築家永瀬狂三の設計が設計を手掛けて建築されました。中央の玄関から左右に延びる横長の建物はシンメトリーになっています。当初の建築から徐々に左右に拡張され、1924年に現在の形となっています。完成後今年で100年を経て今もなお総合研究14号館として使われています。

国立大学の建物は古いものが多く、中には老朽化の激しいものもありますが、京大のキャンパスに佇む建物たちは現役で使うのに十分耐えうるものばかりで、歴史と伝統を感じさせる味わい深いものばかりです。

こちらは旧建築学教室本館。現在は総合研究15号館と呼ばれる建物です。設計者は武田五一。ヨーロッパでアールヌーボーなどの最新の芸術を学んだあと帰国し、1920年に新設された京都帝国大学建築学科の創設委員となった人物で、自分が教鞭を振る教室を自分で設計し建築しました。

実は最初に紹介した百周年時計台記念館の設計も武田の手によるもの。エビ茶色のタイルや窓の配置が双方ともよく似ています。正面のカーブした壁面などは当時としてはかなり斬新なデザインだったのではないかと思います。

吉田南キャンパス「学友会館」

吉田キャンパスを堪能したあとは、大きく南に歩を進めてみます。吉田南キャンパスの門衛所も登録有形文化財。周りの校舎は新しくなっていますが、ここの古さが異彩を放っています。

吉田キャンパスの南に佇む吉田南キャンパス。その南端の近衛通沿いには南欧風の建物が建っています。楽友会館と呼ばれるこの建物は大正末期に京大の助教授だった森田慶一氏の設計により建てられたもので、現在も教職員の学術交流の場として利用されています。

京大の中を歩いているとさまざまな様式の建物が建てられているなと感じます。学内で統一性がないのはどうなんだと疑問を感じる一方でそれが自由な学風を前面に押し出す京都大学らしさなのかもしれないとも思います。

ちなみに楽友会館の北には1913年築で建築学的にも歴史的価値の高い吉田寮がありますが、学生たちの住まいなので遠くから眺めるにとどめることにします。

東アジア人分情報学研究センター

最後に訪ねたのは「東アジア人文情報学研究センター」。吉田キャンパスの東、銀閣寺に近い住宅地の中に佇む南欧・北イタリア風の建物で豊かな装飾が目をひきます。北イタリア風の建物なのに研究しているのは東アジアというアンバランスさが面白いところです。

建物の壁にアクセントとして設置された日時計。

現在も研究施設として機能しているため非公開となっていますが、なんとも目をひく建物。1年に1度でいいので内覧できる日があるといいなと思います。

西の最高学府として現在もその名を轟かせる京都大学。そのキャンパスはバラエティ豊かな歴史的建造物が並ぶ歩いていてとても楽しい場所でした。

あくまで学校であり、学習、研究のための機関ではありますが学内の散歩は自由ですので、邪魔にならないように構内を歩いて静かに建築を楽しむ散歩をするのもいいのではないかと思います。


編集部より:この記事はトラベルライターのミヤコカエデ氏のnote 2024年9月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はミヤコカエデ氏のnoteをご覧ください。