トランプを批判しても日本は守れないという現実

全米共和党下院委員会で演説するトランプ大統領
The White Houseより

なにを言っているのか。自ら始めたイラン戦争の幕引きすら見通せないまま、「石油が必要なら自分で取りに行け」と言い放つ——耳を疑う発言だ。

かつて半世紀以上にわたり、世界から一定の尊敬を集めてきた米国大統領の言葉とは到底思えない。息子が父親トランプからの情報で利益を得たという疑惑があり、事実なら違法中の違法である『インサイダー取引』だ。

今回の開戦でイスラエルと共に大きな役割を果たした娘婿も含め、トランプ氏の家族が中東で巨額の利益を得る可能性が指摘されている。イラン戦争に関するトランプ氏の行動には、確かに深刻な問題が山積している。

しかも問題は戦争だけではない。世界の民主主義の模範とされてきた米国の選挙制度そのものが、トランプ氏によって破壊されかねない状況にある。イラン戦争に反対する米国内の反トランプ運動を逆手に取り、中間選挙の無効を宣言し、選挙制度そのものを揺るがす可能性すらある。米国の半数が反トランプであるにもかかわらず、ここまで政治文化が堕落したのかと驚かざるを得ない。

もちろん、長期的に見ればトランプ氏への批判には意味がある。日本人の声は世界に届きにくいが、正論である以上、納得いくまで主張すればよい。

しかし、ここで冷静に考えるべきだ。日本人がトランプ氏を批判することで、日本の最重要国益である「国防」、万が一の時、日本人の生活と財産を「いかに外敵から守るか」が、どれほど強化されるのか。

むしろ、いま日本人が最優先で認識すべきは、今回のイラン戦争の蛮行をきっかけとした、日米安保条約が抱える構造的な不公平であり、それを理解しないまま米国批判だけを繰り返すことこそ、将来の日本の国防、安全保障にとって致命的な結果を招きかねないという現実だ。

日米安保の「本質」は明白だ。

日本は世界に通用しない9条を盲信していることもあり、自国を単独で守る能力を持たないことは間違いない。さらに現時点で頼れるのは米国だけである。これも間違いない。

しかしその約束は、「米国は日本を守る義務を負うが、日本は米国を守る義務を負わない」という、世界の軍事同盟史でも例を見ない極めて特異な構造になっている。

日本は9条を理由に、米国の有事では「テレビを見ているだけ」という状況が、一応制度的に許されている。日本列島を不沈空母として提供する基地の価値は、米国の世界戦略にとって大きいが、米国側から見れば「血を流す義務」を負わない日本の立場は、同盟として著しく不均衡だ。

私は半世紀近く日米関係を取材し、20年以上にわたり米側要人から直接不満を聞いてきた。アーミテージ元国務副長官、ジョセフ・ナイなどの政府関係者、さらに議会の超党派やシンクタンクの専門家や複数の米国関係者が、同じ問題を繰り返し、静かだがしっかりした口調で私に指摘した。誰も強く公言しないのは、内政干渉だからだ。

「日本は米国に守られる側でありながら、軍事同盟の常識違反、米国有事で9条を言い訳にして米国のために動かない」——この構造は、トランプ氏に限らず、米国の政治家・軍関係者の間で確実にフラストレーションを蓄積させている。

さらに最近、米国諜報機関は「台湾統一に絡む武力行使は当面起きない」との報告書を出した。しかし、中国が過去10年にわたり進めてきた行動を直視すれば、これを額面通りに受け取るのは危険だ。

台湾本島への全面侵攻がなくとも、海上封鎖、サイバー攻撃、情報戦、尖閣占領といった日本の国益を侵害する「低強度の侵略」は十分にあり得る。むしろ中国が最も得意とするのは、このグレーゾーンの段階的侵食だ。

米国政治は大きく揺れている。トランプ氏だけではない。共和党の次世代政治家たち――たとえば次期大統領の筆頭候補、ヴァンス副大統領のような人物——も、「米国本土優先」「孤立主義」「同盟負担の削減」「世界の二極化(あるいは三極化)容認」へ傾く可能性が高い。

その流れの中で、「日本を含む太平洋の西半分を中国に公式に献上する」という劇的な政策転換は起きないにせよ、グレーゾーンでの既成事実化を黙認し、じわじわと後退する形で日本の国益が損なわれる可能性は現実的に存在する。

尖閣での小規模な既成事実、台湾周辺での圧力、情報戦、経済的威圧——こうした「低強度の侵食」に対し、米国がエスカレーション回避を名目に一歩引く。その積み重ねが、結果として日本の安全保障環境を大きく損なう。

これは「日米条約破棄」「米中友好条約」のような派手な形ではなく、静かに、しかし確実に抑止力が空洞化していくパターンだ。

そして、その分岐点はどこにあるのか。

それは、日本が「自国を自国で守る意思」をどこまで具体的に示すかにかかっている。私が40年くらい前の講演で言ったことでもある。

日本が9条を言い訳にし続け、米国の有事には動かず、国内ではトランプ氏と米軍批判だけを繰り返す——この構図が続けば、米国の不満が爆発するのは時間の問題だ。

私はかなり前から各方面から聞いていたことだ。背景にある米国の国力低下、孤立主義、自国優先主義、トランプが今の米国をそのようにしたと思い込んでいる日本人が多い。一部はそうだが、ここ10数年の米国の変容が、トランプという自分勝手な人間を大統領にした。これがいまの米国の姿の主要因だ。

そのとき、米国の政治的意思が弱まり、「義務を果たさない日本のためにリスクを取る必要はない」という空気が広がれば、グレーゾーンでの黙認が現実化する。

だからこそ、いま日本人が認識すべきは、日米安保の不公平を直視し、9条改正を含めて米国依存を減らし、「自国を自国で守る覚悟」を持つことだ。

これを避け続ければ、日本は取り返しのつかない状況に追い込まれる。

いまのように、日本人がいくら国際法違反だと、トランプ米国批判を繰り返しても、日本の国防は強化されない。むしろ、米国の不信感を増幅させ、日本の安全保障を危険にさらすだけだ。

欧州各国はNATOという軍事同盟を持つ。米国だけでなく、お互いに血を流して守り合う構造だ。

今回トランプ批判をするイタリア、スペインなど欧州の国々は、これまでは米国の戦争、アフガン戦争でも死者を100人以上出した。米国の同盟国としての義務を果たした。

日本は「9条で今まで1人の犠牲者も出していない」と誇っている。米国とは直接関係ない国連の人的貢献からも「危険だから」と逃げる一国平和主義だ。世界が9条を高評価しているという一部日本人は、高評価どころか。逆の顰蹙だということを学ぶべきだ。

欧州はトランプ2期目でますます米国から離れていく。防衛費もGDP5%まで増やし、英仏の核兵器増強も進めている。

他方の日本はますます「戦争しない国」「平和主義の日本」。世界に誇れる9条を掲げていれば大丈夫。トランプ米国の戦争に巻き込まれたくないという声ばかり。

日本国民が議論し、自国防衛の意思を示すかどうか——それこそが、これからの10年で日本の運命を決める分岐点となる。

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