自民党総裁選に立候補した高市早苗前経済安保相は、公約で中低所得者を支援する「給付付き税額控除」の制度設計に着手すると明記した。所得税の「年収の壁」引き上げも物価高に応じて検討し、AIや半導体などへの成長投資も掲げる。

高市早苗氏インスタグラムより
給付付き税額控除とは何か
- 制度の概要
納めるべき所得税額から一定額を直接差し引く税額控除に、現金給付の要素を加えた仕組み。課税額を控除しきれない場合、その差額分を現金として支給する。
例:所得税額が10万円だが控除が15万円の場合、控除しきれない5万円を現金で受け取れる。 - 狙いと効果
中低所得層の可処分所得を増やし、消費税の逆進性(所得が低いほど負担感が大きくなる現象)を緩和する。労働意欲を損なわず再分配を実現できる点が評価される。 - 国際的事例
米国の「勤労所得税額控除(EITC)」、英国やカナダなど多くの国で導入実績があり、低所得層や子育て世帯支援に活用されている。
高市早苗氏の公約における位置づけ
- 総裁選の主要公約に明記
高市氏は自民党総裁選に向けて、所得税の減税と現金給付を組み合わせる「給付付き税額控除」の制度設計に着手すると明言。物価高が続く中、中低所得者の手取りを直接的に増やし、家計を下支えする狙いを持つ。 - 年収の壁への対応
所得税の非課税枠「年収の壁」についても、物価高の状況を踏まえて引き上げを検討する方針を示しており、現場の就労制約を和らげる意図がある。 - 財政運営とのバランス
「責任ある積極財政」を掲げ、AIや半導体など成長分野への投資を進めつつも、国内総生産(GDP)比での政府債務残高を緩やかに引き下げる方向性を明記。再分配と財政健全化の両立を意識している。 - 評価と課題
再分配の強化を通じて社会の安定につながるとの期待がある一方、所得控除全体の見直しや大規模な税制改正が必要で、政治的ハードルは高い。制度設計には所得把握の精緻化や給付の迅速化など実務面での課題もある。
給付付き税額控除をめぐる政党の動き
- 立憲民主党
参院選公約で「給付付き税額控除」を主要政策に掲げ、物価高対策や所得再分配策として導入を訴えてきた。 - 与野党協議
自民党と立憲民主党、公明党の幹事長間で協議体を設置し、制度設計の議論を継続することで合意。総裁選による政治空白を生じさせず、次期総裁にも議論を引き継ぐ考えを共有している。 - 公明党
消費税逆進性の是正に一定の理解を示しつつ、制度実施に向けた所得・資産把握の制度整備を課題として指摘している。
高市氏は給付付き税額控除を、家計支援と成長投資を両立させる看板政策として位置づけた。中低所得層の可処分所得を直接増やしつつ、財政の持続性も担保する狙いは野党とも方向性が一致し、与野党協議が進む土壌がある。
一方で、所得控除総額約150兆円にメスを入れる必要があるなど制度改革の規模は大きく、政治的調整力が問われることになる。






