黒坂岳央です。
SNSで話題になっているのが「年収1000万円の会社員とフリーランス、どちらがコスパがいいか」という論争だ。
「サラリーマンは安定雇用、社会的信用がある」という人もいれば、「個人事業主は経費にできる強みがある」と反論がある。
一見すると「どっちもどっちでそれぞれにメリット、デメリットがある」と面白みのない意見に着地しそうだが、筆者は両方の立場を経験して「個人事業主のメリット」を取り上げたい。
もちろん、会社員を下に見るような意図はない。筆者自身、両方の立場を経験した上で、あくまで「経済合理性」と「構造的な強み」の観点からその理由を解き明かしてみたい。

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手取りが多いのはフリーランス
会社員とフリーランスの最大の違いは、税務上の自由度である。
会社員は給与から税金や社会保険料が天引きされるため、節税の余地は限定的で手取り収入から必要なものを買う。その一方でフリーランス(個人事業主)は、売上から経費を差し引いた「所得」に対して課税される。そのため、仕事で使うPCやスマホ、オフィスエリアとしての住居費などを支払った後が手取り収入となる。
仮に年収1000万円の会社員の場合、各種控除を引いた手取りは約720万円前後となる。ここから家賃や食費などの生活費を捻出する。一方、売上1000万円のフリーランスが、各種経費を差し引いた手取りが約600万円だったとしよう。
しかし、家賃や通信費の一部を事業経費として計上することで、年間数十万円単位の節税効果を生み出すことができる。さらに、iDeCoや小規模企業共済、青色申告特別控除などをフル活用すれば、課税所得を大きく圧縮できる。
結果として、同じ「1000万円」でも、手元に残る実質的な可処分所得はフリーランスの方が高くなりやすい構造にある。
サラリーマンの強すぎる社会的信用
税制面ではフリーランスに軍配が上がるが、「社会的信用」という土俵に上がると形勢は逆転する。日本の金融機関は、安定した給与、勤続年数、そして所属する企業の規模を猛烈に評価するからだ。
特に大手企業に勤めれば、住宅ローンの借り入れやクレジットカードの審査はサラリーマンは驚くほど強い。「家とクレカはサラリーマンの間に買え」といわれるのはこのためだ。
会社員は「信用力」という目に見えない価値を、不動産などの実物資産へとレバレッジがかけられる。東京では自宅用に駅近マンション購入をしたつもりが、含み益が数千万円になったサラリーマンも珍しくない。
対するフリーランスは、この信用評価において非常に厳しい立場に置かれる。銀行は直近数年間の確定申告書をシビアに審査する。
節税のために経費を多く計上し、所得を低く抑えていれば、その「低い所得」を基準に審査されてしまう。また、事業の変動リスクや病気・ケガによる収入減リスクも織り込まれるため、平均的なフリーランスが都心で高額なローンを組むハードルは高い。ただし、これも数年連続で高い所得を証明できれば満額融資は降りる。要は本人の「属性と実績」次第である。
これまでの右肩上がりの東京不動産投資を前提としたならば、手取りは少なくなってもサラリーマンは不動産で逆転もあり得た(もちろん、これはあくまで不動産を安値で仕込み、価格が上昇する優良物件をホールドできたという机上の空論だが)。
雇用の安定性はどうか?
「サラリーマンは雇用が安定して、フリーランスはそうではない」という意見も考慮する必要がある。
サラリーマンの安定性は言うまでもない。勤務先が倒産したり、外資に吸収されても、マーケット全体が雇用の受け皿となるので失業が年単位で続くことはあまり考えられない。
一方でフリーランスはそうではない。クライアントワークやプラットフォーマーに依存するビジネスをすると、相手に生殺与奪を握られ続ける。「今月で仕事は終わり」と言われたらその相手からは収入がなくなる不安定さがある。YouTuberはアルゴリズムが変わったり、アカウントBANで人生が変わるほどのインパクトがある。
しかし、これはあくまで「単一収入源のフリーランス」という一般論に過ぎない。現実の賢いフリーランスは、収入が不安定であることを熟知しているため、取引先や事業の柱を2つ、3つと掛け持ちする「ポートフォリオワーカー」になるのが普通だ。筆者も収入源はいくつも分散させている。
ある日、全部がいきなりゼロになることはあまり考えられず、1つがダメになっても他の仕事が補う形になればいい。また、収入はいい意味でも安定しておらず、ドカンと当たれば数年で一生分稼ぐことも可能だ。そうなれば、不安定でも夢があるのがフリーランスである。
会社員の数倍稼がないと割に合わない?
ここで、こうした議論に必ずと言っていいほど挙がる反論にも触れておきたい。「会社員と同じ精神的安定、社会的信用、さらには婚活市場での強さを得るには、フリーランスは売上の数倍はないと割に合わない」という意見だ。
この指摘は非常に的を射ている。会社員の年収1000万円には、有給休暇、退職金、社会保険料の労使折半、そして「明日も必ず給料が振り込まれる」という見えないプレミアムが上乗せされている。フリーランスがこれと同等の安心感を自前で構築しようとすれば、稼いだ額の多くを「防御」に回さねばならない。実質的な価値を同等にするには最低でも2倍の稼ぎが必要だという感覚は、多くの個人事業主が首を縦に振るリアルな肌感である。
しかし、だからこそ筆者はフリーランスの強さを推したい。会社員が給与所得で2000万円に到達するのは至難の業だが、フリーランスが事業を軌道に乗せ、複数の収入源を掛け持ちして売上2000万円を作ることは決して非現実的ではない。「割に合わせるために数倍稼ぐ必要がある」のは事実だが、青天井の環境を利用して「実際に数倍稼ぐことができる」のもまたフリーランスの特権なのだ。
◇
結論として、「自身の戦略で構造的弱点をカバーできたフリーランス」が最も経済合理性が高いと筆者は考える。
経費と各種控除で税制をハックし、手取りを最大化する。継続的な高収益で社会的信用を獲得し、複数の収入源を持つことでリスクを分散する。これができれば、フリーランスのデメリットは概ね解消される。
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