「緊急事態条項」という文字のイメージではなく、中身で議論を
韓国戒厳に山尾しおり氏「権力統制型の緊急事態条項の議論を」
韓国憲法には国会議員過半数による戒厳令解除規定があったからこそ、今回早期の収束が図られた。日本にも権力統制型の緊急事態条項を早急に憲法に導入すべきだ。国民・維新・有志の会でまとめてある緊急事態条項には、国会による宣言解除規定も入っている。緊急事態条項が危険なのではなく、まともな緊…
— 菅野志桜里 (@ShioriYamao) December 3, 2024
先ほどのポストに色々なご意見ありがとうございます。せっかくの機会なので、読んだ上での補足。
①「そもそも緊急事態条項がなければ問題が起きない!」的なご意見がありますが、コロナ禍で緊急事態宣言4回出ています。緊急事態条項がなくても緊急事態宣言は出ます。…
— 菅野志桜里 (@ShioriYamao) December 4, 2024
緊急事態条項反対論はあっていいんですけど、前提が違う「緊急事態条項はキケン」論は建設的でないので、以下8つの「キケン」について。…
— 菅野志桜里 (@ShioriYamao) December 4, 2024
韓国の戒厳布告に際して菅野志桜里(衆議院議員時代は「山尾しおり」名で活動)が「権力統制型の緊急事態条項の議論を」とX上で呼びかけ、報道各社が報じました。
これに対しては彼女らが提唱している「緊急事態条項」の中身を知らないで為されている批判があったので、その中身のソースを提示し情報を整理します。
維新・国民民主・有志の会が提案している緊急事態条項
【憲法】緊急事態条項について定めた憲法改正条文案について二党一会派で合意 | 新・国民民主党 – つくろう、新しい答え。
菅野氏の提唱する「緊急事態条項」は、国民民主党らが提唱しているものとほぼ同一のものと言えます。実際に菅野氏が国民民主党の憲法調査会に参加し、彼女の論が叩き台とされています。
今朝は国民民主党の憲法調査会に参加。
去年議員卒業のときに差し入れした緊急事態条項案が、叩き台の叩き台として活用され、いよいよ全体像が見えてきた!嬉しい限りです。
緊急事態条項はナチスの再来ではなく、むしろ緊急事態にナチスを生まないためのルールブックです。 pic.twitter.com/WY6FMeh3rG— 菅野志桜里 (@ShioriYamao) December 14, 2022
日本維新の会・国民民主党・有志の会(吉良州司・北神圭朗・福島伸享・緒方林太郎)が合意した「緊急事態条項」が、憲法審査会で示されています。
2023年3月30日(木)【「緊急事態条項の創設に関する3党派合意」について】|ニュース|活動情報|日本維新の会
その中身の概要は選挙の一体性が害されるほどの広範な地域において国政選挙の適正な実施が困難な事態が継続する場合の国会議員の任期延長や、国会の機能を維持する特別の必要がある場合の閉会禁止・解散禁止・憲法改正禁止の効果が発生することを定めている、というものです。
これは自民党が従前主張してきた緊急事態条項とは異なるものが含まれています。また、アメリカの国家緊急事態宣言*1により発動できる法令の一部として戒厳令が含まれているものとも異なります。
また、憲法審査会でも議論されているものです。
衆議院憲法審査会で議論された権力統制型の緊急事態条項とは?
第212回国会 令和5年11月9日 (木) 第2回憲法審査会
菅野氏や維新・国民民主・有志の会が提唱している「権力統制型の緊急事態条項」は、憲法審査会でも議論されています。
これは、いわゆる【国家緊急権】の発想とは異なります。
憲法学者の大家である芦部信喜の「国家緊急権」は、平時の統治機構をもっては対処できない非常事態において、国家の存立を維持するために、国家権力が、立憲的な憲法秩序を一時停止して非常措置を取る権限のことで、「権力拡張型」です。
この「国家権力」は、「行政」(自衛隊も行政に含む理解)の権力です。この場合、予め法で定めていない内容でも措置の内容を決めて実施することが可能です。
平時でも法に基づかない行政措置は侵害留保説的な運用の下で行われていますが、緊急事態における国家緊急権が想定してるのは、国民の権利利益の侵害も正当化するものです。例として外国人に対する生活保護や*2、国葬の実施*3が挙げられます。
これに対して菅野氏らが提唱するものは「国会機能の維持」のために採られる、予め法に定められた事項の効果であり、立憲的な憲法秩序が停止されないようにするためのものです。
軍が司法権・行政権を掌握する戒厳令と単なる緊急事態条項の違い
戒厳令と単なる緊急事態条項も混同されがちなので整理すればいいと思います。
戦前は戒厳令があり行政戒厳の例などがありましたが、現在の日本の国会では戒厳令は議論されていません。
戒厳というのは、平たく言えば「軍が国家権力を掌握する」ことを意味します。
より具体的には、憲法・法律の一部の効力を停止し、行政権・司法権の一部ないし全部を軍隊の指揮下に移行することを意味します。
韓国の戒厳布告はまさにこの意味の戒厳でしたが、菅野氏らが提唱し憲法審査会でも議論されているものは、これとはまったく異なるものです。
韓国の戒厳は、戒厳令の中に国会による非常戒厳の解除要求決議が定められ、それにより戒厳を解除できることが定められています。このような予め定められた要件、国会が関与できる手続が規定されていたことの重要性が、韓国の戒厳解除の例から学ぶべきことであると言えます。
その意味で菅野氏の投稿は意義があるものであり、この機にどのような中身が議論されているのか、改めて知られるべきではないでしょうか?
編集部より:この記事は、Nathan(ねーさん)氏のブログ「事実を整える」 2024年12月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「事実を整える」をご覧ください。