いまハリウッドで最も嫌われている「女優」は、スキャンダルを起こしたわけでも、撮影現場でわがままを言ったわけでもない。そもそも人間ですらない。

The Guardian
生成AIによって作られたティリー・ノーウッドが、初の長編映画『Misaligned』で主役を務めることになった。もっとも、「出演」や「演技」という言葉を使ってよいのかについても、すでに論争になっている。
永遠に若く、文句も言わない女優
ティリーを生み出したのは、ロンドンを拠点とする制作会社Particle6である。同社は『Misaligned』を、人間の映画人とAI専門家が共同で制作する「ハイブリッド映画」と説明している。
物語の舞台はクラウド上の仮想世界「ティリーバース」。身体も子ども時代も人生経験もないティリーが、闇サイトから現れたボットに誘惑され、人間的な欲望や野心、さらには羞恥心まで獲得していくという。
制作側は、人間の創造性をAIが支援する実験だと強調する。しかし映画会社にとっての魅力は、もっと身もふたもない。AI女優は年を取らず、病気にもならず、出演料の値上げも要求しない。労働組合に加入してストライキを起こすことも、監督の指示に反発することもない。つまり、非常に「経営者に優しい女優」なのである。

ハリウッド俳優が猛反発
当然ながら、生身の俳優たちは歓迎していない。エミリー・ブラントはティリーを見て「本当に怖い」と述べ、ソフィー・ターナーは「結構です」と拒絶。メリッサ・バレラは、ティリーと契約する芸能事務所を俳優がボイコットすべきだと主張した。
全米映画俳優組合SAG-AFTRAも、ティリーは俳優ではなく、コンピューターが生成したキャラクターにすぎないと断言した。同組合は、こうした合成人物が多数の俳優の仕事を許可や報酬なしに学習して作られていると批判し、人間の演技を代替することに反対している。
これに対し、制作者のエリーン・ファン・デル・フェルデン氏は、ティリーは人間の代用品ではなく「芸術作品」だと反論している。CGで作られたキャラクターやデジタルアバターと同じだという理屈である。

嫌われているのはティリーではない
もっとも、ティリー本人を嫌うことには意味がない。彼女には感情も意思もなく、批判されても傷つかないからだ。
ハリウッドが本当に恐れているのは、ティリーというキャラクターではない。俳優を人格のある労働者ではなく、企業が所有し、自由に修正・複製できる「映像素材」に変えるビジネスモデルである。
ティリーがスターとして成功するかどうかは分からない。現在の映像には不自然さも残り、観客が人間の俳優と同じように感情移入するとも限らない。
しかし技術は確実に進歩する。ティリー・ノーウッドは、完成されたAI女優というより、ハリウッドがこれから直面する労働問題の予告編なのである。







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