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沖縄のアメリカ海兵隊第31海兵遠征部隊(31MEU)がイラン戦線へ派遣された。大分前だが、イラク戦争のファルージャ市街戦で民間人の犠牲を伴う残虐行為が国際的に問題視された部隊だ。私は当時、この部隊に所属し、PTSDや重い精神障害を負った複数の元隊員を直接取材した。
彼らは「狙撃兵と思い込んで、市民を殺害してしまった」「目の前で戦友の身体が裂けて死んでいった」など、極限の体験を語った。人間としての限界を超える現実が、彼らの心を壊していった。戦争とは、これほどまでに残酷なものだ。一刻も早い停戦・終戦が望まれる。
しかし、いま気になるのは、各種の問題を抱えつつも、現時点では在日米軍が日本の安全保障の中核を担っているという事実だ。ところが今回、その戦力の一部が中東へ派遣され、沖縄を含む日本周辺の防衛態勢が一時的に手薄になっている。韓国でも同様に、在韓米軍の装備や部隊が中東へ移動し、地域防衛力が低下した。
さらに、米国のトランプ政権は同盟関係に対して従来とは異なる姿勢を示している。同盟国である英国を含むNATOとの関係についても、米国内で「遠く離れた他国のためとしては負担が大きすぎる」との議論が強まり、優先事項は南北アメリカ大陸の安全保障・経済関係へと移りつつあると分析する声も強い。
現在進行中のイラン問題は、世界が合意する懸念事項として「核兵器」や「テロの脅威」、そしてイスラエルやトランプ大統領の娘婿・クシュナー氏との関係が絡み、短期間で終わるとトランプは見込んで始めた。
しかし、米国にとって最優先の課題ではなく、米国内の支持率も高くなく、反対論も強い。ガソリンなどの原油価格が高騰し、市場を常に見ているトランプは近いうちに手を引く可能性がある。反戦姿勢のヴァンスが幕引きを図る可能性も高い。私は開始直後からそう指摘してきた。ベネズエラへの圧力が第一歩だったが、次はキューバの体制転換に向かう可能性がある。
今回のように、沖縄や韓国から防衛に必要な戦力が中東へ移動したことで、韓国とともに重要な日本の抑止力は確実に弱まった。トランプ氏は一期目で在韓米軍の撤退にまで言及した。今回の中東への移動はローテーションもあり、いずれ戻るとしても、日本の防衛が常に十分とは限らない。
そして最も重要なのは、米国が対中国戦略を重視しつつも、日本を含む西太平洋の防衛をどこまで優先するかは不透明だという点だ。対中が本当に優先なら在韓米軍撤退など言うわけがない。世界が二極化、あるいは三極化へ向かう中で、第一列島線が優先される米国益とされつつも、トランプ政権は南北アメリカ大陸の安全保障を最優先にする可能性が高い。
過去80年、日本人の多くは水と空気のように、米国の抑止力を当たり前のものとしてきた。日常的な会話で出てくるのは、米兵の暴行などの問題が多い。しかし今回の中東派遣や在韓米軍の移動を見ると、その前提が揺らぎつつある。
さらに過去20年ほど、米国は「矛(攻撃)」、日本は「盾(後方支援)」と日本人は思い込んできた。しかし現実は違う。米国では「自衛隊の後方支援に依存するな」「自国のことはまず自国でやれ」という声が、アーミテージ元国務副長官、ジョセフ・ナイら、トランプ誕生以前から強まってきた。私は何度も自国による努力しないとこのままでは米国による日本防衛は大変なことになると直接言われた。だからこそ、日韓は一部当てにならない米国への依存度を下げ、独自の防衛力を高める必要がある。
ところが日本国内では、今回もトランプ政権への批判が大合唱となり、肝心の「自国防衛力の強化」という核心が抜け落ちている。「国際法違反だ」「9条がある」などと批判しても、日本の防衛力が高まるわけではない。直接的な関係はない。むしろトランプ氏の反発を招きかねない。
米国の有事に日本が9条など国内法を理由に動かないという構図は、米国の一般国民から見ても不公平に映る可能性がある。こうした構造的な問題を理解しないまま、トランプが抱える問題への批判だけを繰り返しても、現実的な国防にはつながらない。
批判を繰り返すだけでは、9条が世界的に評価されていない現実も変わらないし、現実的な日本の国防にもつながらない。私は半世紀近く日米関係をワシントン、NY国連、ジュネーブなど世界の現場で直接取材してきた。その経験から断言できるのは、日本はいつまでも、オバマ時代までのように世界の警察官的役割を果たしてきた米国に甘える立場ではいられないということだ。
今回のように、以前紹介した米陸軍第82空挺師団の一部が米本土から中東へ移動し、さらに少し前は海兵隊第31海兵遠征部隊まで動いた。万が一の際に日本防衛に大きく寄与する戦力が不在となる状況が、現実に起きている。沖縄から米軍が外へ出ていけば、日本の抑止力はさらに弱まる。
だからこそ、日本は独自の防衛力を高める必要がある。相当数の米軍が中東に移動し、同盟国である日本の国防が手薄になった。「なんとかしてくれ」と訴えれば、「そろそろ日本は自国の防衛を真面目に考えるべきだ」という返答が返ってくる状況に、過去20年来ている。
それにもかかわらず国内では、政権批判や人物批判ばかりが先行し、肝心の「日本の安全保障の現実」を直視しようとしない。沖縄では先の戦争の苦い記憶もあり、いまでも「在日米軍は日本の国防に役立たない」「むしろ敵の標的になるから出ていけ」「沖縄に米軍は要らない。欲しいのは平和だ」という声が根強い。
私は「関東計画」の文書を読み、関係者から直接話を聞いた。日本本土から多数の米軍基地が沖縄に移動された。沖縄に異常なほどに米軍基地が集中しているのは事実だ。沖縄の人々の不公平感は当然理解できる。だが「第一列島線」など中国対策を中心に地政学的、軍事的に考えると沖縄の位置は国防に非常に重要なことが分かる。あの場所でないとできないことも実際あるのだ。
さらに今回もそうだが、日本の国防とは直接関係ない米国の開戦によって、在日米軍基地からの出動が現実に起きた。日本列島は「不沈空母」とも呼ばれ、この基地の自由使用と引き換えに、過去80年近く「米国有事に日本人はテレビを見ているだけ」という特権を得てきた。
しかし基地提供とは異なり、同盟国の有事に参加することは生死が関わる問題だ。過去20年ほどで米国の忍耐は限界に近づいている。だからこそ安倍政権は、国会での議論を経て集団的自衛権の行使容認に踏み切った。
これが受け入れられないのであれば、日米安保条約は1年の事前通告で破棄できる。フィリピンのように1年以内に米軍基地がなくなる可能性もある。私は20年ほど前に米政府に確認したことがある。問題の多い米国との関係は、日本側から解消することも制度上は可能だということを、日本人の多くは知らない。
そもそも一般の日本人の間でも、米軍の存在が日本の防衛に寄与しているという認識は薄い。9条を掲げて国際法違反だと叫んでも、それがどれだけ日本の国防に直接役立つのかは別問題だ。
日本人の一部には、今回9条が機能してトランプからの要求をうまく断れたと主張する人もいる。しかしそれは違う。トランプにとって国内法など重要ではない。彼の発言は明言を避けているが、その裏にあるのは「国内法を理由に米国有事で助けないなら、米国も日本を守らない」という冷徹な現実だ。
最近、米国の諜報機関は「台湾有事は起きないだろう」と報告した。しかしそれで100%安全と言い切れるのか。危機管理の大原則は、最悪のシナリオを想定し、対策を講じることにある。
日本が直面する「いまそこにある危機」を理解しないまま、十分な知識を持たずに議論を続けることこそが最大の問題である。
NATOは、日本ほどではないが、これまで相当程度米国に国防を依存してきた。しかし日本と違い、同盟国としてアフガニスタン戦争では100人以上の死者を出している。現在はトランプ政権に一定の距離を取り、防衛費をGDP比5%に引き上げ、英仏の核戦力を増強するなど、米国から徐々に自立しつつある。
だからこそ彼らは、国際法違反などの観点からトランプを批判することができる。
一方で日本は、アフガニスタン戦争はもちろん、米国とは直接関係ない国連の国際貢献でも9条を理由に、死者どころか現場にほとんど行かない。危険を伴う人的貢献を避けてきた。
9条と平和主義が世界で評価されているという認識は幻想に過ぎない。
自国は自国で守るという当たり前の覚悟を持つべき時期に来ている。現時点ではトランプに対して一定の効果を持つ高市政権の対米外交も、長くは続かない。独自の防衛力整備には最低でも10年はかかる。時間は残されていない。







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