ゼレンスキー大統領の「中東アラブ外交」の狙い

ゼレンスキー大統領は3月27日から4月5日にかけ、中東・アラブ諸国を精力的に歴訪した。訪問先では、イラン製無人機(ドローン)への対処など、ウクライナが対ロシア戦で培った防衛技術の提供を軸に、アラブ諸国との10年間にわたる長期安保協力協定を次々と締結している。ゼレンスキー氏の中東・アラブ外交の狙いを探ってみた。

シリアでアフメド・アル=シャラア暫定大統領と会談するウクライナのゼレンスキー大統領、2026年4月5日、ウクライナ大統領府公式サイトから

先ず、ゼレンスキー氏の中東アラブ歴訪の皮切りは、3月27日、サウジアラビアのジッダ訪問だ。ムハンマド皇太子と会談し、防衛協力に関する協定に署名した。同月28日はアラブ首長国連邦(UAE・アブダビ)でムハンマド大統領と会合し、安全保障と防衛分野での協力に合意した。そして28日~29日にはカタール(ドーハ)を訪問し、タミム首長と会談。エネルギー供給や防衛協力に関する10年間の協定を締結。30日にはヨルダンを訪問、アブドッラー2世国王と会談し、地域情勢と相互支援について協議した。

4月に入ってからは、4日、トルコのイスタンブールでエルドアン大統領と会談。エネルギーや安保分野での新段階の協力について合意した。5日にはシリアのダマスカスを訪問し、シャアラ暫定大統領と会談、軍事・安保分野の経験共有で合意した。アサド政権崩壊後の新政権との初会談であり、ウクライナ大統領として24年ぶりのシリア訪問だった。

注目されるのは、ロシアとの戦争勃発後、ゼレンスキー氏は頻繁に中東アラブ諸国を訪問してきたことだ。2023年5月にサウジのジッダで開催されたアラブ連盟首脳会議にオブザーバー参加し、ウクライナへの支持を訴えるなど、積極的なアラブ外交を展開してきている。同氏の中東アラブ外交は年季が入っているのだ。

それでは、ゼレンスキー氏のアラブ中東外交の狙い、目的は何か。主に安全保障の強化、ロシア包囲網の拡大、そして和平交渉における仲介役の確保を狙った戦略的な外交だ。

3月末のサウジアラビアでは、安全保障協力の拡大と軍事支援が焦点となった。防衛協力に関する協定に署名している。イラン製無人機(ロシアが使用)への対策を含め、中東諸国との防衛技術における協力を深める狙いがあった。

例えば、アサド政権時代、ロシアと関係が深かったシリアを訪問した。シリアは長年ロシアの重要な軍事拠点(タルトゥース海軍基地など)だったが、ウクライナが新政権と安全保障協力を進めることは、中東におけるロシアの戦略的拠点を無効化する外交ともいえるわけだ。

また、 経済・エネルギー分野での連携だ。ゼレンスキー氏は戦後復興を視野に入れ、豊富な資金力を持つサウジ等の投資を呼び込む準備を進めている。エネルギー輸出国であるアラブ諸国との関係を強化し、ロシアのエネルギー戦略に対抗する狙いがあるはずだ。

ウクライナの中東アラブ諸国への接近外交に対しては、当然ロシアから強い警戒と反発を呼んでいる。ロシアはサウジアラビアやUAEなど中東諸国を「多極化する世界」における重要なパートナーと位置づけてきた。それらの国々をゼレンスキー大統領が訪問し、防衛協力協定を締結して支持を広げることに対し、中東におけるロシアの足場を崩そうとする試みと受け取られるわけだ。

特に、ロシアはウクライナが対イラン製ドローンの迎撃経験や防衛技術をサウジ等に提供することに神経を尖らせている。 ロシアはイランからドローン供与を受けるなど軍事協力を深めており、ウクライナがその対抗策を中東諸国に広めることは、ロシアの兵器の有効性を損なう直接的な脅威となる。

参考までに、中東アラブ諸国にとってウクライナとの関係強化のメリットは何か。中東アラブ諸国がウクライナとの関係を強化することには、単なる「人道支援」を超えた、極めて現実的な安全保障・経済・外交上のメリットがある。

中東諸国(特にサウジアラビアやUAE)にとって、イラン製ドローンやミサイルによる攻撃は最大の安保懸念だ。ウクライナは現在、イラン製ドローン(シャヘドなど)を実戦で撃墜・分析している国だ。ウクライナからドローン検知や電子戦(ジャミング)の最新ノウハウを直接導入できることは、中東諸国にとって願ってもないことだ。

そのほか、世界の食糧生産国ウクライナとの関係強化は食料安全保障の安定化に通じる。米国やロシアの大国依存外交から脱皮でき、外交的なバランサーとしての地位を向上できる。さらにウクライナ戦争復興への投資と軍事産業の育成なども視野に入れているはずだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年4月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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