国土交通省が発表した7月1日時点での全国地価は住宅地が全国平均1.0%上昇、商業地は2.8%上昇となり引き続き堅調な不動産市場を裏付ける形となりました。

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不動産については甘いも酸っぱいも経験してきた者として感じるところがあるのでコメントを述べさせてもらおうと思います。
まず、数字を眺めている限り、東京と大阪は引き続き引き合いが強いものの地方になるとピークアウトしている感が強まっています。不動産価格が上昇するときは何処の国でもまずはメインとなる都市部の上昇、続いてリゾート地、そして一般住宅地という具合に上がっていきます。下がる時は一般住宅、リゾート、都市部という順番になり、特にリゾート地は下げる時は激しい下落になるのが一般的です。
また不動産価格の決定において不動産鑑定評価方法の一つに近隣価格との比較方法があるのですが、この発想は全国的に同じ条件なら同じような価格になるという発想につながりやすくなります。例えば不動産価格が高騰したカナダで直近の動きはトロントやバンクーバーで弱含みの不動産価格となる一方、モントリオールが出遅れ感からしっかりした値動きになっています。不動産価格にはある程度の自動調整機能があるともいえ、自然と価格は均されていくと考えてよいかと思います。
では住宅と商業地では何がどう違うのでしょうか?住宅は住宅でしかなく、そこに仮に8000万円で家を買っても一般の方にはそこから収益を期待することはできません。なぜなら自らが住んでいるからです。それが将来1億円になろうとも周りも同様に上がっているので不動産所有者は売却しない限りその果実を得ることができないのです。
一方、商業地は果実を得ることで不動産価格形成があると言ってよいでしょう。その果実は商店や事務所などが入居してくれることで収益が上がるため、その収益率から逆算して商業地の価格が計算されます。私は商業不動産は利用権のようなものだと考えています。テナントが入れば儲かりますが、テナントが入らなければ収入ゼロ円どころか、固定資産税やら建物の管理費など様々なコストが付加され、目も当てられない状況になるのです。よって古い小さなビルをもつ不動産オーナーはテナントの需要を満たすためにリノベーションや建て替えが必要ですが、個人事業者の場合、その資金調達ができず、古い建物のままとなり、収益が上がらないケースも多く生じています。路面店はすぐ埋まるのに上層階は誰もいないという建物は案外多いものです。
そのため、商業不動産を持つのは専業の会社、REIT、海外投資家といった大規模な資金を動かせるところが主体となり、また有利だとも言えます。また彼らは収益機会の増大のために目を皿のようにして物件を探しており、周りがポジティブに動いる時は非常に強気の物件取得をします。今回、東京23区の商業地の価格上昇率は13.2%上昇で上昇率を見ると浅草の27.4%をはじめ、山手線の内側と外輪部が驚異的に上昇しています。一方で山手線の外輪部から外れる大田区、世田谷区、練馬区、足立区、江戸川区になると8%前後とかなり下がっているのがわかります。
では商業地はどこまで上昇するのでしょうか?現在、都心部の物件の利回りはオフィス、商業地とも3%台とされます。歴史的にはこれがもっとも低い水準です。かつて2%台という時もありましたが、それは稀。そこから類推するとこれ以上の賃料はテナントが払えなくなるので相当高値圏にあるとみてよいと思います。
住宅地もパワーカップルなら1億円の物件も買えるのだと思いますが、そのようなカップルがたくさんいて不動産市場を支えられるのか、といえば否であります。ニッセイ基礎研究所によると夫婦とも年収700万円以上のパワーカップルは現在45万組で10年で2倍になったとあります。とすれば年間22500組ずつ増えている計算なのですが、これにはそれこそ50歳台のカップルも入っているわけでこれから家を買う検討をしている人は年数千組に留まると見ています。そしてそれらの人が実際に購入するのはそのまた半分程度ではないかとみています。
住宅の場合、建築費の高騰が最大のネック、次いで都心にはデベロッパーが触手を動かす物件が少なくなってきています。土地買収も容易ではなく、マンションも即完売になるところは限られています。そもそも少子化の影響を最も受けるのがこの業界であり、外国人や投資家の需要を別にすれば基本的には先行きは曇りだろうと見ています。
日本の不動産価格が世界に比べ、出遅れたことは事実。田舎に行けばタダ同然の物件もあり、それに飛びつく強者も多くいましたが、多くは収益化にはつながらないのです。不動産事業をそんなに甘く見てもらっては困ります。私だって東京の不動産管理は必死にやってどうにか持ちこたえているという感じです。素人がそう簡単にアパート経営やマンション経営で儲かるような時代ではないと思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年9月17日の記事より転載させていただきました。






