ナイジェリア政府が仕掛ける意図的な二重情報操作

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ナイジェリアの「偽情報」は意図的な情報操作

ナイジェリア政府が展開する“偽情報”は、単なる誤解・誤報ではなく、国家による意図的かつ制度的な情報操作に基づいている。

特に注目すべきは、大統領府情報局と情報・国家指導省という二元的な国策広報体制である。これは誤って二重化しているのではなく、政権中枢が意図的に設計した“ハイブリッド情報操作システム”だ。

ナイジェリア政府が偽情報出し続ける限り日本の負けという無理ゲー設定は避けるべきかと。

https://x.com/smith796000/status/1961256583654248824

といった意見もあるが、読みが甘すぎる。

ナイジェリアの大統領府と情報省の二元情報体制は、片方が表向き「訂正した」と言いつつ、もう一方のラインが「訂正しない」ことで「偽・誤情報を定着させる」という“ハイブリッド情報操作”構造を形成している。

そのため、両ラインとも外務省・JICA側は対処すべき対象である。

この二元構造において、日本政府が「大統領府が訂正したからもう問題ない」と判断するのは極めて危険だ。

大統領府と情報・国家指導省の役割分担

大統領府の広報機能:あくまで“ときの政権のスポークスマン”という位置づけであり、大統領のスキャンダルや革命、政権交代時には切り離し可能な「消耗品」として劣後する。

情報・国家指導省:ときの政権が崩れても、恒常的な官僚組織として「国家の正統性」を維持する設計であり、国の物語を保守する役割を担う。

つまり、今回、「木更津はナイジェリアにとっての故郷」というナイジェリアの国家としての新たな神話が誕生し、その物語を国民に語り続けるのが情報・国家指導省の役割だ。

今回の「日本がナイジェリア人に特別ビザを発給する」という誤報においても、大統領府の公式サイトでは公式声明を削除・訂正文を出したした一方で、同じ大統領府の公式X広報アカウントや情報・国家指導省、情報・戦略担当オナヌガ大統領特別顧問のアカウントでは、下記のとおり、偽情報の拡散を継続している。

▼ティヌブ大統領の公式広報アカウント

▼ナイジェリア情報・国家指導省公式アカウント
▼情報・戦略担当・オナヌガ大統領特別顧問のアカウント

この「片方が訂正し、もう片方が黙認・継続する」構造こそが、偽情報を国家全体の意志として定着させるメカニズムである。

ナイジェリア二元情報体制の背景と目的

なぜこのような二元体制が採用されているのか。

1. 政権と国家の“リスク分離”

大統領府の広報機能は、あくまで“政権のスポークスマン”として機能し、失言やスキャンダル時には切り離し可能な「消耗品」に劣後する。

一方、情報・国家指導省は恒常的な官僚組織として「国家広報の正統性」を維持し、政権が崩れても国家イメージを保守する。

2. プロパガンダの冗長性確保

一方の発信元が信頼を失っても、もう一方が“代替広報”として機能する構造は、権威主義体制の常套手段となっている。

今回も、大統領府が声明の「訂正」を示した後も、情報・国家指導省および情報・戦略担当オナヌガ大統領顧問、大統領の広報SNSアカウントでは同じ声明が訂正されておらず、偽情報が残存し続けている。

3. 国内向けと国際向けのメッセージ分離

大統領府は外交・国際メディア向けに体裁を整えた発信を行う一方、情報・国家指導省は国民向けにナショナリズム鼓舞や政権支持のためのプロパガンダを展開する。

これにより、国際社会には訂正をアピールしつつ、国内には“木更津はナイジェリア人のモノ” “木更津への希望のビザ神話”を流布し続けるという“二枚舌構造”が実現している。

日本政府の対応策

つまり、日本政府が相手にすべきはナイジェリア政府の「どちらかの省庁」ではなく、この二元的プロパガンダ体制そのものだ。

外務省やJICAは、片方の発信源が訂正しても、もう片方や政府高官が放置している限り「偽情報の放置を黙認している」と見なし、外交上の厳重抗議と「ホームタウン」構想の白紙撤回など、制度的連携の見直しに踏み切るべきである。


編集部より:この記事は、浅川芳裕氏のnote 2025年8月29日の記事を転載させていただきました。オリジナルをお読みになりたい方は浅川芳裕氏のnoteをご覧ください。