ここに来てガザに関連する報道が目立ってきました。それはイスラエルとの戦闘というよりガザの飢餓であります。
様々な画像を見るとわずかな食糧配給に人が押し寄せ、どうにか食糧を確保した人からその食糧を強奪するなどガザ地区の秩序が完全に崩壊しているように見えます。つまり表現は悪いかもしれませんが、ガザ地区の人々は今、生きるのが精いっぱいでマズローの5段階評価で言うと一番下の生理的欲求、つまり生存に直結する衣食住や睡眠の確保のレベルになっています。
戦闘による死亡者は6万人を超えていますが、飢餓による死亡者も147人(NHK)で今後、体力が劣り始めた人々の生命を脅かす悪循環が加速度的に生じかねず、伝染病なども伴いやすくなってきます。
今回の問題をウクライナと比べると何が違うのかといえばウクライナは非戦闘員たる女性、子供、高齢者などは国外に出てしまい、避難なり新天地での生活を始めるなどの退避方法があったのですが、ガザの場合は逃げようがない点において悲惨な状況を生み出したとも言えます。

UNRWA HPより
周辺国への難民という手立てもあったのだと思いますが、欧州が難民問題で苦しんだこと、また、難民と言いながらも過激な思想を持つ人も当然紛れ込みやすく、周辺国が受け入れ検討をするもそう簡単に受けられない事情が生じていました。
今回の飢餓についてはトランプ大統領もテレビ画像を見て厳しい状態が続いていることを認め、ネタニヤフ氏の否定のコメントにそうだとは言えないという趣旨の発言をしています。アメリカも食糧支援としてガザに「食料センター」を設置すると表明しています。DOGEで絞ってしまったアメリカによる海外支援策ですが、止めたわけではないのでまだ機能することを祈るしかありません。
今回のイスラエル側の強硬な姿勢に今後、厳しい審判が下るのだろうと思います。フランスと英国はパレスチナを国家承認する可能性を示唆しています。フランスについては既に国内手続きを終えており、9月の国連総会で承認の発表を待つ状態です。一方、英国はイスラエルがガザへの停戦に応じなければという条件付きでやはり9月に国家承認すると表明、これを受けてイスラエル、アメリカ共に鋭く反対表明をしています。欧州は本件については割と一枚岩であり、欧州の多くの国、現在英仏を含め15か国とされます、がパレスチナ承認に動く可能性が出てきています。また先ほど、カナダもこれに同調し、9月にパレスチナ承認をすると発表されました。
仮にパレスチナが国家承認を受ければ二国家解決(Two State Solution)という1974年に国連が提示した両地域間の問題解決のプロセスに踏み出すことになります。これは大きな進展でもあり、賭けでもあり、イスラエルにとってはあまり都合のよくない事態であるとも言えます。
本来であれば紛争に首を突っ込みたくないが故に大勢が支持ずる片方のみを支持承認するという外交政策の転換ともいえ、仮にパレスチナでそれが実施されるなら将来、台湾への布石となってもおかしくないかもしれません。
ところでアメリカにおけるトランプ氏のApproval Rateは下がる一方ですが、戦争嫌いという点ではそのポリシーはブレておらず、国家間紛争に尽力をしてきたことは事実です。先般もタイとカンボジアの紛争を止めましたが、確かに両国に対し、関税の脅しをしたにせよ、成果は成果であります。またこれはまだどうなるか継続チェックが必要ですが、ポーランド首相がウクライナにおいてロシア兵の動きから停戦に向けた準備をしているようだと発言しています。詳述は避けたようですが、首相の発言は重く、それが事実だとすればトランプ氏がプーチン氏への停戦か制裁かの判断を迫る手法は効果的であると言えます。
またインドに対してロシアとの取引にかかるペナルティ関税を含め、8月1日の関税交渉の期限を動かさないことを表明しています。これらの制裁の効果が表れ、本当にロシアとウクライナが停戦すればそれはトランプ氏の停戦への絶大なる力を追認することになり、ネタニヤフ首相の立場も別の意味で苦しくなるでしょう。
ところでこのところ、原油価格がじわじわと上がっていますが、これはインドや中国への「ロシア ペナルティ」により彼らがロシア産原油から他地域への原油供給源の確保に動くなら原油は足りなくなるという理由からであります。なかなかすべてが丸く収まるということはなさそうです。
いづれにせよ、今、イスラエルとパレスチナやガザをめぐる歴史的構造壁にひびが入り、崩れる可能性が出てきており、歴史が動く公算があります。世界の人々はガザの悲惨な飢餓状態を画像を通じてみてしまったのです。ベトナム戦争の際、「ナパーム弾の少女」の写真がピューリッツァー賞を取ったことを覚えていらっしゃる方もいらっしゃるでしょう。あの時のあの写真も衝撃でしたが、今は様々な画像を通じて「ガザの今」を報じています。隠すことも騙すこともできないこの事実を人々がどう受け止めるのか、審判はすべての人の心の中にあるとも言えます。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年7月31日の記事より転載させていただきました。






