数字を見るだけで終わる会社と、利益を生み出す会社の決定的な差とは?

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いま、中小企業を取り巻く環境は大きく変化しています。利上げによる金融コストの上昇、人件費や物価の高騰、さらに先行きの見えない景気動向。これまで以上に「売上を伸ばせばなんとかなる」という発想が通用しにくくなりました。こうした時代に経営を守るためには、収益性そのものに目を向けることが不可欠です。

では、収益性を高めるために経営者が最初に取り組むべきことは何でしょうか?

その答えの一つが「数字の扱い方」です。数字を“見るだけ”で終わる会社と、数字を行動に変えて利益を生み出す会社。この違いが、厳しい環境を生き抜けるかどうかを左右しています。

「見るだけで終わる会社」の典型

「毎月の売上と利益は確認しているけれど、次に何をすれば良いかはわからない」
「KPIを掲げてはいるが、現場でどう達成するかまでは浸透していない」
「会議で『上がった』『下がった』と話すだけで、行動につながらない」

こうした会社は少なくありません。共通しているのは、数字が「目的」ではなく「習慣」になってしまっていることです。つまり「毎月見ているから続けている」だけで、「なぜそれを見るのか」「見た後どうするのか」が曖昧なのです。

「利益を生む会社」は何をしているのか

一方で利益を生む会社は、数字を「行動につながる指標」として扱っています。経営指標は結果(KGI)だけでなく、行動に直結するKPIが設計されています。

例えば、KGIが「売上1億円」なら、KPIは「新規問い合わせ件数」「受注率」「顧客単価」「リピート率」など。これらは「どこを動かせば成果が変わるか」を教えてくれる数字です。

重要なのは、KPIを単なる数値目標にとどめず、「現場の具体的な行動」と結びつけること。たとえば「問い合わせ件数100件」よりも「週2本のブログ更新+SNS投稿で問い合わせ100件」のほうが行動イメージを持ちやすく、改善にも直結します。

基本の「5指標」で土台をつくる

もっとも、いきなり最適なKPIを設計するのは難しい。そこでまずは、どの業種にも共通する「経営の健康指標」ともいえる5指標を整えることをお勧めします。

  1. 売上(月別・前年比)
  2. 粗利率(売上に対する粗利の割合)
  3. 営業利益(月次)
  4. 現預金残高(月末時点)
  5. 運転資金月数(手元資金 ÷ 月平均支出)

これらを押さえるだけでも、経営の現状を俯瞰し、意思決定の精度は格段に上がります。

「自社に効く数字」を見つける

さらに一歩進めるには、自社の事業特性に合ったKPIを探します。

小売業なら「来客数」や「在庫回転率」、BtoBなら「案件化率」や「平均受注単価」、サブスクなら「解約率」や「契約単価」など。

探し方のステップはシンプルです。

  1. 利益が出ていた時期を振り返り、成功要因を言語化する。
  2. その要因を測定可能な数字に変換する。
  3. 毎月10分で確認できる形に整える。

この循環を回せば、数字は現場の行動を変える「ナビゲーション」になります。

見える化を仕組みに落とし込む

数字を行動に変える仕組みを根付かせるには、運用の工夫も欠かせません。

  • データ収集は半自動化する(会計ソフトやGoogleフォームを活用)
  • 月次で変化を議論する時間を設ける(単なる共有で終わらせない)
  • 数字と仮説をセットで見る(「問い合わせ増=LP改善の成果か?」など)

こうした習慣が「数字を見るだけ」で終わる状態を断ち切ります。

事例:拠点別に利益を生み出したサービス業

あるサービス業の企業(年商約2億円)では、複数拠点を展開していましたが、拠点ごとの収支の管理ができておらず、資金繰り表も作成していませんでした。まずは基本指標である拠点ごとの営業利益や資金繰りを可視化し、その後、生産性(従業員一人あたりの売上)や客単価などを拠点ごとに見える化することで、収益性の低い拠点とその課題が明確になり、改善策を講じることができ、赤字拠点の黒字化につながりました。

「数字を見て終わる会社」から「数字を利益に変える会社」へと変わった瞬間です。

おわりに──分かれ道は“仕組み”にある

いまのような厳しい経営環境下で、数字を「見るだけ」で終わる会社と、数字を「利益を生む武器」に変える会社。その決定的な差は、行動につながる指標を設計し、仕組みとして運用できるかどうかにあります。

ほんの少しの意識と仕組み化が、企業の未来を左右する分岐点となるのです。