デスクワークは、現代の標準的な働き方です。パソコンに向かい、会議もオンラインで済ませ、昼食も席で取る。便利になった一方で、私たちは1日の大半を椅子の上で過ごすようになりました。
問題は、この「座りっぱなし」が、単なる肩こりや腰痛の原因にとどまらない可能性があることです。長時間の座位や身体活動の不足は、大腸がん、とくに結腸がんのリスクと関連するという研究が相次いでいます。

大腸がんは日本人に多いがん
大腸がんは、いまや日本人にとってきわめて身近ながんです。国立がん研究センターは、大腸がんを「日本で一番罹患する人が多いがん」と説明しています。高齢化の影響もあり、今後さらに増加が見込まれています。
がん情報サービスによると、2023年に新たに大腸がんと診断された人は15万4039例、2024年の死亡数は5万4416人です。部位別に見ても、大腸がんは男女とも上位に入る主要ながんです。
もちろん、大腸がんの原因は一つではありません。飲酒、喫煙、肥満、赤肉・加工肉の摂取、糖尿病、遺伝的要因、加齢など、さまざまな要因が関係します。しかし、近年注目されているのが「座りすぎ」という生活習慣です。
座りっぱなしはなぜ危ないのか
長時間座っていると、消費エネルギーが少なくなり、肥満や内臓脂肪の蓄積につながりやすくなります。さらに、インスリン抵抗性、慢性炎症、腸の通過時間の延長なども、大腸がんリスクに関係すると考えられています。
英国の大規模研究であるUK Biobankを用いた研究では、身体活動量が多い人は結腸がんリスクが低く、テレビ視聴時間が長い人は結腸がんリスクが高い傾向が示されました。具体的には、1日5時間以上テレビを見る人は、1日1時間以下の人に比べて結腸がんリスクが高かったとされています。一方で、コンピューター使用時間については、同じような関連は確認されませんでした。
ここは注意が必要です。「パソコン作業そのものが発がん性を持つ」という話ではありません。問題は、長時間動かない生活、運動不足、間食、肥満、飲酒、睡眠不足などが重なりやすい生活スタイルにあります。
つまり、デスクワークが直接がんを作るというより、デスクワーク中心の生活が「がんになりやすい環境」をつくる可能性があるということです。
日本の職場も「座りすぎ社会」
かつての仕事は、歩く、運ぶ、立つ、移動するという動作を多く含んでいました。ところが現在は、ホワイトカラーだけでなく、会議、事務処理、営業、管理業務までパソコン上で完結するようになりました。
テレワークが広がったことで通勤すらなくなり、1日の歩数が大きく減った人も多いでしょう。以前なら駅まで歩き、階段を上り、社内を移動していました。その「ついでの運動」すら失われています。
国立がん研究センターの多目的コホート研究でも、職業性座位時間が長いほど、男性の結腸がんリスクが高くなる傾向がみられました。ただし、この関連は統計学的には有意ではなかったとされており、過度な断定は避けるべきです。
それでも、座りっぱなしの生活が健康に悪いことは、もはや疑いにくいと言えます。大腸がんだけでなく、肥満、糖尿病、心血管疾患、筋力低下、メンタル不調にもつながります。
「運動しているから大丈夫」とは限らない
よくある誤解は、「週末にジムへ行っているから、平日は座りっぱなしでも大丈夫」というものです。
もちろん運動習慣は重要です。しかし、1日8時間、10時間と座り続ける生活の悪影響を、週末の運動だけで完全に帳消しにできるとは限りません。重要なのは、まとまった運動だけでなく、日中にこまめに立ち上がり、歩き、身体を動かすことです。
たとえば、次のような工夫は現実的です。
・1時間に1回は立ち上がる
・電話やオンライン会議の一部は立って行う
・昼食後に10分歩く
・エレベーターではなく階段を使う
・通勤時に一駅分歩く
・自宅勤務の日ほど意識して外に出る
・座ったままの会議を減らす
大げさな運動でなくてもよいのです。問題は、何時間も連続して座り続けることです。
大腸がん対策は「座らない」だけでは足りない
ただし、「立てば大腸がんにならない」という単純な話でもありません。大腸がん対策には、生活習慣全体の見直しが必要です。
飲酒を控える。禁煙する。体重を管理する。食物繊維を取る。加工肉や過度な赤肉摂取に偏らない。睡眠を確保する。そして、定期的に検診を受けることです。
とくに大腸がんは、早期発見が重要ながんです。国立がん研究センターも、日本では検診の全体像の把握や受診率に課題があると指摘しています。
デスクワーク中心の人ほど、自分は健康診断で問題がなければ大丈夫と思いがちです。しかし、便潜血検査や大腸内視鏡検査を含め、年齢やリスクに応じた検診を受けることが重要です。
会社も「座りすぎ対策」を考えるべき
これは個人の問題だけではありません。企業の働き方設計の問題でもあります。
長時間座りっぱなしの職場は、従業員の健康リスクを高めます。健康経営を掲げるなら、福利厚生としてジム補助を出すだけでなく、日常の業務そのものを動ける設計に変えるべきです。
スタンディングデスク、短時間会議、歩きながらの1on1、休憩時間の確保、オフィス内の動線設計など、できることは多くあります。座りっぱなしを美徳とする職場文化を改める必要があります。
長時間机に張りついている人を「まじめ」と評価する時代は終わりました。動かない働き方は、生産性だけでなく健康も損ないます。
デスクワークは「新しい生活習慣病」の入口
デスクワークそのものが悪いわけではありません。知的労働や事務作業は社会に不可欠です。しかし、人間の身体は、1日中椅子に固定されるようにはできていません。
大腸がんは、食生活の欧米化や高齢化だけでなく、身体を動かさない現代生活とも関係している可能性があります。記事が指摘するように、デスクワーク中心の生活は、見えにくい健康リスクを抱えています。
「座る時間を減らす」ことは、最も安く、誰でも始められる予防策です。
仕事の合間に立つ。少し歩く。階段を使う。昼休みに外へ出る。たったそれだけでも、何年も積み重なれば大きな差になります。
デスクワークは避けられません。しかし、座りっぱなしは避けられます。大腸がん対策は、まず椅子から立ち上がることから始まります。







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