
LagartoFilm/iStock
1. 1人あたりGDPの推移
この記事では、国民の正味の所得水準となる人口1人あたりの国民純所得(NNI: Net National Income)についてご紹介します。
今回は名目値、次回は実質値を共有いたします。
国民純所得(NNI)は、国内総生産(GDP)に対して海外との所得の受払いを差引した国民総所得(GNI)に対して、更に固定資産の維持費用とも言える固定資本減耗を差し引いた指標です。
国民(政府、企業などを含む)の正味の所得総額を表す指標と言えます。
国民総所得(GNI) = 国内総生産(GDP) – 海外からの所得の純受取
国民純所得(NNI) = 国民総所得(GNI) – 固定資本減耗

図1 1人あたりGDP、1人あたりGNI、1人あたりNNI 日本
国民経済計算より
日本の1人あたりGNI(国民総所得)は、海外からの受取が多い分だけ1人あたりGDP(国内総生産)を上回ります。
1人あたりGNIに対して、固定資本減耗分だけ差し引いた1人あたりNNI(国民純所得)は固定資本減耗分だけ目減りします。
1人あたりNNIの国際比較に当たり、まずは1人あたりGDPの推移から確認してみましょう。

図2 1人あたりGDP 名目 購買力平価換算値
OECD Data Explorerより
図2が主要先進国の1人あたりGDP(名目、購買力平価換算値)の推移となります。
G7の他に、経済水準が近く人口の多い韓国、スペイン、ポーランドを加えています。
購買力平価でドル換算する事によって、物価水準をアメリカ並みに合わせた数量的な比較をすることになります。
各国とも右肩上がりの成長が続いていますが、日本は1990年代の比較的高い水準から、近年ではかなり低い水準へと立ち位置を変化させています。
2024年ではG7各国に加えスペインや韓国を大きく下回り、ポーランドともかなり近い水準となっています。
2. 1人あたりNNIの推移
続いて、1人あたりNNIの推移についても確認してみましょう。
日本は海外からの正味の所得が他国よりも多い特徴がありますが、一方で固定資本減耗も多く、差引でどれだけ国際的な立ち位置が変化するのか注目したいところです。

図3 1人あたりNNI 名目 購買力平価換算値
OECD Data Explorerより
図3が1人あたりNNI(名目、購買力平価換算値)の各国の推移です。
各国とも右肩上がりで推移していて、各国間の関係性は1人あたりGDPとそれほど変わらないようです。
日本はやはり伸び具合が緩やかで、近年ではポーランドに肉薄されている状況となっています。
1990年代では同程度だったドイツやフランスなどとも差が開いている事がか確認できます。
3. 1人あたりNNIの国際比較
2023年の1人あたりNNIについて国際比較してみましょう。

図4 1人あたりNNI 名目 購買力平価換算値 2023年
OECD Data Explorerより
図4が2023年のOECD各国の1人あたりNNI(名目、購買力平価換算値)を示したものです。
比較のために各国の1人あたりGDPも併記しています。
基本的には1人あたりGDPと1人あたりNNIには強い関係がありそうですが、ルクセンブルクやアイルランドは乖離が大きいようです。
どちらも人口の少ない国で、海外から来た労働者が稼ぐ分がGDPに大きく寄与している事が窺えます。
恐らくは分母となる人口が自国籍の人口となるため、他国から自国に来て働く人の稼いだ分も含めた付加価値を、自国籍人口のみで割る事で割増しで評価されている面があると考えられます。
雇用者所得の受取と支払のバランスを見る事で、このあたりが明らかとなるかもしれません。
後日、国民純所得の内訳についても確認してみたいと思います。
グラフを見ると、日本は40,304ドルでOECD36か国中25番目の水準となります。
他の主要先進国ともずいぶん差が付いていて、スロベニアやチェコなど東欧諸国も下回ります。
ただし、1人あたりGDPの順位とは変わらないようです。
4. 1人あたりNNIの特徴
今回は、正味の所得水準となる1人あたりNNIについて国際比較してみました。
日本は他国よりも財産所得のプラス寄与が大きいため、1人あたりNNIではもう少し上の順位になると思いましたが、そうでもなかったようです。
日本は他国に対して財産所得でプラスとなっている反面、固定資本減耗でマイナスになっているため、差引での国際的な立ち位置はそれほど変わらないという結果でした。
付加価値の生産から、投資所得の拡大へと言った事も聞きますが、やはり基本となる付加価値(GDP)の拡大が重要である事を示唆しているようにも感じました。
資本で稼ぐのではなく、労働者の仕事の価値とその分配を高めていくのが鍵といえそうです。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2025年9月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。






