海外での就労は元来ハードルが高いものなのですが、その運営方針は自国の経済状況に合わせ、フレキシブルに運用する国が多いのも実情です。ある時期には就労ビザや移民ビザがすぐとれ、それが突然厳しくなることもあり、それこそ時々の政権の考え方次第とも言えます。
「カレー移民の謎」(室橋裕和著)はある意味、考えさせられる内容でした。皆様の街中にもインドカレー屋の一軒や二軒はあるかと思います。ところがそのカレー屋の大半はインド人ではなく、ネパール人が経営しているというわけです。そしてそのネパール人の日本での就労者数も10年で10倍になり、家族帯同率も高く、ご夫婦が長時間労働をこなしながらどうにか、日本で生活をしているとのことでした。ネパール人は性格が比較的温厚なこともあり、日本国内で問題を起こしたケースも少ないのですが、一方でカレー屋の乱立とそのカレーのクオリティのバラつきに問題があるとも指摘しています。
彼らはカレーを通じたビジネスをしたいのではなく、本国に比べて10倍の賃金が得られる日本を含めた諸外国は「出稼ぎ」の手段であり、日本はほかの国々に比べれば「まだまともな方だ」という評価になっているようです。日本にいるネパール人の多くはカレー屋で一定期間修行した後、独立したり、店を任せられるので必死に働くから問題を起こす人も少ないと言えるのかもしれません。
逆に、日本人がカラダ一つで海外に渡り、そこで新天地を見つけるのはワーキングホリディ制度を利用し海外で一定期間の就労をすることがその入り口になります。私はカナダに於いてこの制度のおかげで雇用者としての恩恵を受けたわけでありがたさ以外の何物でもありません。アメリカにはこの制度が認められていないので、地理的にアメリカに近いという理由でカナダに来る若者も多く、彼ら彼女らが世界に飛び出す数少ないチャンスへの第一歩になります。
ではカナダにはどんなメリットがあるかといえば多文化共生というコンセプトを経済的に実現できる点であります。端的な話、歴史の長いカナダの日系社会では日本人の労働力が一定数はどうしても必要であり、それを補完するのにワーホリは絶対不可欠と言ってもよいのです。言い換えればカナダが建国以来、移民をベースにした国家づくりをしたことでマルチカルチャリズムを形成してきたのですから、その維持のために一定数の外国人労働者は国家基盤の維持と発展のために国家の責任において安定的に受け入れる必要があるのです。
ですが、冒頭述べたように外国人労働者は時の政権が時の経済状況に応じて自由裁量で「人材の弁の開け閉め」を行うため、外国人労働者のステータスは不安定そのものであるとも言えるのです。最近、隣のアルバータ州では市民権(国籍)所有者と移民権者は識別できるようにする制度を導入するとしました。実はこの制度はイスラエルが既に実施しています。イスラエル人と話した時、国際結婚によりユダヤ教信者にはなれるが、真の意味でのユダヤ人にはなれないと教えられました。土着か否かで識別をするというわけです。日本もないわけではありません。いわゆる「在日」の方々は特別永住権取得者(現在約27万件発出)扱いであり、純粋な日本人とは識別されます。(世代を超えれば別ですが)
さて、外国人労働者問題はアメリカでも大きな議論となっています。先般の現代自動車の工場建設の「違法労働者475人問題」は強制送還で即に解決していますが、韓国側は今後のアメリカ投資に深刻なる懸念が生じると述べました。一方、アメリカは外交問題にまで発展したこの事態について多少の緩和をすると思いきや、一定の高度な業務をするに必要なH1Bビザ取得の手数料をこれまでの約1000㌦から10万ドルと実質100倍に引き上げました。私は目を丸くしました。そんなのアリか、と。とにかく、外国人がアメリカの労働者の機会を奪っているという頑なな主張により凝り固まった政策とも言えます。

トランプ大統領 ホワイトハウスXより
外国人を入れるべきかどうか、は二面的に捉える必要があります。国家体制という視点と経済という視点です。日本や韓国は比較的純血主義を貫いてきたのですが、人口減の問題に直面する中で日本では1980年代から外国人に門戸を少しずつ開けてきました。初めは無視できる規模だったものの一定の影響を与えるぐらいの人数になりつつある現実においての賛否論が巻き起こるわけです。これは一種の国家体制に帰属するイシューとも言えます。
一方、経済については単純に労働者が不足して経営が成り立たないという問題です。アメリカやカナダでは国家の成り立ちからして一定数の外国人労働者に依存し、経済がその上に成り立っていた事実に対して突然無謀なビザ申請料を課したりビザの制限を課すことで優秀な外国人の招聘の道を閉ざそうとしているのです。
どちらが良いか、これは各自の考え方によりますが、そのヒントとして商品開発をするのにブラックボックス式にするのか、オープンソース型にするのか、という問いを考えれば答えを引き出しやすいかもしれません。またはグローバル化と鎖国経済という切り口でもよいでしょう。
海外就労の壁はそれこそ政権交代をしたとたん、真逆になることもしばしばあります。「外国人向け入国の緩和、引き締めの弁」の開閉のサイクルは10年程度で回っているようなイメージでしょうか?よって私も含め、海外での移住者、就労者は時の風圧を感じながらある時は耐える時も必要だし、外国人労働者サマサマという時もあり、実に立場的には不安定であると言えそうです。
冒頭のネパール人のカレー屋にしてもカレーを作ったことがない人が突如日本で厨房に入るケースが多く、ネパール人が普段口にしないタイプのカレーをあたかも自分たちのカレーだと売り込むことは真のビジネスだとは思いません。彼らも必死で努力しないと生き残れないことを悟るのでしょうね。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年10月1日の記事より転載させていただきました。







