忙しい現代人に必要なのは「暇になる勇気」

黒坂岳央です。

「現代人は忙しい」と自分で思いこんでいる。

だが数字上はそうではない。働き方改革の推進により、日本人の労働時間はこの20年で明らかに減少している。有給取得率も上昇し、リモートワークの普及で通勤時間も削減された。家事もロボット家電で省力化された。客観的に見れば、現代人の自由時間はむしろ増えているはずだ。

それなのに誰もが「忙しい忙しい」というのは、時間はスマホに注ぎ込んでいるからだ。

電車の中、食事中、就寝前、目が覚めた瞬間。スキマ時間という名の余白を、現代人は片っ端からスマホで埋め尽くす。本人は「情報収集」のつもりで実際には自分の人生と向き合うことからの逃避行動だ。行動しない言い訳のために自ら忙しくなっている。

そんな現代人は誰もが「自分の人生はこのままでいいのか」と惑っている。自分が本当にやりたいことは何か。残りの人生をどう使うのか。

そのような人生の迷いを断ち切るには「暇になる勇気」で解決できると筆者は考える。持論を述べたい。

Jirapong Manustrong/iStock

「忙しい」は行動しない言い訳

「忙しい」はあらゆる決断を先送りにする口実になる。

転職を考えているが、今は忙しいから後で。起業したいが、今は忙しいから落ち着いたら。勉強したいが、今は忙しいから時間ができたら。子供を育てる余裕がないのでまだ後で。

しかし、「忙しいから」は永遠に解消されない。なぜなら人は暇になれば次の忙しさを自ら作り出すからだ。そのため、問題は時間の不足ではなく、向き合う勇気の不足である。

暇になると困ることがある。このままでいいのかという問いに、正面から答えなければならなくなる。今の仕事が本当にやりたいことではないと気づくかもしれない。挑戦したいのに動けていない自分が見えるかもしれない。残り時間の少なさが見えるかもしれない。

多くの人は自分の人生と向き合わないためにわざわざ、自分で考えるための時間を潰している。

忙しい時に出た「やりたいこと」は間違い

忙しい状態で「やりたいこと」が浮かんだとすれば、それは信用しない方がいいと思っている。

激務の会社員が「年収が半分になってもいいから残業がない会社に行きたい」と思う。受験生が「受験勉強をしなくてもらくらく合格する大学へ行きたい」と思う。これらは本当にやりたいことではなく、今の苦痛から逃げたいという逃避欲求に過ぎない。

苦痛からの逃避は強力なエネルギーになるが、燃料としては短命だ。会社を辞めるまでは必死に頑張れたのに、辞めた瞬間に目標を失うし、受験に合格した途端に勉強しなくなる。その人を動かしていたのは「目指す力」ではなく「逃げる力」だったからだ。

逃げる力で始めたものは、逃げ切った瞬間に終わる。そして失ったことに気づく。人生で逃げることが必要な局面は存在するが、だからといって何もかも逃げ続けては何も得られない。

筆者は超激務の会社を転職する際、当時付き合っていた今の妻と相談し、「転職を考えるのは次の長期休みまで待とう。こういう人生が変わる意思決定は忙しい時にするべきではない」とアドバイスを受けてそのとおりにした。

結果として良かった。「給与が下がってもいいから、一刻も早く楽な会社にいきたい」と思っていたが、「年収アップかつ残業がない会社」へ転職ができた。でもこれは冷静なタイミングでじっくり考えたからだ。忙しい渦中で判断していたら結果は悪く変わっていただろう。

暇から見えるものが本物

では本当にやりたいことはどうすれば見つかるのか。その答えはシンプル、暇になった状態で何をするかを観察すればいい。

GWや年末年始の長期休暇に入ると、多くの人は気晴らしをする。旅行へ行ったり、ベッドの上で無限スマホタイムだ。

だが人生に惑う人がやるべき行動ではない。こういうまとまった暇な時間は「自分と向き合う時間」にするのだ。スマホの電源を切って何もしない。どこにも出かけない。部屋でじっと目を閉じて過ごすのだ。

これをすると初日は寝続けて休む人もいるだろう。だが2日目、3日目になれば暇になる。そこで本を読み始めたり、何かを作り始めたり、調べ物を始めたりする人がいる。別に誰かに命令されたわけではない。今すぐ金になるわけでもない。やらなくても困らない。なのにやっている。

そう、このような強制から解放された時に残る行動には、その人の本音が表れやすい。

誰にも強制されず、すぐにはお金にもならないのに、ついやってしまうこと。それこそがその人が人生をかけて取り組むべきことに最も近い。

筆者はビジネス記事を書き始めたのは会社員の仕事を辞める決断をして、心の余裕ができたタイミングだった。すぐお金になるから書いたのではなく、なんだか面白そうだからやってみようと思って始めた。これが人生を大きく変えて、いろんな仕事に派生した。

まさしく、暇なタイミングでついやってしまったことが人生を大きく変えたのだ。自分の経験からも、人生に迷うなら「まず暇になれ、考えるのはその後だ」といいたい。

暇になると本音が見える

人間の脳は目の前の問題を処理することには優れているが、人生全体を俯瞰して考えるには余白が必要だ。火事の最中に将来を考えられないのと同じで、認知負荷が高い状態では重要な問いは常に後回しになる。

脳は余白を与えられると、過去・現在・未来を統合して考え始める。思考家や経営者が「答えが見つかった瞬間」として散歩中や休暇中を挙げるのはこのためだ。重要な洞察は忙しさの中からではなく、余白の中から生まれる。

暇になって初めて封印していた「本当はやってみたかったこと」が湧き出す人がいる。子どもの頃に熱中していたこと。ずっと気になっていたのに忙しさを理由に先送りにしてきたこと。それらは認知負荷が高い状態では決して浮かんでこない。だからとにかく暇になることが重要なのだ。

暇になれ、と言われても簡単ではない。最初は落ち着かないだろう。何かを見たくなる。誰かと話したくなる。それ自体が、いかに自分自身と向き合うことを恐れているかの証拠だ。

だがその不快感を乗り越えた先に、本音がある。

暇になると、自分の人生への不満が見える。本当はやりたくない仕事だと気づく。挑戦したいのに動けていない自分が見える。残り時間の少なさが見える。暇になる勇気を持てる人だけが、自分の本音に辿り着けるのだ。

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。

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