「残業キャンセル界隈」は人生詰む

黒坂岳央です。

最近SNS上で「残業キャンセル界隈」という言葉が話題になっている。語感の面白さもあって拡散しているが、実際には笑い話で済ませられない。

筆者の見解は「残業なんて一切お断り」という人たちの今後の人生はかなり厳しくなると言わざるを得ない。

mapo/iStock

「残業=悪」の誤解

「今どき、残業前提の会社はイケてない」という意見が広がっている。こういうとき、何かと「海外は~」と引き合いに出し、「うざい残業なんて断ってしまえ」という話だ。

確かに「無意味な残業は悪」ということは否定しない。だがこの意見にはいくつか誤解がある。まず、36協定を遵守する範囲での残業は「業務命令」なので断ることは基本できない。「今日は用事があるので~」という私用優先は「権利」ではなく実際は「優しさ」なのだ。

さらに様々な統計データで明らかになっているのは、もはや日本人はOECD諸外国に比べて労働時間も労働日数もまったく多くないという実態だ。「アメリカでは~」とよく言われるが、アメリカ人は日本人よりよく働く。

筆者は外資系で働いていたのだが、夜中3時に退社して翌朝8時の会議に出るパワフルに働く外国人が珍しくなかったので、「日本人は働き過ぎ」というのは統計的にも、肌感覚的(個人的体験を一般化できないが)にもこうした意見との大きなズレを感じる。

最大の問題は「本人の能力不足で仕事が終わっていないのに、責任を果たさずに定時で帰る人間」である。これは残業ではなく、「責任のキャンセル」である。

周囲に迷惑をかけるだけでなく、何より本人にとっても将来のキャリアを毀損する行為にほかならない。

世代間ギャップと未来への警告

SNS上では、若い世代ほど「定時退社は当然」と考え、上の世代は「そんな甘い考えでは将来行き詰まる」と警告する構図が見える。

筆者からの結論は、「若い頃は問題ないが、スキルが低いまま中年になると一生頑張るチャンスすら消えるがその覚悟はあるのか?」というものだ。

人間の価値観は年齢で大きく変わる。若い頃は遊び100%、仕事なんて遊びの軍資金作りのため、という感覚の人は少なくない。だが、30代以降になると急に現実的になる人が増えてくる。

転職を希望しても面接で通らない。
周囲はドンドン役職を得たり年収を増やしている。
両親は急に年老いた老人になっていく。
受動的な遊びに飽き、友達も付き合ってくれない。
スキルや経験がないことへの焦り。

こうなってから「これからは仕事に頑張りたい」と願っても周囲はベットしてくれない。

非常に残酷な事実として、30代以降は「将来性」を信じて仕事を任せる人は急減する。「あなたにベットするだけの根拠を出せ」となる。本気度を見せるために英語力なり資格なりを持ってくるならまだしも、「とにかく頑張ります!」という意欲だけでは相手にリスクを取らせるだけの説得力はない。

市場から必要とされなくなった人材は、容赦なく切り捨てられる。

残業はチャンス

無益な残業、残業ありきの仕事はダメという大前提ではあるが、本来、残業は会社からの温情とも言える。

本来、会社は残業代なんて払いたくないし、上司はマネジメント力を疑われる。「会社は割増賃金を払ってスキルの研鑽を磨かせている」という見方もできるのではないだろうか。

ハッキリいって誰しも駆け出しの頃は、効率の良い仕事なんてできない。だから仕事が遅ければ残業になる。だが、その残業も場数を踏めば自然に効率化されて時間も減ってくる。

筆者は20代の頃、毎日終電で帰っていたが、上司は筆者の3倍も4倍もパフォーマンスを出していた。物理的に手が早いのではなく、尋常ではなく要領や自動化、効率化の技術が優れていたのだ。「こんな効率化の発想、どうやっったら思いつくんだ?」と度肝を抜かれ、まるで手品のように鮮やかな自動化を見せてもらった。

必死に食らいついて技術を学び、その後ずいぶん効率化できた。いざ「もう残業はするな」と会社からノー残業デーのお達しがあっても対応できたし、転職先で「残業は無能」という環境でも乗り切れたのは20代の頑張りがあったからである。

残業キャンセル界隈の住民は「定時に終わらないのは無能」となれば、時間内に終わらせるなどできるのだろうか?というところまで想像を巡らせるべきだ。いつまでも遅い仕事を待ってくれるほど甘い世界は続かない。

20代で残業上等で効率化の技術を身に着けないと、チャンスのある30代は永遠にやってこないのだ。

 

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。