ホルムズ海峡が事実上封鎖され、原油価格が1バレル100ドル前後で推移しています。ガソリン代も200円に迫る勢いで上がり、食品や電気代の値上げも避けられません。
しかし、投資助言の現場にいる私が最も危惧しているのは、「生活費の上昇」と「保有株の下落」が同時に襲いかかるダブルパンチです。新NISAで資産形成を始めたばかりの方にとって、これは他人事ではありません。この記事では、創業22年目の投資助言代理業の立場から、原油高局面で個人投資家が本当に警戒すべきことと、その具体的な備え方をお伝えします。

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なぜ今、中東のニュースが「あなたのNISA口座」を直撃するのか
ホルムズ海峡と聞くと、遠い地域の話で自分たちとは関係の薄いニュースのように思えます。しかし今、この遠い海の出来事が、日本で暮らす私たちの財布や証券口座に、静かに、そして確実に影響し始めています。
2月28日、アメリカとイスラエルによるイラン攻撃を受け、イラン革命防衛隊がホルムズ海峡の船舶通行を事実上禁止しました。1日約120隻が行き来していた海峡の通航隻数はわずか5隻までに激減。WTI原油先物は1バレル111ドル台を記録し、2022年以来の100ドル超えとなりました。
この事態が日本にとってどれほど深刻か、数字で見れば一目瞭然です。日本の原油輸入における中東依存度は約95%に達しており、しかもその大半がホルムズ海峡を通って運ばれてきます。中国や韓国も中東から原油を買っていますが、日本ほどの依存度ではありません。
日経ビジネスの報道でも「日本は中韓を上回る中東依存」と指摘されているとおり、ホルムズ海峡の封鎖は日本にとって単なる「痛み」ではなく、エネルギーの生命線が絶たれることに等しいのです(参考:日経平均2892円安 ホルムズ海峡封鎖で原油高騰、日本は中韓上回る中東依存 日経ビジネス 2026/03/09)。
影響はすぐ数字に表れました。3月9日、日経平均株価は2,892円安と過去3番目の下げ幅を記録。今週も2800円超の下落後、4月1日に2675円高と不安定な相場が続いており、ここ1カ月では7.4%以上の下落となっています。「遠くの戦争は買い」という古い相場格言がありますが、今回は通用しませんでした。理由は単純に、日本がこの危機の「当事者」だからです。
「自分は新NISAで投資信託を積み立てているだけだから関係ない」と思った方がいるかもしれません。しかし、原油高は回り回って日経平均やTOPIX、S&P500などの構成銘柄を直撃し、投資信託の基準価額を押し下げます。つまり個別株を持っていなくても、NISAの口座残高は確実に影響を受けるのです。
多くの人が見落としている「原油高の本当の怖さ」
「原油が上がるとガソリン代が高くなる。だから節約しよう」。多くの方の反応はここで止まります。もちろんそれ自体は正しい認識です。
すでにガソリン価格は1リットル190円を超える地域が続出し、200円超えも目前に迫っています。野村証券の試算では、WTI原油が1バレル100ドルで推移すれば、政府の対策がない場合、ガソリン価格は1リットル235円まで上昇するとされています。
しかし、投資助言の現場にいる私が声を大にして伝えたいのは、家計の負担増と資産が目減りが同時に起きることこそ、本当の怖さだという点です。
まず家計面では、原油高の影響はガソリン代だけにとどまりません。電気代、都市ガス、物流コスト、そして原油由来のプラスチックや包装材の値上げを通じて、食品から日用品まで物価全体を押し上げます。
民間エコノミストの試算によれば、原油高が続いた場合、1世帯あたり年間約22,000円から36,000円の支出増になるとされています。せっかく今年1月に13ヶ月ぶりのプラスに転じた実質賃金が、再びマイナスに逆戻りするリスクもあるでしょう。
次に資産の側面ですが、原油高は企業の生産コストを直撃します。原材料費や物流費が上がっても、それをすべて販売価格に転嫁できる企業は多くありません。コストを吸収しきれなければ利益は圧迫され、株価は下がります。実際、日経平均は2月末の攻撃以来、合計で数千円規模の下落を経験しています。
ここで想像してみてください。毎月の食費や光熱費が上がって家計が苦しくなり、節約のために投資に回す余裕も減る。そんなときに証券口座を開いたら、コツコツ積み立ててきたNISAの評価額まで下がっている。これが「ダブルパンチ」の正体です。
1973年の第一次オイルショックの際、日本は消費者物価が前年比20.9%も上昇する「狂乱物価」に見舞われ、同時に景気が急速に冷え込みました。物価が上がるのに景気が悪くなる、いわゆるスタグフレーションです。
今回の原油高がそこまで深刻化するかは予断を許しませんが、構造としては同じ力学が働き始めていることを、投資家として認識しておく必要があります。
この危機を乗り切るために知っておくべき「銘柄の見極め方」
「では、今すぐ株を全部売るべきなのか?」
そう不安に思う方もいるでしょう。何もせずに放置することが危険です。大切なのは「原油高」という環境変化に合わせて、自分の保有資産を冷静に点検することです。
私は太平洋証券(現:三菱UFJモルガン・スタンレー証券)の時代から数えると、30年以上市場の荒波を見てきました。その経験から言えるのは、原油高局面では企業の間でコスト高による収益の圧迫が起きるということです。
原油高によってコストが膨らみ、利益を圧迫される企業があります。判断の鍵は「価格転嫁力」です。仕入れコストが上がった際、それを自社の商品やサービスの価格に上乗せできるかどうかが重要になります。
ブランド力の強い消費財メーカーや、競争相手の少ないニッチな分野で高いシェアを持つ企業は、比較的スムーズに価格転嫁できます。逆に激しい価格競争にさらされている業種や、公共料金のように値上げに時間がかかる業態は、コスト増を吸収しきれずに業績が悪化しやすい。
つまり原油高局面で個人投資家が意識すべきことは、「物価高に負けない企業を選ぶ」という視点です。自身のポートフォリオの中に、コスト増を価格に転嫁できない企業が含まれていないかを確認し、もし含まれているのであれば、より優位性のある銘柄への乗り換えを検討すべきでしょう。
もう一つ意識してほしいのが、円安との複合効果です。原油はドルで取引されるため、原油高と円安が重なると日本企業が支払う実質的エネルギーコストはさらに膨らみます。
ダイヤモンド・オンラインの報道では、ホルムズ海峡の封鎖が長期化すれば1ドル165円まで円安が進む可能性も指摘されています。こうした環境では、海外売上比率の高いグローバル企業のほうが、円安メリットでコスト増を相殺しやすいという側面もあるのです(参考:ホルムズ海峡封鎖長期化なら1ドル「165円」も!?原油130ドル高騰は輸入額9.7兆円増の円安圧力に ダイヤモンド・オンライン 2026/03/09)。
重要なのは、こうした環境の変化に応じて保有銘柄を柔軟に入れ替えていく規律です。「この銘柄は優良企業だから」と執着して思考停止し続けることは、穏やかな上昇相場では通用しても、今のような有事では大きな損失を招きかねません。
新NISA世代へ贈る「攻めながら守る」ための心構え
最後に、新NISAをきっかけに投資を始めた方、あるいはこれから始めようとしている方に向けて、お伝えしたいことがあります。
「積立を止めるべきか?」という質問を、ここ数日数多くいただいています。私の答えは「止める必要はない。ただし、家計とのバランスを見直す必要はある」です。
まず確認すべきは生活防衛資金の確保です。原油高による物価上昇がいつまで続くかは、ホルムズ海峡の情勢次第であり、誰にも正確には読めません。
政府は3月16日から石油備蓄の放出を開始すると表明しましたが、備蓄は無限ではありません。日本の石油備蓄は254日分とされていますが、実際に機動的に使えるのは国家備蓄の146日分が中心で、放出しても原油価格そのものを押し下げる効果には限界があります。だからこそ、最低でも生活費の6か月分、できれば1年分はすぐに引き出せる貯金として手元に確保してください。
投資に回す金額は、あくまで生活防衛ラインを確保した上での余裕資金であるべきです。物価上昇で家計が圧迫されているのに無理をして投資を続ければ、いざというときに含み損のまま売却を迫られるという最悪の展開を招きます。
その上で、積立投資そのものは継続する価値があります。なぜなら、株価が下がっている局面でこそ、同じ金額でより多くの口数を買えるからです。これはドルコスト平均法の基本であり、長期投資の最大の武器です。今の恐怖に負けて積立を止めてしまうと、将来の回復局面で得られるはずだったリターンを自ら手放すことになります。
ただし一つだけ見直してほしいことがあります。積立の投資先が原油高や円安に対して、極端に脆弱な構造となっていないかという点です。日本株のみに投資している場合は、S&P 500や全世界株式(オルカン)といったグローバルなインデックスファンドとの分散を検討してください。地域を分散させることで、日本固有の中東依存リスクを軽減できます。
今回のホルムズ危機は、多くの個人投資家にとって初めて経験する本格的な有事かもしれません。しかし日本経済は、かつて2度のオイルショックを乗り越え、世界屈指の省エネ技術を生み出してきました。危機は必ず終わります。大切なのは、その間に感情に流されず、家計と資産の両方を守り抜くための冷静な判断を続けることです。
目の前の含み損に一喜一憂するのではなく、「生活を守る」と「資産を育てる」を両立させる。この2つの視点を持つことが、原油高という逆風の中で個人投資家が取るべき最も合理的な姿勢だと私は考えています。
藤村哲也 ライジングブル投資顧問株式会社 代表取締役
千葉県出身。横浜市立大学経営学科卒業後、1990年に太平洋証券(現・三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に入社。個人・法人の資産運用を担当し、バブル崩壊後の市場を第一線で経験する。のちに本社投資情報部でプラント・機械・IT・半導体など幅広い業種を担当し、年間数百件におよぶ企業取材を通じて成長株分析に強みを培う。1999年の台湾地震では、TSMCをはじめとする現地半導体メーカーを取材し、アジア市場リスクを日本の投資家へ発信した。
2003年にライジングブル投資顧問株式会社を設立し、代表取締役に就任。「投資を一部の富裕層の特権から、誰もが続けられる生活習慣へ」を理念に、投資助言と教育を融合した“伴走型”のビジネスモデルを追求している。創業21年を迎えた現在も、金融庁登録の投資助言・代理業として行政処分ゼロを継続。700件超の売買助言ログを公開し、“信頼を見せる投資顧問”として、投資家に寄り添った長期的な資産形成を支援している。
公式サイト https://www.risingbull.co.jp/
公式ブログ https://www.risingbull.co.jp/stock/
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2026年4月2日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。







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