障害を強みに変える経営哲学:垣内俊哉『バリアバリューの経営』

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「お客さんに覚えてもらえるのは、営業にとって大きな強みだ。歩けないことに胸を張れ。障害があることに誇りを持て。車椅子に乗っていることは、お前の強みなんだ」

生まれつきの骨の弱さから車椅子での生活を余儀なくされた著者は、アルバイト先の社長から激励され魂を揺さぶられた時の情景をハッキリ覚えている。

多くの人が「多様性」という言葉を何気なく口にする一方で、障害をもった当事者である著者は、自らの障害を「多様性」の一言で表現することなど出来ない過酷な経験を幼い頃から重ねてきた。そしてその度に壁を乗り越えようと挑戦し続けてきた過程で、相手を気遣う優しい心を保ちつつ、強靭な精神力を有しビジネスの世界を生き抜いてきた。

バリアバリューの経営:障害を価値に変え、新しいビジネスを創造する

本書は、デジタル障害者手帳「ミライロID」を国内外で普及させ、ユニバーサルマナー検定という障害者と社会全体をつなぐ新たな資格を創設した垣内俊哉氏の自伝であり、同社ビジネスの根幹を成す哲学の書である。

「障害者対応はコストではなく投資」

障害をもった社会起業家と聞くと、理想に燃えながらも地に足がついていない社会運動家というイメージも付きまとう。

しかし、著者は障害者を新たな市場と見定め、顧客満足を図ることが自社に利益をもたらすという至極真っ当なビジネス観をもっている。それは社会的意義が大きいからこそ、一時的な慈善事業ではなくビジネスとして定着させ、サービスを持続させていかなければならないとの強い意志が根底にある。理想と現実の狭間を行き来し、ウォームハートとクールヘッド(温かい心と冷静な頭脳)を併せもったビジネスマンである。

「世界一外出しやすい国であるにもかかわらず、外出したいと思える社会になっていない」

私が想像していたのとは大きく異なり、1980年にいち早く地下鉄のホームにエレベーターを設置した日本は、世界に冠たるバリアフリー国家である。それにも関わらず、障害者が外出を躊躇う様々な壁が日本には存在する。

それは物理的な壁の場合もあれば、障害者を見る周りの目の場合もある。私たちが日常生活で意識はしていなくても、障害者の側は自分たちが社会のお荷物になっているという引け目を感じている場合が少なくない。障害をもっていても他の人に気を遣わずに、他の人と同じように生活を楽しみたいと思っている人が多いことを、本書は教えてくれる。

「障害」と言っても、千差万別である。日常生活を送る中で、相手の障害特性に気づかないことも多い。

ユニバーサルマナー検定は世の中に多様な人が住み、その人の数だけ日常生活を円滑に送る上での悩みがあることに「気づき」を与えてくれる。相手の外見に関わらず、常に誰に対しても優しさと配慮を忘れないためにも本検定を受験してみようと思う。