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この記事では、企業の財産所得の国際比較をご紹介します。
1. 日本の企業の財産所得
前回は、家計の財産所得について国際比較してみました。
日本の家計の財産所得は、先進国の中ではそれほど多くありません。
国全体としては海外からの財産所得が大きく超過していますが、家計の財産所得増加にはあまり寄与していないようです。
今回は、企業の財産所得について国際比較していきたいと思います。
まずは日本の状況から確認していきましょう。

図1 財産所得 日本 非金融法人企業
国民経済計算より
図1が日本の企業の財産所得です。
バブル崩壊までは支払側の利子が大きな存在感がありましたが、その後は大きく目減りしています。
その代わりに増えているのが、法人企業の分配所得で、受取側でも支払側でも増加しています。
法人企業の分配所得は、配当金と考えれば良いようです。
また、海外直接投資に関する再投資収益は、海外直接投資のリターンの内、日本に還流されずに現地企業に留保された分です。
財産所得として一旦受け取った事にして、それを再度現地企業に再投資したという取り扱いとなります。
日本企業の資産残高はその分増えます。
結果的に、企業の財産所得は大きくマイナスの状態から、近年ではゼロ近辺にまで変化している事になります。
今回はこのような日本企業の状況が他国と比べてどの程度なのか、国際比較してみましょう。
2. 1人あたりの推移
まずは人口1人あたりの企業の財産所得の推移を見てみましょう。

図2 1人あたり財産所得(正味) 非金融法人企業
OECD Data Explorerより
図2が主要先進国の企業の財産所得(正味)を為替レートでドル換算した推移です。
日本はバブル期に大きくマイナス水準が膨らんでいますが、その後はゼロ近辺に上昇しています。
他国はマイナス水準が徐々に大きくなっている国が多いですね。
特にアメリカやカナダでその傾向が強いようです。
ドイツ、イタリア、フランスはリーマンショック後は縮小方向に変化しています。
為替レートがドル高に変化している影響もありますが、それほど財産所得の支払が増えていないようです。
3. 1人あたりの国際比較
続いて、人口1人あたりの企業の財産所得について、国際比較してみましょう。

図3 1人あたり財産所得(正味) 非金融法人企業 2023年
OECD Data Explorerより
図3は2023年のOECD各国の人口1人あたり財産所得(正味)を国際比較したグラフです。
どの国も企業の財産所得はマイナスになっているのが特徴的ですね。
日本はほぼゼロで、最も財産所得の正味の支払額が少ない国となっています。
主要先進国の中ではアメリカ、カナダはかなりマイナス額が大きい方になりますが、ルクセンブルク、ノルウェー、アイルランドなど経済水準の高い欧州諸国はかなり大きな水準に達しているようです。
ルクセンブルク、ノルウェーは家計の財産所得が少なかったのですが、企業の財産所得のマイナス額は極端に大きいという特徴です。
非常に興味深い傾向と思います。
アイルランドは近年急激に経済水準の高まっている国で、他国からの投資が大きく超過している状況が表れているようです。
4. 対GDP比の推移
異なる見方として、財産所得(正味)の対GDP比についても眺めていきましょう。
まずは主要先進国の推移からです。

図4 財産所得(正味) 対GDP比 非金融法人企業
OECD Data Explorerより
図4が主要先進国の企業の財産所得(正味)対GDP比の推移です。
日本は大きくマイナスの水準から上昇傾向となってほぼゼロとなっているのが特徴的です。
元々低水準で横ばいのフランスや、徐々にマイナス水準が大きくなるアメリカ、極端に大きくマイナスだったのが徐々に縮小傾向となっているイタリアなど、国によって傾向が異なるのが印象的です。
ドイツ、イギリス、カナダ、韓国は一定範囲をアップダウンしているようにも見えます。
日本の企業は非常に興味深い挙動となっているのではないでしょうか。
5. 対GDP比の国際比較
最後に、企業の財産所得(正味)の対GDP比についても国際比較してみましょう。

図5 財産所得(正味) 対GDP比 非金融法人企業 2023年
OECD Data Explorerより
図5が各国企業の財産所得(正味)対GDP比の国際比較です。
日本は-0.8%で、先進国の中で最もマイナス水準の小さい国となっています。
スロベニア、フランス、スペイン、スロバキアと続き、主要先進国の中ではドイツ、イタリア、カナダが比較的マイナス水準の高い国となっています。
アイルランド以外にもスイス、ルクセンブルク、ノルウェーなど所得水準の高い国や、トルコ、メキシコなど経済発展中の国でマイナス水準がかなり大きいのが特徴的ですね。
企業への投資が大きく超過するほどマイナス水準が高くなりますので、日本は企業への投資が少ない国という見方もできるかもしれません。
6. 企業の財産所得の特徴
今回は企業の財産所得について国際比較してみました。
日本は対外直接投資が大きく超過している事もあり、企業の財産所得はほぼゼロになっています。
企業への投資が多い国ほどマイナス水準が大きくなる傾向にありそうですので、この状況が良いとは言い切れませんね。
他国へ投資ばかりしていて、他国からの投資が少ないということが企業の財産所得にも大きく表れているように思います。
日本企業の特徴が良くわかる統計データだったのではないでしょうか。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2025年8月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。






