私は派遣労働者や契約社員など非正規労働者として長年働いてきたが、正社員至上主義者の主張には常々疑問を感じていた。
彼らは非正規労働者がいかに差別されているかを強調し救済を唱えているが、「悲惨な非正規労働をなくすために正社員を増やすべきだ」という主張は全くもっておかしい。
なぜなら深刻な不況期に突入した現在の日本では多くの企業が業績悪化に陥り比較的低コストな非正規社員ですら雇用が困難な状況だ。
この状況で正社員を増やせば更に失業者が増えるのではないか?(こんな事は経済学者でなくても小学生でも分かりそうなものだが・・・)
格差や貧困に反対すると言いながら現状より更に格差や貧困が拡がる事が確実な方法を押し付けるのはおかしくないか?
非正規労働者の中には非正規労働が無くなれば失業する人も多いから自分がなれれば別だが、必ずしも正社員増加を好んでいる訳ではない。
それではなぜ上述の様な矛盾する論理がまかり通っているのか、私なりに推察する。
非正規労働が増えて最も困るのは収入的には中間層辺りだろう。人口でも中の下辺りが多い。
非正規労働者が自分たちと大差のない仕事をすれば企業は当然、高コストの正社員など使いたがらないので、そういう人たちにとっては非正規労働者は自分の立場を脅かす存在だ。
それに対して企業の経営者と最下層の立場から見てみよう。
よく聞く主張に「派遣労働は企業の立場から出来たものだから駄目だ」というものがあるが、それなら正規労働だって元々企業に都合が良いから好んで使われていたのだから同じ事だ。
極右と極左など対極の思想や立場にある人たちの意見や利害が部分的に一致する事はよくある。(例えば反米などがそうだ)
オーストラリアの白豪主義について中学で習った時に私は単なる人種差別だと思っていたが、恐らくそんな単純な話ではない。
低賃金で働く中国人移民に対して大衆層は「自分の生活が脅かされるのではないか」と警戒した人は多かったかもしれないが、逆に白人富裕層の中には積極的に受け入れたい人もいただろう。
派遣労働などの非正規労働についてよく企業の経営者から「多様な形態がある方が労働者にとっても好ましい」という主張を聞く。
これは自分たちの利益だけを考えて経営を正当化する事が目的なのだろうが、結果的には正しく貧困層のためになり得るので、あっていけない考え方ではない。
皮肉な事に弱者の立場を一方的に思いやる中途半端な人権活動家より自分の利益を最優先する経営者の方がよほど弱者のためになっている例が少なくない。
労働者の権利を極端に侵害しない限り極力、非正規労働を認めて拡充する事が労使双方の幸福に繋がると思う。
派遣問題について私のサイト ある作家のホームページ>社会科学>派遣労働問題を考える に詳述してあるので、興味のある方はそちらをご覧頂きたい。