「おとずれ」たくなる温泉地へ:生まれ変わりつつある長門湯本温泉歩き。

今年の夏は山口県北部、長門市を旅しました。海沿いの仙崎駅前からバスに乗って南下、少し山間にある温泉街に向かいます。

長門湯本駅前で下車。温泉街の玄関口の駅なのに、昔ながらの古い木造駅舎です。垢抜けたデザインのモダンな駅舎も悪くないですが、飾り気のない古い駅舎が大好きです。

ホームに抜けるはずの改札口は通行止めに。

線路には夏草が生い茂る。

温泉街付近の錆びた鉄路。
トンネルの向こうから今にも列車がやって来そう。

その長門湯本駅ですが、2023年に発生した水害によって所属する美祢線が全線で運転を見合わせており、2年間列車は来ていません。錆びた線路やそこに鬱蒼と生い茂る夏草が哀愁を漂わせます。

復旧の検討もされましたが、沿線3市は鉄道での復旧を断念、鉄道敷地を活かしたBRT(バス高速輸送システム)での復旧を目指すこととなりました。この駅舎に鉄道が戻ることはもうありません。

そんな美祢線の今を眺めつつ、10分ほど歩くと長門湯本温泉に到着します。音信川に沿って温泉旅館が並び、山口県内では湯田温泉などと並ぶ代表的な温泉地です。ちなみに音信川、「おとずれがわ」と読みます。

室町時代に開湯したとされ、山口県では代表的な温泉地であることから昭和時代には社員旅行や団体旅行で大いににぎわいました。しかし、それらが衰退していくと大型の温泉旅館が閉業するなどして温泉街も寂しさを増していきます。

昭和59年には39万人だった訪問客は平成26年には18万人まで減少、町は危機感を募らせました。そこで近年では公民連携して街づくり会社として長門湯本温泉まち株式会社が発足して「長門湯本みらいプロジェクト」を展開、令和2年にはその中核施設として「星野リゾート 界」がオープン。経営破綻したホテルの跡地に建てられ復興のシンボル的存在となりました。

また、市営で連年赤字を計上していた公衆浴場「恩湯」(おんとう)を民営化、解体して新たな施設に生まれ変わらせるなど抜本的な改革を行いました。

川沿いの一等地に生まれ変わった「恩湯」

敢えて建物の中を見せて寛ぐ湯客を見せることで建物に人を誘う。

また、町のデザインも大幅にリニューアルして回遊性を高めました。これまでの昭和型の団体旅行では旅館の中で大宴会をして、カラオケや卓球をして終わり、外に出てもスナックやパブで二次会をするのみで、街歩きを楽しむという視点は景観を売りにする観光地をのぞいてはあまり見られませんでした。

夜はライトアップされる竹林の階段。

駐車場から音信川方向を見下ろす。

恩湯の脇にある「竹林の階段」。階上の駐車場・バス停につながり、音信川と駐車場を結びます。車で来た観光客を風情漂う竹林の階段が出迎えます。

竹林の階段とは異なりやや曲がった階段

秋はこの紅葉が真っ赤に染まります。

竹林の階段と対を成すのが「紅葉の階段」。秋は真っ赤に染まった紅葉が観光客の目を喜ばせます。この2つの階段で音信川~竹林の階段~紅葉の階段~音信川という周回ルートを形成しています。夜はライトアップされますので、旅館で食事をしたあと街歩きを楽しむ、といった楽しみ方ができます。

川の対岸から竹林の階段と恩湯を眺める。

365+1 BEER | 山口県長門市観光サイト ななび
長門市はやきとりのまち。仙崎イカは日本有数の漁獲量を誇ります。豊かな自然がはぐぐむ美味しい食の宝庫。

これらの取り組みによって新たな店舗も出店し、町は活気を取り戻しています。こちらの地ビール店のほか、カフェなども徐々に増えてきて、より一層回遊性が向上して街歩きの楽しみが増えました。

涼し気な川床も官民の協力があって誕生しました。

平成26年には温泉地の魅力度で86位に低迷していた長門湯本温泉。町はこれを10位まで上げることを目標に生まれ変わろうとしています(昨年は45位)。

近くには人気の道の駅センザキッチンや元乃隅稲成神社、幕末の残り香が色濃く残る萩など観光地が多くある長門湯本温泉。温泉地としての魅力を高め、長門地域の観光拠点として再生することを楽しみにしています。


編集部より:この記事はトラベルライターのミヤコカエデ氏のnote 2025年8月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はミヤコカエデ氏のnoteをご覧ください。