メタは5月20日から約8000人、全従業員の約10%にあたる人員削減を始める。マーク・ザッカーバーグCEOが、社内タウンホールで語った言葉は象徴的だ。「メタには大きなコストセンターが二つある。ひとつは計算インフラ、もうひとつは人材だ」。

言い換えれば、サーバーと人間はトレードオフなのだ。そしてメタは、人間ではなくサーバーを選んだ。AIインフラへの投資は急拡大している。メタの2026年の設備投資見通しは1250億~1450億ドル規模とされ、前年の720億ドルから大幅に増える見通しだ。
人的資本と物的資本はトレードオフ
これは単なるリストラではない。景気悪化による人減らしでもない。メタは過去最高水準の利益を出しながら、労働力を削り、その資金と経営資源を計算資源へ振り向けている。つまり、同じ資本の中で「人に払うか、機械に払うか」という選択が行われ、経営者は機械を選んでいるのである。
これが新しい産業革命の本質だ。産業革命は、人的資本を物的資本に置き換える過程だった。蒸気機関は筋肉労働を代替し、工場制機械工業は職人の手仕事を分解した。20世紀のオートメーションは、工場労働者をロボットや生産ラインに置き換えた。そして生成AIは、いよいよホワイトカラーの知的労働を機械に代替しようとしている。
対象は、会計、法務、マーケティング、プロジェクト管理、プログラミング、資料作成、顧客対応など、パソコンの前で行う仕事全般である。Microsoft AIのムスタファ・スレイマンCEOは、AIが12~18カ月以内に「ほとんど、あるいはすべての専門的タスク」で人間レベルに達する可能性を語っている。(Fortune)
産業革命は一直線には進まない
もちろん、現実はそれほど単純ではない。AI導入の多くはまだ期待先行で、Gartnerは2027年末までにエージェント型AIプロジェクトの40%超が中止されると予測している。理由は、コスト高、不明確な投資効果、リスク管理の不備である。(ガートナー)
つまり、AIがすぐに万能になるわけではない。だが重要なのは、企業の投資行動がすでに変わっていることだ。AIが完全に人間を超えたから人員削減が起きているのではない。AIが人間を代替すると経営者が予想しているから、先に人員と予算の再配分が始まっているのだ。
だがその規模は異常なほど大きい。Amazon、Microsoft、Meta、Googleなどの巨大IT企業は、2026年に最大7250億ドル規模の設備投資を計画していると報じられている。これはAIインフラへの歴史的な賭けである。(Business Insider)
この変化は労働市場だけでなく、物理世界にも負荷をかけている。AIはクラウド上の魔法ではない。巨大なデータセンター、半導体、冷却装置、電力網、水資源を必要とする。英国や米国ではデータセンターが電力供給の6%を消費しているとの報告もあり、AI需要の拡大が電力インフラや気候目標に影響を与え始めている。(ガーディアン)
さらに、xAIはミシシッピ州のデータセンターで多数の天然ガスタービンを設置していると報じられている。再生可能エネルギーで動くはずだったAI革命が、現実には化石燃料によって支えられているという皮肉がある。(WIRED)
かつて工場で起こった革命がオフィスで起こる
新しい産業革命の本質は、企業の資金が人的資本から物的資本へ移ることだ。19世紀にマルクスは産業革命で資本家は豊かになり、労働者は窮乏化すると予想したが、それは間違いだった。労働者は農民よりはるかに豊かになり、イギリスは爆発的な成長を遂げたのだ。
かつて工場で起きたことが、いまオフィスで起きている。違いは、代替されるのが肉体労働ではなく、知的労働である点だ。それによって生産性は上がり、アメリカ経済は成長するが、すべての労働者が豊かになるとは限らない。職を失ったプログラマがウォルマートの店員になると、賃金は下がるだろう。
だがこのAI革命を拒否しても、誰も豊かになれない。日本の企業では正社員を解雇できないので生産性は下がり、新卒採用が減って「AI氷河期」が来るだろう。日本のIT革命が失敗に終わった最大の原因は雇用慣行だが、このままではAI革命でも同じ失敗が繰り返されるだろう。







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