2026年1月、トランプ政権はキューバへの石油供給を遮断した。米国による石油封鎖は、ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領の拘束とベネズエラの石油資源の接収に続いて実施されたもので、キューバを交渉のテーブルに着かせることに成功した。その結果、キューバ全土が深刻な燃料不足に陥り、数十年ぶりとも言われる最悪の経済危機に直面している。停電は日常化し、観光業は壊滅状態だ。

トランプ大統領とルビオ国務長官 同国務長官Xより
しかしこれは突然の出来事ではない。対キューバ強硬姿勢の背景には、歴史的経緯、国内政治、そしてトランプ政権を特徴づける「フロリダ人脈」という三つの要因が複雑に絡み合っている。
歴史の刻印――キューバ危機の記憶
米国とキューバの関係は、65年以上にわたって深く傷ついてきた。その大半の期間、キューバを率いたフィデル・カストロは、政権発足当初にソビエト連邦との連携を選択した。これが両国間の緊張の原初的な源泉となった。ソ連の衛星国として、キューバはアフリカでの革命運動、中東のテロ組織、ラテンアメリカの反米勢力を兵器供与や軍事的専門知識の提供によって支援した。
トランプが高校生だった1962年のキューバ危機は、米国の指導者たちの世界観に深い刻印を残している。キューバはソ連が米国の90マイル沖に核ミサイルを配備することを許容した。人類史上最も危険な13日間をもたらし、第三次世界大戦の瀬戸際にまで至ったこの出来事は、トランプを含む世代の政治家にとって「過去の歴史」ではない。
反米国家という位置づけ
ソ連崩壊後、キューバの脅威度は大幅に低下した。それでも米国がキューバを反米国家として位置づけ続けるのはなぜか。
キューバはかつて米国のスパイ活動やその他の諜報活動にも積極的に関与していた。こうした問題は複雑かつ多岐にわたり、長年にわたる完全な貿易禁輸という米国の対応は、一定の論争を招いてきた。
現在の交渉において、米国側が求めているのは、政治犯の釈放、キューバによる米国内での諜報活動の停止、外国人投資の許可といった改革だ。一方キューバ側は、燃料の再供給と禁輸措置の解除、そして米国からの侵攻がないという保証を求めている。
フロリダのキューバ系コミュニティの政治力
対キューバ強硬姿勢を理解するうえで不可欠なのが、フロリダに集積するキューバ系移民コミュニティの政治的影響力だ。
ソ連崩壊までのキューバ系ディアスポラは、1960年代初頭にキューバを離れた人々が中心だった。彼らは事業の国有化、生涯の貯蓄の喪失、家屋の没収、肉親との別離という深い傷を抱えてこの国にやって来た。反カストロ感情は強烈なものだった。米国で成功を収めるにつれて政治的影響力を持つようになり、数多くの議会選挙の主要な献金者となり、トランプのような有力者との人脈を築いた。
その影響力は立法府にも及んでいる。国務長官のマルコ・ルビオはキューバ系アメリカ人であり、テキサス州選出上院議員テッド・クルーズもキューバ系だ。下院にもキューバ系のメンバーが5名在籍している。
トランプ政権を彩る「フロリダ人脈」
トランプ政権の対キューバ強硬姿勢を直接駆動しているのが、政権内に巣食う「フロリダ人脈」だ。トランプは少なくとも5名のフロリダ出身者を政権の要職に起用しており、首席補佐官スージー・ワイルズを含む主要な大統領補佐官たちも同州の出身だ。
その象徴的な存在がルビオ国務長官だ。二人の情報筋によれば、長年にわたってベネズエラの政権交代を支持してきたルビオ国務長官が、マドゥロ政権に対する攻撃的な軍事・外交姿勢の主導的な推進役となっている。キューバに対しても同様の論理が働いており、ルビオ国務長官はカリブ海・ラテンアメリカ全域での強硬路線の設計者として機能している。
フロリダは今やトランプ陣営にとって「亡命政府」のような存在となっており、共和党にとって盤石の牙城だ。トランプが2020年に3ポイント差だったところ、2024年には10ポイント以上の差で勝利した州であり、その深い共和党の人材プールが政権に流れ込んでいる。
強硬姿勢の逆説――交渉の好機を逃すリスク
皮肉なことに、シカゴ国際問題評議会のシニア・フェロー、セシル・シェアは現在の状況を「非常な機会」と位置づける。経済改革と政治犯釈放への約束を引き出したうえで、2〜3年後の自由で公正な選挙を目標として設定することができれば、それはトランプにとっても大きな成果となりうる、というのが彼女の見立てだ。
しかし、キューバ指導部が権力の座から退くことを要求するならば、それは大きな障壁となる。キューバ側の立場からすれば、一国の政府が別の国の政府に行動様式を命じることに等しく、その要求には応じられないというのが現時点での姿勢だ。
対キューバ強硬姿勢は、歴史的トラウマ、フロリダの選挙政治、そして政権内の強硬派人脈という三つの力学が複合した産物だ。問題は、その力学が、目前に訪れた歴史的な関係正常化の機会をも潰しかねないという点にある。







コメント