貧乏より怖い「貧乏思考」

黒坂岳央です。

「貧乏が悪いのではない。貧乏思考が人をダメにする」

これは筆者が自身の人生経験から導き出した一つの結論である。自分は元々相当な貧乏人だったが、思考を変えたことで人生の流れが変わったという実感がある。親から受け継いだ能力や環境は固定値かもしれないが、思考は変動値であり、最も人生を大きく変えるレバレッジになる要素だと考えている。

そのため、仮に「貧乏思考」に囚われてしまうなら、たとえ一時的に経済的に余裕があっても長期的にはジリ貧になり、人生の満足度も低く留まりやすい。逆に言えば、思考習慣を変えられれば環境に制約があっても改善の余地はある。

本稿は注意喚起の意図を持って書かれたものであり、「貧乏を叩く」ためではなく、「貧乏思考を分析し、自分から切り離す」ことを目的としている。典型的なパターンを整理し、なぜ危険なのかを論じたい。

tadamichi/iStock

お金を使えない病

よく言われるのは「投資より消費を優先するとお金が貯まらない」という批判だが、実際にはある程度蓄財ができた人でも同じ罠に陥る。より解像度を高めると、その本質は「お金を使えない病」である。

「お金を使わない」は一見すると健全に見える。だが実態は「お金を使うこと自体が悪」「あらゆる出費が苦痛」という強迫観念に取り憑かれている。

このタイプはお金を使わないので貯蓄は進むが、大胆なリスクテイクができず、人生規模で見ると「小粒」で終わる。

人間関係への投資を惜しむため孤立しやすく、娯楽や経験を極端に避けるため年齢の割に精神的に幼くなる。

株式市場には手を出すが、自分のスキルや学びにお金を投じないため、幸福度が相場に連動してしまい、人生全体が不安定になる。

プライド最優先

もう一つの貧乏思考は「感情を最優先にする」パターンである。自分が論理的に得をすることより、その場の気分の良さやプライドを満たすことが常に優先される。

ネット上でプライドを賭けて生産性のない喧嘩をしたり、承認欲求を満たすために見栄消費を繰り返す。「お金がない」こと自体は致命的ではない。だが「人からお金がないと思われること」を恐れ、身の丈に合わない生活を選ぶことこそ問題である。

テイカー思考

人間関係において「テイカー」に徹する人もまた、典型的な貧乏思考である。

テイカーは「自分が得をすること」以外を考えず、相手が損をしても意に介さない。逆に自分が損を出しそうになると「自分は犠牲者だ」と騒ぎ立てる。本人は無自覚だが、周囲はテイカー気質を敏感に察知するため、次第に人が離れていく。結果として最も孤独で、最も損をする。

「自分が損をすることが許せない」ためにリスクも取れず、長期的には最も大きな機会損失を被る。

揉め事を娯楽にする

「金持ち喧嘩せず」「争いは貧乏人の娯楽」という言葉がある。

実際、ネット上で喧嘩、差別、断絶、リンチは日常的に起きているが、そうした生産性のない活動に熱中している人間の中で、大きな富を築いた者はほぼいないだろう。

争いは感情を上下させ、一時的な快感がある。特にSNSが普及した現代では「安全地帯から石を投げる」行為が容易になったが、その足跡はリアル以上に残り、法的責任を問われるリスクも増大している。

勉強・自己投資をしない

学生でも社会人でも、最も格差を生む変数は「学び」への姿勢である。

成功する人は経験を投資とみなし、1つの体験から10の学びを引き出す。勉強を惜しまない人は確実に成長し続ける。

一方で、貧乏思考に陥る人は「自己投資こそ最大のリターンを生む」という現実を理解しない。株式投資はやっても、書籍やスキル習得には1円も払わない。結果として「相場次第の人生」から抜け出せない。

筆者自身もかつては貧しい生活をしていた。しかし勉強や学びにお金を投じたことで、「常にお金の心配をする生活」からは脱することができた。米国留学の際、母国が貧しい新興国でも国費で必死に学ぶ学生を目にし、環境に制約があっても学ぶ姿勢こそ人生を変える原動力だと確信した。

人生を変えるのは「学習」である。それは机に向かって本を開いて勉強するスタイルに限らない。未知の経験や知見を得ることもまた、現代型の学習である。そしてあらゆる情報は無料でネットで公開されている今、誰もが意欲さえあれば勉強できる時代になった。

かつては学力は経済力と強く結びついており、今でも学生と学歴の獲得の間には経済力との相関性を否定することも難しいのは事実だ。だが、現代は夢や希望を失わず、スマホに集中力を奪われず、他者が諦める中勉強を頑張れる人は手元に巨額の資金がなくても人生を好転させるチャンスはたくさんあるのだ。

貧乏そのものは不幸ではない。自分自身も昔は貧乏だったが、当時は不幸だとは思わなかった。しかし、貧乏思考は人生を確実に不幸にする。

筆者の経験から言えば、勉強と自己投資が最も再現性の高い解決策だ。勉強は誰にでも可能で、確実に自分を変えていける方法である。だからこそ繰り返し強調したい。「貧乏でも、貧乏思考になってはいけない」と。

 

■最新刊絶賛発売中!

[黒坂 岳央]のスキマ時間・1万円で始められる リスクをとらない起業術 (大和出版)

アバター画像
働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。