「エレクトロステート中国」の真実

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 COP30では事前に予想されたように日本がまた化石賞を受賞した。その理由は「石炭などを使う火力発電所由来の二酸化炭素を回収・貯留するCCSや石炭火力とアンモニアの混焼、ガス火力と水素の混焼は脱炭素化を装った化石燃料の延命である」というものだ。

私は読売新聞からのインタビューに対して「石炭を大量消費する中国を批判せず、中国が化石賞を受賞したことがないのはダブルスタンダードだ」とコメントしたところだ。

環境関係者の間では中国を持ち上げる傾向が高い。人権NGOが次々に中国から追い出される中で環境NGOが中国で厚遇を受けているからかもしれない。更に「米国、ロシア、サウジが化石燃料の継続利用・拡大を目指し、ペトロステートへの道を進んでいる一方で、EU、中国は電化、電気自動車導入を通じたエレクトロステートの道を歩んでいる。日本は後者を目指すべきだ」等、中国を「目指すべきモデル」とする議論すらある。

私は現在の気候変動をめぐる国際情勢の中で最も「漁夫の利」を得ているのは中国であると論じてきたこともあり、昨今の「中国=エレクトロステート=世界のモデル」論には疑問を感じてきた。そうした中、現実的なエネルギー温暖化政策提言を行っているBreakthrough Institute が”Greenwashing with Chinese Characteristics” と題する非常に興味深い論考を発表した。普段、考えていることと非常に呼応するものであったので、以下に要約したい。

  • 彼らは中国が経済を電化中心に再編し、太陽光、風力、電池、電気自動車(EV)といった分野で世界を席巻することで、脱炭素への新たな道筋を切り開いていると主張する。将来の超大国は、クリーン電力、とりわけ太陽光によって動く国家になるという見方も広がっている。中国製造業の規模と効率性が再エネや蓄電池のコストを劇的に引き下げ、EVの普及によって自動車産業の国際競争力も急速に高まったことは事実であり、エネルギー消費に占める電化率も米国やドイツなどを上回っている。
  • しかし、こうした動向は中国を「脱炭素型の電化国家」と位置づけるには決定的に不十分である。2024年時点で中国の電力の約59%は依然として石炭由来であり、中国は世界全体の石炭消費量の56%を占める。石炭火力の引退はほとんど進まず、むしろ新疆、陝西、青海などでは、アルミニウム、金属シリコン、ポリシリコン、石炭化学と結びついた新たな石炭火力設備が戦略産業として建設・拡張されている。沿岸部でも、石油化学やプラスチック原料の巨大拠点が新たに造成され、LNG受入基地やガスパイプラインの整備も拡大している。
  • EVの普及も過大評価されがちである。確かに新車販売に占めるEV比率は高いが、実際に道路を走る車のうち電動車は約1割に過ぎず、完全な電化には約4億台の内燃機関車を置き換える必要がある。さらに中国は、輸送部門の電化によって石油輸入依存を下げる一方、エネルギー安全保障の観点から国内天然ガス開発を拡大しており、非在来型ガスを含めれば世界有数のガス生産国になりつつある。
  • 中国の電化率が比較的高い理由も誤解されている。それはEVの成功によるものではなく、産業部門が最終エネルギー消費の約6割を占めるという経済構造による影響が大きい。しかも、その電化の中身は、欧米ではすでに数十年前に脱石炭化が進んだ繊維、食品、紙などの軽工業分野での改善や、建設減速に伴うセメント生産低下による石炭使用減が中心である。鉄鋼など重工業の電化では、中国は米国、日本、EU、さらにはインドにも後れを取っている。
  • 本質的に中国の競争力を支えているのは、太陽光パネル、電池、EVといった「グリーンな最終製品」と、石炭・ガスに支えられた高排出型の鉱物精錬・化学産業を組み合わせた非対称な産業モデルである。中国は、安価な化石燃料エネルギーを用いたマグネシウム、ニッケル、黒鉛、アルミナなどの生産によって、世界のサプライチェーンを支配してきた。この構造こそが、中国の輸出競争力と産業覇権を可能にしている。
  • したがって、中国を気候変動の救世主や模範的なエレクトロステートとみなす見方は、中国の現実と戦略を誤解させる危険がある。中国は今後もグリーン技術分野では世界を主導し続けるだろうが、その産業経済は数十年にわたり石炭とガスに依存し続ける可能性が高い。
  • 中国の政治経済モデルは、先進国にも途上国にも容易に模倣できる脱炭素モデルではなく、環境主義が主導する西側型の発展像とも本質的に異なる。