今日は少し話が飛躍するかもしれません。ただ、「風が吹けば桶屋が儲かる」というほどではないと思いますので皆様、ご一緒に考えて頂ければと思います。
先週末に2つの事象が起きました。
① 連邦高裁はトランプ関税について下級審である国際貿易裁判所が下した「トランプ関税は違法」との5月の判断を支持しました。但し、実際には下級審に差し戻しとなっています。これは違法の範囲の適用が何処まで及ぶのかが明白ではなかったからです。つまり違法だとクレームした者だけがその判決の果実を受け取るのか、その違法とされる関税に影響した国、企業は全て保護されるのかを明示せよ、というものです。
② 金の価格が堅調に推移し、NYの先物では3500㌦を突破、スポットも3400㌦台半ばとなり、来週以降近いうちに最高値を再度試すというところにあります。金が上がっているのはパウエル議長が9月の利下げを否定していないことが最大の根拠ですが、このところFRB悪役説が広まっており、その矛先がパウエル議長に向かう状態になっています。これは単なる利下げの可能性を囃した動きというよりアメリカ金融政策への信任の問題とも言えます。
①と②はアメリカの二大屋台骨、政権と金融に衝撃が起きていると言ってもよく、このまま無傷で何もなかったがごとく時が流れることはないだろうとみる向きが増えているように感じるのです。

トランプ大統領 ホワイトハウスXより
もしもあなたが投資家で多額の資金を運用しているとします。その資金をどこの国の何に投資をするか、と考えた時、今、アメリカに投資をすべきか、という疑問を持つかもしれません。私も北米で株式投資をしている中でアメリカ株への投資は過去数年、ゆっくりとながらも基本的に精算を進めています。先週も7-8年投資していたアメリカの不動産関連の株が高値をつけたので売却しましたが、今後も投資撤退のスタンスは変わらないと思います。
ではトランプ関税の裁判は今後、どのような展開を見せるのでしょうか?連邦最高裁は政治的にトランプ氏が有利な立ち位置にあります。よって今回の関税裁判が違法とされる可能性は低いとみる向きが多いとされます。ただ、もしも裁判が公正妥当なものであるとすれば関税付与の根源理由である国際緊急経済権限法の解釈は明らかに行き過ぎで許容の度を超えていると考えています。よって今後のトランプ氏の政策に於いて仮に合憲であったとしても一定の影響はありそうです。一方、違憲と判断された場合、トランプ政権は一時的に相当の混乱を招く可能性があります。但し、関税付与へのこじつけ理由は他にもいろいろあるので逃げ道は他にもいくつか残されているとされます。よって天地がひっくり返るとは思っていませんが、政権への信任、そして外交的にはメンツを失うかもしれません。
ではFRB。注目のクック理事の不正疑惑に関する審理が連邦地裁で始まりました。双方の言い分を判事が聞くも何ら判断材料を示さなかったので今後、法廷闘争が本格化します。地裁の審理はたぶん、ひと月程度で判決が出るとみられますが、どのような判断になっても相当世間が騒がしくなるはずです。また、最終的に最高裁まで持ち込まれるとみられており、時間がかかる中でクック氏のその間の処遇にも注目されます。
またパウエル議長はFRBに向けられた様々な問題、例えばFRBの改修工事費を巡る問題でトランプ氏が建設現場にきて同行したパウエル氏と言い合いになるなどトランプ氏はFRB問題のネタ探しに余念がありません。トランプ氏の意図はFRBを政権の意のままに操りたいということなのでしょうか?そうだとすれば世界でほぼ普遍的とされる中央銀行の独立性の意味すら問いかねない訳で純粋な投資かとしては「おいおい、アメリカはどうなるのかね?」という疑問が湧いてくるのはごく自然のように思えます。
ここからは飛躍します。機関投資家は資金を運用する義務があります。つまり欲しい投資先がないから現金で不用意に長く持ち続けることは許されないわけです。ファンドマネージャーは地球規模で資金運用を担っているので儲かるところを探さなければクビになるだけです。となればどこに投資をするか、消去法に近い形になりやすくなるのは仮にそれが一時的だと言え、やむを得ない判断だろうと思うのです。
金はご承知の通り国境のない共通の価値の認識があるアセットであります。仮想通貨も最近は投資対象になりつつありますが、歴史と認識度、流通と社会整備のレベルがまるで違います。有事の金とはよく言ったもので、最後行きつく先は金は大いにあり得るシナリオであります。
一部では金はいくらなら妥当なのか、という話があります。答えはありません。但し、以前にも言ったように掘削コストが下限になります。それを下回れば金採掘業者は採掘を止める、つまり金の希少性はさらに上がるという形になります。現在の金価格は採掘コストをはるかに上回っていますのでむしろ、直接物品を買えない金の交換価値の妥当性は過去のチャートとか、売り手と買い手の思惑が第一義ですが、私のボトムラインは金価格とは恣意的なものであり、いくらという金額は引き出せないと考えています。
金についてはお前のポジショントークではないか、と言われるかもしれません。そうではなく、金と長年向かい合ってきている中でどういう時に金が人気化するかは体得しており、今の金相場は大局観から最高のリスクヘッジ先であり、世界の行方が不透明であればあるほど金は輝きを増すのだと思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年9月1日の記事より転載させていただきました。






