イラン攻撃で更に深まった「米欧の亀裂」

欧州の盟主・ドイツのメルツ首相は「(米イスラエル軍の)イラン攻撃は我々の戦争ではない」と機会ある度に強調してきた。シュタインマイヤー独大統領はさらに一方踏み込んで「イラン攻撃は国際法違反だ」と、トランプ米政権を批判している。

ドイル・メルツ首相と会談する米イスラエル軍のイラン攻撃を強く批判するスぺインのサンチェス首相 2025年9月18日 独連邦首相府公式サイトから

欧州諸国の中で米イスラエル軍のイラン攻撃を最初に批判した国は、スペイン左派政権のサンチェス首相だ。スペインは30日に入り、イラン・イラク戦争に関連するすべての軍用機の領空通過を禁止した。同国のマルガリータ・ロブレス国防相は同日、「我々は、イランでの戦争に関連するいかなる行為についても、モロンおよびロタ(の軍事基地)の使用を許可しない」と述べ、この方針については「当初から米政府に明確に伝えてきた」と付け加えた。

スペインのサンチェス首相は、2月28日の開戦以来、アメリカとイスラエルによるイラン攻撃に最も強く反対してきた一人だ。サンチェス首相は、米イスラエルの対イラン攻撃は「無謀」かつ「違法」だと批判し、3月上旬、アンダルシア州にあるロタ基地とモロン基地を米軍が使用するのを拒否した。25日には、「空中給油機を含むイランでの作戦に関連する行動に関わるすべての飛行計画は却下された。我々は、違法な戦争に関わるつもりなどない主権国家だ」と主張している。

一方、英国は中東紛争において「防衛行動」のみに参加する意向を示しており、この姿勢はトランプ大統領から繰り返し批判されている。スターマー英首相は30日、英国は「この戦争に巻き込まれることはない」と釘を刺している。

イタリアは31日、米軍戦闘機のシゴネラ空軍基地への着陸を禁止した。報道によると、複数の米軍機がシゴネラ海軍航空基地に着陸し、その後中東へ向かう飛行計画を把握したため、米軍の同基地への着陸を拒否した。イタリア軍への正式な許可申請や調整は行われていなかった。メローニ首相率いる政府は、米国との安定した関係と国際協定の遵守を強調し、「通常の協定の範囲を超える作戦には議会の承認が必要となる」という。

ロイター通信などの報道によると、フランスはイランとの戦争で使用する予定の米国製兵器の輸送のために、イスラエルが領空を使用することを拒否したという。フランス軍は3月初旬、イランへの攻撃に米軍機が参加した場合、フランス国内の基地使用を認めないと表明した。当時、米軍機が地域の同盟国防衛のために使用される場合は「一時的に」使用を許可するとも述べられていた。

トランプ大統領は自身のソーシャルネットワーク「Truth Social」への投稿で、フランスを激しく批判し、「イスラエルに向かう軍事装備を積んだ航空機の領空通過をフランスが拒否した。フランスは米国に対して非常に非協力的だ」と書き込んでいる。

米イスラエル軍のイラン攻撃が契機となって、米国と欧州諸国の間の亀裂がさらに深まってきた。
トランプ大統領は「ホルムズ海峡封鎖のためにジェット燃料が枯渇したすべての国々は米国から石油を買うべきだ。我々には石油が十分にある」と提案し、「米国はホルムズ海峡の安全確保の軍事活動から手を引く」と述べている。また、ルビオ米国務長官は「北大西洋条約機構(NATO)加盟国との関係を再考しなければならなくなった」と、欧州のNATO加盟国に警告を発している。

ところで、看過できない事実は、イランのホルムズ海峡封鎖による経済的影響は米国より欧州諸国にはるかに大きいことだ。

ウクライナ侵攻後、欧州はロシア産ガスへの依存を減らすため、カタールなどの中東産LNG(液化天然ガス)に大きくシフトしてきた。しかし、カタール産LNGのほぼ全量がホルムズ海峡を通過する。 欧州の天然ガス指標(TTF)は封鎖直後に40%以上急騰し、在庫が少ない冬場において深刻なエネルギー危機を招いている。

一方、米国は現在、世界最大の原油・ガス産出国であり、自国内で消費するエネルギーの多くを賄える。米国への影響は主に世界的な「価格上昇(ガソリン価格の高騰)」という形で見られるが、欧州のように「物理的な供給が止まる」というリスクは極めて低い。

ホルムズ海峡の封鎖により空路・海路の両方でコストが跳ね上がり、輸入に頼る欧州経済に直接的なインフレ圧力を与えている。 GDP成長率の大幅な下方修正と、エネルギー価格の3倍増などの高騰が懸念されている。一方、米国の場合、ガソリン価格が1ガロン4ドルを超えるなど家計への負担は増しているが、エネルギー輸出による利益も享受できるため、経済全体としての耐性は欧州よりはるかに強い。

多くの欧州諸国は「米イスラエル軍のイラン攻撃は我々の戦争ではない」と主張し、国際法違反としてトランプ米政権を批判してきたが、ホルムズ海峡封鎖による経済的ダメージは米国よりはるかに大きい。イランの不法な核関連活動、中東地域へのテロ活動支援、国内の反体制派国民への弾圧などについて、欧州は無視続けることはできないはずだ。国際法を理由に軍事介入を拒否する一方で米国の軍事活動による恩恵だけを享受するという姿勢はトランプ大統領でなくても、フェアではないといわざるを得ない。ロシア、中国、イランなどは国際法を度々違反している。欧州は、国際社会の現実を直視し、トランプ米政権の「力」による外交へのアレルギーを克服すべきだ。

<参考資料>
欧州にはドイツ、イタリア、イギリス、スペイン、ギリシャなど約30か所の米軍基地がある。その中で、イラン攻撃に関連して米軍の基地利用を拒否、制限している国はスペイン、イタリア、ベルギー、ドイツ、イギリスなどだ。

①スペイン・・イランへの軍事作戦のために共同運用基地(ロタ海軍基地、モロン空軍基地)を使用することを明確に拒否。理由は、「二国間協定や国連憲章に沿わない活動」には基地を使用させない方針を示しており、人道目的以外での支援は行わないとしている。
②イタリア・・シチリア島の基地(シゴネラ基地など)への米軍爆撃機の着陸および中東への通過許可を拒否したという。理由はイランへの攻撃に転用される可能性があるため、自国領土の利用を認めない姿勢をとっている。同国には、アヴィアーノ空軍基地、シゴネラ海軍航空基地(シチリア島)、ヴィチェンツァ(陸軍)がある。
③ベルギー・・米国イスラエルによるイランへの軍事攻撃への参加を拒否した。理由は武力行使ではなく外交による解決を優先すべきだとの立場だ。
④ドイツ・・直接的な軍事作戦への参加は拒否している。ただし、ラムシュタイン空軍基地は依然として米軍の主要なハブとして機能しており、攻撃ドローンの運用や他国から離陸した機体の中継地となっている。ラムシュタイン空軍基地(空軍欧州司令部)、シュトゥットガルト(欧州軍・アフリカ軍司令部)、ヴィースバーデンなどがある。
⑤イギリス・・当初は基地(ディエゴガルシア島や英国内基地)の利用を拒否していたが、その後「集団的自衛権に基づく防御的な任務」に限定して許可する方針へ転換した。 レイクンヒース空軍基地、ミルデンホール空軍基地、フェアフォード空軍基地(爆撃機拠点)がある。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年4月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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