「職人気質の外食文化」は日本の貧困化で消えていく

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クオリティを考慮すれば新興国を含め世界一のコストパフォーマンスだと思っている日本の外食ですが、日本にもインフレの波が迫り状況は変わりつつあるようです。

虎ノ門にお気に入りの老舗のお蕎麦屋さんがあります。特に夏になると納豆そば(写真)を食べるのが楽しみです。

久しぶりに出かけるとお品書きの表示価格が全体に3割以上アップしていました。

以前は1,000円以下だったと記憶する納豆そばは税込1,300円になっていました。

それだけではなく蕎麦の量も減っている気がしました。

日本人の所得の伸びが物価上昇に追いつかず、飲食店がコストアップを価格に完全転嫁する事が難しい環境が原因と想像します。日本人の貧困化です。

コストをそのまま価格に転嫁すれば、高すぎて顧客離れが起こってしまうので、提供するボリュームを減らして価格アップを抑えているのです。

さらに今後食材や従業員のコストが上がっていけば、材料の品質を落としたり、手間を省いたりといった対応が行われるようになりかねません。

お蕎麦も価格高騰でそのうちにうなぎと同じような贅沢品になってしまうのでしょうか?

こちらのお店のような職人気質の家族経営の老舗はコストの上昇だけではなく高齢化による後継者不足もあって経営が成り立たなくなるところが増え、次々と閉店しています。

虎ノ門のお蕎麦屋さんも値段が上がったせいか、以前ほどの行列はなく、今後も経営が成り立つのかちょっと心配です。

昔ながらの個性的なお店が閉店して東京からどんどん少なくなり、飲食店もチェーン店が増えてきました。

大手の蕎麦のチェーン店であれば半額程度の価格で蕎麦を食べることは可能です。しかし、その味わいやお店の雰囲気といったクオリティには大きな違いがあります。

すべてのチェーン店が悪いとは言いませんが、画一的なサービスのチェーン店に行くしか選択肢が無くなるのは困ります。

日本人が貧しくなっていくことで余裕のある消費者の数が減って日本の伝統的な飲食文化を守っている老舗が次々と消えていく。

この流れがこれからさらに加速しそうな状況は残念でしかありません。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2025年9月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

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資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。