フランシスコ教皇の呼び掛けで2014年に設立された「教皇庁未成年者保護委員会」は29日、聖職者らによる未成年者への性的虐待問題に関する包括的な報告書を発表した。50頁に及ぶ報告書では、新たな聖職者の性犯罪件数など数字は含まれていないが、教会や関連施設での聖職者の性犯罪が多発してきた背景について言及し、「教会は明らかに失敗した」と指摘している。
設立から10年後、教会における虐待防止の現状について、「教皇庁未成年者保護委員会」(委員長・ショーン・パトリック・オマリー枢機卿)が教会共同体やローマ教皇庁内で行われた調査や研究の結果をまとめたもので、5つの大陸を対象としている。報告書は教会側の対応の進展を強調しつつ、地域的な課題や緊急対策の必要な分野を明らかにしている。
オマリー枢機卿は、報告書の発表に際し、被害者に向けて「あなた方の苦しみと傷が、私たちに教会としての失敗を気づかせ、最も必要とされていたときに被害者を守らず、理解しようともしなかったことを私たちに悟らせた」と説明。また、被害者や生存者による「勇敢な証言」を称賛し、「私たちは、あなた方が空虚な言葉にうんざりしていることを知っている。私たちが何をしても、起こったことを完全に癒すには不十分であることを理解しているが、この報告書を通じて、教会内で二度と同じことが起こらないようにするという約束を強化したいと願っている」と話している。報告書の表紙には被害者の回復力を象徴するバオバブの木(別名「生命の木」)が描かれている。
報告書では、教会全体における虐待件数や、各国での教会法上の手続きの進行状況について包括的な情報はない。多くの国から信頼できるデータが得られていないためだ。その代わりに、報告書では虐待事例に対応するバチカン当局や各地域の教会での改善提案が示されている。
フランシスコ教皇は2014年、教会内での聖職者による性的虐待を根絶するための措置を講じるように命じた。同委員会は、虐待被害者の声を聴き、必要な改革と保護のメカニズムの確立を目指してきた。報告書は「被害者が情報へアクセスしやすくなることを願う。被害者に関するすべての情報は、プライバシー保護を死守しながら公開されるべきだ」と訴えている。同時に、教会内で聖職者の性犯罪に対する責任を定め、「虐待案件を効率的かつ厳格に扱うためにはバチカン当局間のより緊密な連携が求められる」と指摘している。
報告書の重要な部分は、各地域教会における未成年者保護の現状に焦点を当てている箇所だ。委員会は毎年15~20の教区を審査し、進展を分析して改善点を探ってきた。最近では、メキシコ、ベルギー、パプアニューギニア、カメルーン、さらにコンソラータ宣教会および聖霊修道会(男女双方)において調査が行われた。
特にアメリカ、ヨーロッパ、オセアニアの一部地域では、未成年者保護のための進展が見られる一方、アフリカ、アジア、中南米の地域では必要な構造や資源が不足しているという。委員会は、世界の地域教会に対し、より多くの連帯を求め、資源が不足している教会共同体への支援を強化するよう訴えている。
報告書のもう一つの重要な点は、ローマ教皇庁が保護措置の発展と普及の中心的役割を担っている点だ。報告書は、教皇庁内での透明性を高めるだけでなく、基準の統一と明確なコミュニケーション体制の整備が必要とし、「全世界の被害者に対して同じ保護基準を保証すべきだ」と求めている。また、委員会は教義省の規律部門による統計情報の公開が限られている点を批判し、虐待案件をより効果的に追跡するために、このデータへの包括的なアクセスが求められるとしている。教会指導層と世界教会に対しては、「教会全体に対して、虐待防止を共同の責任として捉えるべきだ」と呼びかけている(バチカンニュース 独語版から)。
報告書は、未成年者を性的に虐待した聖職者が今後迅速に辞職することを要求している。教皇庁児童保護委員会の提言の一つで、正当な理由があれば「辞職手続きを加速させる」と助言している。この手続きが疑惑段階で行われるのか、教会法や刑事手続きの後に行われるのかについては明記されていない。
報告書ではまた、データ収集の透明性向上や、被害者支援のための標準化された報告体制や支援サービスの導入も求めている。
先述したように、同報告書は聖職者の未成年者への性的虐待件数や実例については言及されていない。信頼できるデータの収集が遅れていることをその理由に挙げている。その点、報告書は不十分と言わざるを得ない。
教会は聖職者の未成年者への性的虐待を久しく隠蔽してきた歴史がある。明らかになっては困るような事例が数多くあるはずだ。「教皇庁児童保護委員会」の報告書が単なるバチカンの対策へのアリバイとなってはならない。可能な限り、迅速に、世界のカトリック教会での聖職者による未成年者への性的虐待総件数を公表すべきだ。それができないとすれば、聖職者の性犯罪へのバチカン側の真剣度と熱意が疑われても仕方がないだろう。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年10月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。