スイス・ジュネーブの国連欧州本部で、女性差別撤廃条約の実施状況を審査する国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)が、2016年2月から新型コロナ渦を挟んで8年ぶりに開かれ、毎回、問題になっている選択的夫婦別姓の導入などとともに、「男系男子」が皇位を継承することを定める皇室典範の改正をあいまいな形だが勧告され、「愛子天皇に追い風か」などと話題になっている(実際には悠仁さまを押しのけて愛子さまを天皇にという趣旨でないことは記事で解説)。
それについて、ダイヤモンド・オンラインで記事にしたが、ここではそこで触れられなかった問題を中心に説明したい。
日本から40もの団体が参加し、26の団体がスピーチをしたが、長いと3分とか、短いものは20秒とか意見陳述をし、10月29日に日本政府に対する勧告を含む「最終見解」を公表した。
この会合に参加したグループでは、前回は左派・リベラル系が圧倒的で、そのなかで、杉田水脈(当時は元代議士)氏が参加して、「反日勢力が創り上げた慰安婦問題の欺瞞について異議を唱え」などと孤軍奮闘したが、その様子を自分で紹介したときに、「チマチョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさん」と際どい表現をして、法務局から警告を受ける騒ぎになった(本人の意見も聞かないもので不当と杉田議員は反論)。
そのような経緯もあって、今回は左派系だけでなく6団体の保守系からも参加して積極的に発言しようという人も増えて交通整理がつかなくて、保守と左翼と2グループに分けられた。
なお今回の最終見解では、前回2016年の勧告以降に日本政府が採った、男女で違った結婚年齢の格差解消や、女性の再婚禁止期間廃止を実現する法改正を評価する一方、既述した選択制夫婦別姓の他にも、幅広い分野で改善を勧告した。
性的少数者の人権をめぐり、同性婚を認めること、昨秋の最高裁判決で違憲・無効となった性同一性障害特例法の生殖不能要件のもと不妊手術を受けた人への賠償の要請がなされた。人権侵害された個人が国際機関に訴える個人通報制度についての「選択議定書」の批准も要求しているが、国際機関が越権行為をしないなど信用されなくては難しいことだ。
沖縄の女性への性暴力を防止し、加害者を適切に処罰することなども求めたのは、日米地位協定に関するものだが、この改定の障害になっているのは、人質司法など日本の司法制度の後進性であるが、そうした事情は無視されている。
中絶に配偶者の同意が必要だとしている母体保護法の要件削除については、審査の中で「日本が近代国家、経済大国であることを考えると驚くべきことだ」と暴言ともいえる発言をした委員もいた。
女性議員の数が少ないことに鑑み、国会議員に立候補する際の供託金300万円を女性については減額し、意思決定に女性を増やすというのは、ITアナリストの深田萌絵氏が、35秒の演説で訴えたものだが、これも最終報告での勧告として採用された。
日本企業による北アフリカなどでの鉱山投資について、「ジェンダーに基づく暴力と労働搾取の増加に直面している女性に有害な影響を及ぼしているとの報告に懸念をもって留意する」とあったが公正とは思えない。
また、「慰安婦」への記述をやめた教科書に対するネガティブなニュアンスの記述もあるが、十分に調査検討したものではなさそうだ。あいかわらず、左翼・リベラル系の活動家に比べて政府のロビー活動の手薄さも気になった報告書だ。国連と丁々発止やり合うことはどこの国でもやっており、何も国連軽視でもなんでもない。
戦前の国際連盟脱退のトラウマから、個別機関からの脱退や資金ストップをちらつかすことなどを日本はやらないが、主要国はそういう戦いも厭わないのを常識にしている。
皇室典範については、2016年にも報告書で皇室典範の見直しに言及しようとしたが、日本政府の反論を受け草案段階で削除された経緯がある。ところが今回は、いろいろと留保はついているが扱われている。
内政干渉もいいところだが、この点については、とりあえずダイヤモンド・オンラインの記事で詳しく論じているのでお読み頂きたいが、さらに詳細な記事を近日中に載せたい。
■