トランプ米大統領は13日、イスラエル入りし、パレスチナ自治区ガザでの「戦争は終わった」と誇らしく宣言した。それなりの理由はある。パレスチナ自治区ガザを実効支配してきたイスラム過激テロ組織「ハマス」はイスラエル軍の報復攻撃を受け弱体化し、最大の支援国イランは同じくイスラエル軍の「12日間戦争」で軍事的、経済的にも後退を余儀なくされ、ハマス支援の継続が難しくなってきた。2023年10月7日の奇襲テロで拘束してきた最後の人質をイスラエル側に引き渡したことで、ハマスはイスラエルとの戦いで切れるカードがなくってきたからだ。

連邦情報局マルティン・イエーガー長官(左)、マルティナ・ローゼンベルク軍事対諜報部長官(中央)、連邦憲法擁護庁のシナン・セレン長官(右)、独連邦擁護庁公式サイトから
トランプ大統領の20項目からなる和平計画は第1段階の停戦と人質解放を終え、第2段階に入ると、ハマスの非武装化が次のハードルとなる。ガザ区の国際管理機構ではハマスは排除されている。ハマスは停戦後、従来の活動領域を失うことになる。

イスラエルを訪れトランプ大統領 2025年10月13日 ネタニヤフ首相インスタグラムより
それでは、ハマスはガザから完全に消滅するのか。そうではないのだ。ハマスは武装解除を拒否し、イスラエルをパレスチナ領地から追放し、パレスチナにイスラム国を建設するまで戦いを続けるというのだ。ハマスにとってイスラエルとの「2国家共存」は目標ではない。ハマス代表は「パレスチナの人々は、新たなナチスの牢獄から最後の囚人が解放され、我々の土地と聖地から占領が撤廃されるまで、決して安らぎを得ないだろう」と述べている。
ハマスの戦闘継続宣言は単なる強がりだろうか。イスラエルは人質解放のために刑務所で拘束されている1950人余りのパレスチナ囚人を釈放した。そのうち、約250人は終身刑を受けたハマスの活動家たちだ。イスラエル側は囚人釈放交渉でその250人の終身犯の釈放に最後まで難色を示した。なぜならば、彼らはハマスの活動家であり、イスラエルにとって潜在的な危険分子だからだ。
ところで、イスラエルのカッツ国防相によると、「人質送還後のイスラエルの最大の課題は、ガザ地区におけるハマスのテロ用トンネルをすべて破壊することだ」という。目標はガザ地区の非武装化とテロ組織ハマスの武装解除だ。報道によると、イスラエル軍は合意に基づき撤退したが、軍は依然ガザ地区の53%を支配している。更なる撤退はハマスが武器を放棄する意思があるかどうかにかかっているという。
西側情報機関関係者によると、ハマスはガザ地区での主導的役割を放棄する意向だが、ガザ地区だけではなく、パレスチナ全域を含むアラブ諸国でそのテロ活動を活発化するのではないかと受け取られている。ハマスは囚人釈放後、ガザでイスラエル側を支援した反乱分子を摘発し、一部は処刑しているという情報が流れている。ハマスは組織の再編成を進める一方で、新たな活動目標を掲げて戦闘に乗り出す構えなのだ。
ドイツ連邦憲法擁護庁(BfV)のシナン・セレン新長官は13日、議会統制委員会の年次公聴会で、「ガザ地区の和平への期待にもかかわらず、ハマスは依然としてドイツを含む欧州全域にとって脅威だ」と警告している。
公聴会ではまた、マルティン・イエーガー独連邦情報局(BND)長官は「ハマスがガザから追放されるか、あるいは地下に潜伏させられた場合、海外で活動を開始する可能性がある。アラブ世界だけではなく、欧州でも間違いなく活動を開始するだろう」と予想、「ハマスが1960年代後半から70年代にかけてテロ活動を行ったパレスチナ解放機構(PLO)と同じ道を歩むのではないか」と警戒している。
なお、PLOは1970年代前半、テロ活動を激化し、「ミュンヘン・オリンピック襲撃事件」、「旅客機ハイジャック事件」、「イスラエル・ロッド空港襲撃事件」などテロ事件を起こした。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年10月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






