
(前回:日本病の処方箋③:イラン攻撃におけるエネルギー安全保障にみる「政治責任」)
明らかに国際法違反。
国連憲章第2条第4項において、「武力不行使原則」というものがある。すべての加盟国は、国際関係において、威嚇または武力の行使を禁止されており、武力行使の例外は安保理の授権か、自衛権の行使に限られる。今回はいずれの要件も満たしていない。
前者の「安保理の授権」とは、国連安全保障理事会が武力行使を承認した場合である。「保護する責任」(R2P)原則に基づく人道的介入は国連憲章第6章および第7章に従って実施されるもので、湾岸戦争、ソマリア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、リビアといったケースである。この場合、国連の承認が必要であるが、今回、国連は承認していない。
自衛権の行使は、自国が敵対国から「武力攻撃」を受けた場合に自衛のために行動する場合である。今回の攻撃は、差し迫った武力攻撃が存在したことは示されておらず、自衛権の要件(武力攻撃、必要性、均衡性)を満たしていない。自衛という観点から言えば、イランは米国に対して武力攻撃を行っていない。そして米国防総省でさえ、イランによる差し迫った攻撃の証拠はなかったと認めている。
この法理は国連加盟国を拘束していて、慣習国際法としても確立している。そして、武力行使の禁止は、第二次世界大戦後の国連憲章採択とニュルンベルク裁判における違反行為への責任追及によって普遍的な規範となったもので、現代国際法秩序の要でもある。そのため、今回のアメリカとイスラエルの攻撃は「一方的な先制・予防的武力行使」と評価される。
国際法の原則が度重なる違反によって弱体化すれば、世界は法ではなく武力が結果を決定する国際社会へと逆戻りする危険性がある。それで平和国家日本はよいのだろうか。
国際法違反だと評価するのが、どう考えてもまっとうだろう。しかし、我が国は今回のイラン攻撃についての「法的評価を差し控える」と高市首相は答弁している。
各国のアメリカへの姿勢
現実の政治・外交という意味では、日本の安保政策から国際法に従っていないアメリカを糾弾するのは難しいだろう。それは重々わかる。そして、欧州各国もスタンスはさまざまである。イラン攻撃について、欧州政府は総じて「参戦しない」「これは我々の戦争ではない」と線を引いている。
ドイツ大統領は「国際法違反」とは明言してはいるが、多くがアメリカとイスラエルの攻撃を「違法」とは正面からは言わず、「最大限の自制」「国際法の尊重」「エスカレーション回避」を繰り返す、という曖昧な姿勢をとっている。
フランスは国際法の枠外での攻撃は容認できないと公然と批判してはいる。こうした曖昧な姿勢はダブルスタンダードと国内でも批判されている。他方、スペインは、「国際法と整合しない」「基地は使わせない」と表明している。
外交的には、日本も曖昧にならざるを得ないのは理解できる。しかし、「世界中に繁栄と平和をもたらすのはドナルド(・トランプ)だけ」と言ったことで、国益を考えて行動した高市首相でもある。そこは評価したい。その点、外交交渉としてはさすがなのかもしれない。
しかし、我が国は、「国際平和」「国際社会のルール」を最大限尊重することを国是として守ってきた国でもある。国際法違反だと明言しないと、これまで築き上げたものは瓦解してしまう。それを言えない国の主権者としては、これまで我々が平和を追求してきた活動は一体何だったのか、と思ってしまう。
「偉い人には逆らえない」病
日本病の問題は何か。結局、アメリカに逆らえないこと、アメリカに無条件で従うこと、その方針を本当によいのか多面的に検討もしないで「前提」として受け入れてしまうという病だ。

出典:「日本病」筆者作成、赤字が問題点
この日本病は様々な側面の症状を見せている。具体的には、アメリカ・日米関係の既得権維持、対米従属戦後モデルのままの外交であり続けること、トランプ大統領の気持ちや感情を見据えつつ過剰配慮し、なぜ国際法違反ではないのかの説明をしない点、政権が決めたことは無条件に従うという権威主義社会の特徴といった点である。
ある意味、我が国の国是である「国際平和」はどこにいったのだろう。筆者も別に今回の高市政権の行動スタンスに対しては仕方ないと思ってはいるが、「国際平和」理念が侵されたこと、国際法の観点から評価をしないのはどう見てもおかしい。
アメリカの偉い人には逆らえないプライドのなさ

出典:筆者作成
日本病「アメリカに追随するしかない外交」としては、国際法違反であろうが何であろうが、アメリカの軍事行使や戦争への追従、支援・協力をせざるを得ないことだ。そして、日米地位協定でアメリカの特権的地位を保障していて「従属国」のような扱いをされたままであることが特徴である。
問題としては、①アメリカの軍事的・経済的要望を聞かざるを得ない(日米構造協議、年次改革要望書、日米経済調和対話)ため、その結果として政策がゆがむ。②自律的な外交・防衛構想ができず、対米優先での選択肢が当たり前になり、これまでの前例踏襲の外交が「常識」として「前提」になってしまう。そのため、外交も他の選択肢を含めた検討や本質的な思考がされない。③沖縄の多数の基地、横田基地・厚木基地など米軍基地が存在し続け、都内の制空が制限されるということだ。
たしかに、アメリカには逆らえないというのはわかる。しかし、これまで「平和」を国是にしてきたのに、上司(トランプ)がやり出したことをすべてルールも忘れて追随する。まさに、アメリカの「従属国」「舎弟」になっている。上司に何も言わず、従順に従うということは、いったい何なのか…。
私なら「お言葉ですが…」とか、「言わせてもらえますが…」とか、「トランプ大統領、さすがに国際法違反ですから、日本としては困ります。和平を検討ください!」くらい主張できないのだろうか。
しかも、トランプは「事前通告していない。真珠湾攻撃を思い出せ」などと国辱級のジョークを言ってくる。完全になめられている。
日本人の誇りを取り戻す!平和を希求する国民や英霊にも説明しよう
プライドや信念よりも目の前の利益を優先する。それはわかる。これこそ日本人の変わり身の早さであり、巧みな処世術であり、国民性のメリットではある。しかし、第二次大戦の悲惨な結果を受けて国民的合意を得て、これまで大切に進めてきた「国際平和」はいったい何なのかということになってしまう。
国際平和のベースは国際法が裏付けていたのだ。根本的な原則にこだわらない姿勢を示してしまったら、平和なんてものは建前であったということを如実に表してしまう。
正論を言うことは、プライドだ。誇りを捨てて「当面の利益」を追求し、偉い人にしっぽを振る。まさに誇りを捨てた国・政府といえよう。そんな態度で、「Japan is back」になるはずがない。第二次大戦で亡くなった方たちの犠牲があっての国際平和の仕組みである。80年も頑張ってきた国民の行動や尽力に対しても説明がつかない。
3月10日は、81年前、10万人以上の死者を出した東京大空襲の日であった。多くの人の犠牲を踏まえて平和を誓ったはずだ。靖国神社と墨田区の東京都慰霊堂にいらっしゃる先人にもどう説明すればいいのだろうか。
「国際法違反かどうか評価できない」のなら、その理由も首相が丁寧に説明すべきであろう。高市政権に期待したい。








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